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今日の筆洗

2021年04月06日 | Weblog
 映画の脚本は概(おおむ)ね三幕で構成される。米脚本家の教えによれば、第一幕は「状況設定」で主人公が置かれている立場などを示す▼第二幕は「葛藤」。ここでは主人公の目標の前に立ちふさがる敵との対立が描かれる。第三幕は「解決」で、主人公は成功するのか失敗するのかの結末である▼この物語の第一幕では若く、健康で新記録を立て続けに出す水泳選手が描かれる。そして第二幕は突然、選手を襲った白血病との闘いであり、一線に復帰するための血のにじむような努力である▼この日曜日に、われわれが目撃したのは圧巻の第三幕である。過酷な第二幕を乗り越えた見事な泳ぎに目を見張り、歓声を抑えきれなかった人は多いだろう。池江璃花子選手。女子100メートルバタフライ決勝で優勝し、400メートルメドレーリレーの選手として東京五輪に出場することが内定した▼よくある映画ではない。流した本物の汗と涙を思う。復帰後、初めてバタフライを泳いだ時はおぼれかけたと聞く。できたはずのことができない。それは最初からできない人以上に耐えがたい経験ではなかったか▼まだ「七、八分咲き」という池江さんの言葉と二十歳という年齢にこの「映画」が終わっていないことに気づく。実はここまでが第一幕。「努力すれば報われる」。つい疑いがちなその言葉をもう一度、信じる気にさせてくれる物語はなお続く。