永崎士道の建設業徒然なるままに、時々国防とグルメも

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私自身建設会社の社長だったので、
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超入門経済学(その9);コメントへの返答

2012-07-28 | 超入門経済学

前々回のリフレ派と反リフレ派二つのモデルでは、インフレ・デフレを考えるときに重要な要因をひとつ省略しています。 それは『貨幣の流通速度』というものです。 貨幣の流通速度とは、貨幣が一定期間内にどれだけ多くの人手を渡っているか、を表す尺度です。 一般に市場で取引されるモノの価格合計は『モノの単価×モノの数量=貨幣の数量×貨幣の流通速度』のようにあらわされます(ただし、あくまでも定性的な数式関係です。 定性的にはだいたい一致するだろうということで、左辺と右辺イコールで結んでいるだけです)。

もし、無限大に近い量のマネーがあっても、誰も使わなければ流通速度はゼロになり、物々交換を除けば市場取引は停止していることになります。 だから、インフレ・デフレを議論するときには、マネーの総量も重要ですが、流通速度も非常に重要なのです。

では、流通速度が速いとはどういうことでしょうか。 それは、お金が次から次に人の手を渡っていることです。 次々に人の手を渡るのは、人々がお金を手元に置いておきたくないからです。 どういう時でしょう。 どんどん貨幣価値が下がっていくとき、つまりインフレの時です。 インフレのときはみんなどんどんお金をモノに代えようとします。 ところがその結果、ますます流通速度が速くなり、インフレが悪化してしまいます。 デフレの時は全く逆に、みんながお金を手元に保管しておこうとします。 貨幣価値がどんどん高くなるからです。 その結果、流通速度はどんどん遅くなり、貨幣の総量があっても人々が手放さないので、市場の経済取引はどんどん縮小していき景気が悪くなります。

 しかし、上述の数式は、あくまでも定性的な数式関係です。 定量的には『左辺と右辺が完全にイコールになることはまずありません』。 『左辺>右辺』(デフレ基調)だったり、『左辺<右辺』(インフレ基調)だったりします。 デフレからインフレ、あるいはインフレからデフレに変わる一時だけイコールになるだけでしょう。 

前回説明したように、定量的数式関係を確定するときこそ専門家の意見が分かれます。 しかも、経済データの正確さは、理系諸学が研究室で手に入れるものと比べ、非常に雑です。 学者、行政官、政治家らの経験と感覚、人間関係そして政治力が入り込む余地が存分にあります。 4項目の中で、ある程度正確に測定できるのは、貨幣の数量だけでしょう。 あとは、『おそらくこの数字が正しいだろう』という推測値に近いデータばかりです。 だから、民間のほとんどが不況、デフレだと思っているのに、いまだに当局は『景気は緩やかながら回復基調にある』などと頓珍漢な発表をするのです。

しかも、専門家ほど複雑精緻なモデルで経済を考えています。 しかし、入力されるデータ、係数、指数確定方法が雑では、逆効果です。 精巧な機械ほど、雑に扱うとすぐに壊れます。 作りがシンプルなディーゼルエンジンなら多少灯油を入れても大丈夫ですが、ハイオク仕様のガソリンエンジンに灯油など入れたら一発で壊れます。

日本の行政当局者の論理力(定性的)、記憶力、勤勉性、正直さなどが世界トップであることに全く異論はありません。 当然、考えている経済モデルの精緻性も世界トップでしょう。 しかし、先進国で唯一、税金で終身雇用された人たちです。 彼らの経験、感覚、人間関係は、民間と隔絶しています。 そしてさらには、国内では政治家さえコントロールする政治力を持っている一方、アメリカの政治力には全く無力です。 

考えているモデルが精緻巧妙だからこそ、民間から隔絶した経験、感覚、人間関係、政治力を入力すると、世間の感覚とは全くズレた頓珍漢な答えが出力されてきます。 世間知らずな優秀な者だからこそ、精緻巧妙かつ論理合理的に間違います。 今のデフレ不況に対する正解は、行政当局専門家の中途半端に精巧なモデル(反リフレ派)ではなく、庶民感覚の単純なモデル(リフレ派)だと私は思っています。

時空間を限定した理系諸学でも、学者の経験、感覚、政治力などが入り込む余地があります。 まして、文系諸学が自然科学をまねて客観的真実を認識できるなどと考えるのは思いあがり、勘違いにもほどがあります。 どんなに精巧なモデルでも、作るのは人間です。 現実をそのまま再現することは不可能です。 かならず現実に比べて中途半端なものにしかなりません。 だから理系では、何度も何度もモデルのシュミレーション結果を現実と照合検証し、改良改善をしていくのです。 

だが、検証不能は文系諸学にはできません。 しかも、文系エリートたちに、政策失敗の責任を取らせる制度も日本にはありません。 だから、いつまでたっても自分たちの間違いに気がつかないし、つかないふりをしても馘にならないし、同じ失敗を繰り返すのです。

当局の経済政策が、庶民感覚と比較して頓珍漢な理由がお分かりいただけたでしょうか。

 補足;前々回の反リフレ派モデルの説明文『俗な言い方をすると、もっとも楽して稼ぐ方法を考えているのです。』の次に、『貨幣錯覚が存在しないモデルでは、生産者もマネー量が二倍に増えたことを知っているので、生産量を増やさず単価を二倍にするという最も楽な方法を選択します。』を入れて読むともっと分かりやすいと思います。

やっと返答、一応終わりました。 おやすみなさい。


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