あっという間に一ヵ月たってしまいました。 一週間に一、二回程度の更新と書きましたが、一ヵ月に訂正させてください。 申し訳ありません。
先日、安倍晋三氏が自民党新総裁に就任した。 彼は対外、対内政策ともに私の考えに最も近い人なので、良かったと思っている。 今日はとりあえず、対内政策の目玉である『リフレ』、金融緩和を少し論じたい。
下卑た言い方をすれば、ジャンジャン万札を刷ればデフレは終わる。 『カネが少なくモノが余っているのだから、カネを増やせばいい』という論理は一般論としては正しい。 程度と場合分けによっては大きな問題もあるが、20年にも及ぶデフレ政策が成長につながらなかった以上、180度近い政策転換は必要だろう。
何度も言うように、デフレは、公務員、大企業正規社員のような給料が下がらない人たちにとっては天国だった。 一方、物価以上に給料が下がり、倒産失業リスクのある中小企業の経営者、従業員、非正規社員にとっては、地獄のような時代だった。 しかし、それも間もなく終わる。
ただし、絶対条件は借金を抱えていないことである。
『ハイパー・インフレが来る』と騒いでいる人も多いが、年率の物価上昇率が1000%とか10000%とかというレベルの話しである。 歴史上ハイパー・インフレが発生したのは常に大規模な戦争後で、生産設備が破壊しつくされたときだけだった。 今の日本では絶対にありえない。 ただし、年率数十パーセント程度のギャロップ・インフレの可能性は十分にあるが、実体経済への負の影響としてもっとも懸念されるのは、インフレよりも金利上昇である。
リフレ政策で十中八九、金利は上昇する。 とくに、名目金利が上昇する。 金融緩和とは、おカネや国債などペーパーマネーの量を増やす代わりに質(価値)を下げることだから、お土産(つまり利息)を多くしないと買い手がつかないからだ。 日銀引き受け期待で国債の人気が高まり、短期的には下がる可能性もあるが、中長期的には上昇していく。
インフレ率と相殺される実質金利はあまり上昇しないだろうが、現実の経済活動にとって重要なのは名目である。 実質金利は上昇しないから問題がないような話をしている識者も多いが、輸入学問の翻訳と解釈ばかりをしている人たちばかりだからしょうがない。 『『実質』という名のヴァーチャル(その1)』シリーズで論じたように、会社を経営し、給料を貰って働いているほとんどの人たちにとって、実質こそヴァーチャルなのである。
実質金利が全く上昇しなくても、名目金利が上昇すれば支払い利息、債務返済額は増えていく。 『実質金利は上昇していないから返済額は増やさない』と言っても、銀行が聞き入れるはずがない。 債務契約を長期の固定金利で結んでいればいいが、仮にそうだとしても、銀行は変動金利への変更を迫るだろう。 そうしなければ、自分たちが損をするからだ。
借金の多い会社は次々に倒産し、公務員でも住宅ローンを抱えていれば自己破産する破目になるかもしれない。 銀行の不良債権処理のように、ゼロ金利のデフレにこそ債務者(社)を減らす政策チャンスだったのに、銀行以外は先送りしてしまった(彼らの救済案は次回以降論じたい)。
名目金利が上昇しても大丈夫な債務者(つまり、実質金利の考え方に適合する人)は、債務と同時にカネを生む資産も所有している人だけである。 借金の利払いが増えても、インフレで増加する株式配当、預貯金金利収入、不動産収入などがあれば、出ていくおカネと入ってくるおカネが相殺されるからだ。
ところが、現実の為替相場、銀行金利のことを、経済学では名目と呼ぶ。 一方、現実の価格から理論的に計算されたものを実質と呼ぶ。
理由は、すべての経済理論が欧米の学問だからだ。 ヨーロッパは歴史上何度も、ハイパー・インフレを経験している。 第一次大戦に負けたドイツでは、一年間で物価が一兆倍になったこともある。 だから現実の市場価格を名目と呼び、計算上の価格を実質と呼ぶようになった。 ちなみに、敗戦後の日本の物価上昇は、最高で50倍程度である。
そうこうしているうちに、安倍総裁のリフレ主張もだいぶ腰砕けになってきた。 金利上昇による倒産、自己破産激増が心配になったのかな? 靖国参拝の前例もあるし・・・・・。
急激な方向転換につよい遠心力が加わるように、政策転換には様々な痛みが生じるだろうが、今のままでは日本全体が沈没してしまう。
読了ありがとうございました。 今日はここまでにします。
ところで、安倍さんの財政・金融政策へのマスコミのバッシングが激しいですね。
「海外旅行を予定していたOLが円安になって困っている」
「インフレになると物が安く買えなくなり、庶民の生活が苦しくなる」 といった幼稚な議論ばかりですが、情報弱者には十分なインパクトがあります。
リフレ論者はテレビから締め出されているようだし、デフレ脱却がよほど嫌な人たちがいるのですね。