「呪われた町」「スタンド・バイ・ミー」などの米作家スティーブン・キングさんが小説を書き始めたのは小学校低学年だそうだ。漫画からせりふ部分を抜き出し、ところどころにもっともらしい説明を加える。小説らしきものが書けた▼母親に見せると、最初は天才かと喜んだが、書き写しと分かるとがっかりした。「自分で書きなさい。こんなのくだらないわ。おまえならもっといいものが書けるはずよ」▼今度は自分で書いた。わずか四ページ。母親は「これなら本にできる」とほめた。その後の大ベストセラー作家が人生でもっとも幸せを感じた言葉だそうである。以来、ずっと自分で書いている。作家という「その道」に入ったきっかけである▼別の子どもの話である。岐阜市の小学六年、船渡翔琉(ふなとかける)さん。二年前に発掘した化石は中生代のネズミに似た哺乳類の骨格化石であることが判明した▼中生代といえば、恐竜が闊歩(かっぽ)する時代。小型哺乳類の化石は珍しいそうで、しかも、これほど全身がはっきり分かる化石は国内初。お手柄である▼発見した化石は確かに宝物。だが少年はもう一つ、もっと大きな別の宝物を手に入れたか。発見以来、将来の夢を恐竜の研究者と見定めたそうである。「その道」に進みたいという幸運なきっかけを発見した。すべての子に正しいきっかけとめぐり合ってもらいたい。夏休みも近い。