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今日の筆洗

2016年06月28日 | Weblog

 「呪われた町」「スタンド・バイ・ミー」などの米作家スティーブン・キングさんが小説を書き始めたのは小学校低学年だそうだ。漫画からせりふ部分を抜き出し、ところどころにもっともらしい説明を加える。小説らしきものが書けた▼母親に見せると、最初は天才かと喜んだが、書き写しと分かるとがっかりした。「自分で書きなさい。こんなのくだらないわ。おまえならもっといいものが書けるはずよ」▼今度は自分で書いた。わずか四ページ。母親は「これなら本にできる」とほめた。その後の大ベストセラー作家が人生でもっとも幸せを感じた言葉だそうである。以来、ずっと自分で書いている。作家という「その道」に入ったきっかけである▼別の子どもの話である。岐阜市の小学六年、船渡翔琉(ふなとかける)さん。二年前に発掘した化石は中生代のネズミに似た哺乳類の骨格化石であることが判明した▼中生代といえば、恐竜が闊歩(かっぽ)する時代。小型哺乳類の化石は珍しいそうで、しかも、これほど全身がはっきり分かる化石は国内初。お手柄である▼発見した化石は確かに宝物。だが少年はもう一つ、もっと大きな別の宝物を手に入れたか。発見以来、将来の夢を恐竜の研究者と見定めたそうである。「その道」に進みたいという幸運なきっかけを発見した。すべての子に正しいきっかけとめぐり合ってもらいたい。夏休みも近い。


昨日の筆洗

2016年06月27日 | Weblog

 十代の女の子がインターネットの動画サイトで、あるロックバンドを発見した。見たことがないので、どうやら新人らしいのだが、実にカッコいい▼ハンサムだし、第一、こんなに刺激的な音楽を聴いたことがない。女の子はすっかり夢中になって、動画のコメント欄にこう書き込んだ。「この新人バンドについてもっと教えてください」▼この実話のオチはこうである。女の子を魅了したのは、「新人バンド」ではなく、ビートルズだった。約半世紀前の四人の演奏映像をたまたま見て、新しいと感じたらしい。今なお若者を魅了し続ける音。古いカブトムシファンなら「そうだろう」と胸を張りたくなる話かもしれない▼一九六六年六月の来日から五十年である。武道館で黄色い歓声を上げていたお嬢さんが当時二十歳だったとすれば、現在は七十歳である▼当たり前の計算だが、その方が時代を経て今なお「デイ・トリッパー」を聴き、子どもやお孫さんに愛と平和の音楽について語っていると想像すれば、四人の音楽の大きさが分かるだろう▼若いファンはおばあちゃんやおじいちゃんに聞くといい。ひょっとしたら長年のファンで「武道館ではポールのマイクが振動で動いて大変だった」なんて教えてくれるかもしれぬ。ああ見えて、不良になると叱られても若者の情熱の音楽を愛した、わが国最初のロック世代なのである。


今日の筆洗

2016年06月26日 | Weblog

 足を高々と上げながら歩く男がそのまま、崖から転落していく。米雑誌「ニューヨーカー」の最新号の表紙にそんな不思議なイラストが描かれていた。もちろんEU離脱を選択した英国の国民投票への皮肉である▼うまい題材で、この崖から平然と落ちていく男は、英国のコメディー集団モンティ・パイソンによる有名なスケッチ(ギャグ)の「バカ歩き省」の官僚。EU離脱の選択を気付かぬまま死に向かう歩き方とこき下ろしている▼もっとも、EU離脱を支持する人びとには、この種の皮肉や警告もまったく効果がなかったのは確かだ。今回の投票結果を残留派による「プロジェクト・フィアー」(恐怖作戦)の失敗とする分析が英メディアなどに出ている▼EUから離脱すればGDPは降下し失業率は悪化する。英国は貧乏になる。日本人が聞いても震える警告だが、離脱派にはそれが怖くない▼なぜならその恐怖は自分たちの生活を顧みることのなかったエリートという敵の宣伝にしか聞こえぬから信じるはずがない。異なる意見への不信。敵意。英国の分裂はそこまで悪化していたか。離脱派には移民に職を奪われるという恐怖の方が排外的であろうと現実的に聞こえてしまう▼さて、「バカ歩き」の行進は欧州全土や米国へ。日本? 互いに聞く耳持たぬ意見対立という意味ならばとうに始まっているか。脅しではなく。