保養施設で出会った人達 の続きです。
こんなおばちゃんがいました。彼女は身体障害者でしたので、なんでその保養施設にいるのか
その時までわかりませんでした。その施設は、身体ではなく精神の保養が必要な人達が来る所なのです。
そのおばちゃんは、背が小さくていつも大人しく従順に頭を垂れていました。食事の時、発砲スチロール容器に入った納豆を
自分で開けてしょう油を上手にかけて混ぜるという細かな動作ができないで、でも誰にも言えなくて、
私が気づいて代わりにしたら、「ありがとうございます」と言われました。
その台詞は常識的には普通のことでも、自分でできないことを逐一「ありがとうございます」と言わないといけない彼女は、一生に何回それを言わないといけないのだろうと思いました。寝返りを自分で打てない人もいます。
その時を機におばちゃんは、食事中とかに私とふと目が合うと、見たこともない笑顔を向けてこられ、勿論こっちも微笑み返しますが、あまりの可愛らしさに私は戸惑っていました。一度心を許すとこんなになるんだと思いました。あの笑顔はずっと鮮明に焼き付いています。
ある昼下がり、みんなが談話する円テーブルで、私は本を読んでいると、
斜め向かいに座っているそのおばちゃんの方から「ザン!…ザン!! ザン!!!ザン!!!」という
奇妙な音がして、円テーブルがギシギシ揺れました。見ると、おばちゃんが自分の手の甲に
鉛筆を強く突き刺していました。すぐに止めに行くと、おばちゃんは尚強い力で、
自分の手に突き刺し続けようとしました。このおばちゃんのものすごい力にびっくりしました。
私は身体に障害はないですが、あんなに力は強くないです。私の力が3だとすると彼女の力は10ぐらいありました。
私は彼女の手の甲を手で覆い、片方の鉛筆を握っている手も握りましたが、彼女は振り切って続けようとしました。
でも私の手をモロ突き刺さないように彼女が制御したのを私は確かに感じました…
もし制御してなかったら、私の左手に鉛筆がザン!!!と突き刺さっていたでしょう。力の差は歴然でしたから。
その後彼女の背中をずっとさすっていました。心が不安で仕方ない人や、激しい感情に襲われている
人は、背中をさすってあげるのがいいです。私もそうされると随分といいですから。子どもも大人も関係ないです。
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あの後、思ったことは、おばちゃんは1人だったらあの自傷行為をしていなかったのではないかということです。
気づいて欲しくて、やったように思いました。