ハリソンさんはカノ紳士 ーフランス通過編 ー(後半)

今は昔の18世紀欧州が舞台の歴史大河ロマン。

牧歌劇「アミンタ」でも誤報が恋人達の死を招く

2023年04月23日 | 各話末エッセイ
【各話末エッセイ⑤の3】

 16世紀イタリアの詩人タッソが
後の17〜18世紀にヘンデル他の
作曲家によるオペラの原作となり重宝される
「エルサレム解放」執筆の合間に、
貴族からの依頼で作り、
大ヒットした牧歌劇「アミンタ」の続きー。

 獣神サテュロスの毒牙と
諦めの悪いアミンタから逃れたシルヴィア。
身繕いを済ますと狩猟女子の集いへと
予定通り参加するのでした。

 死のうとするアミンタを
ダーフネが阻止し、叱咤激励するのでしたが、
そこにもたらされたのは
狩りの集いの参加者ネリーナからの

 「シルヴィア、狼に襲われ死す!」
の悲報でした。

 そして、シルヴィア追跡を
断念したティルシが戻って来た時、
アミンタは絶望して走り去った後。
ダーフネもシルヴィアの情報収集に
行ってしまっていませんでした。




 アミンタはエルガストに証人を頼み、
崖から飛び降りてしまいました。

 「ロミジュリ」のロミオといい、
この話の主人公アミンタといい、
何てせっかちな。

 ロミオは側に止める人が無かったけど、
こっちではダーフネが「本当かどうか
ちゃんと見極めるまで待った方がいい」

って言ってんのにさ〜!

 どーせ人の話を聞かんのなら
「シルヴィアが死んだのは嘘だ〜!!」
ってなればいい所を、

ーそういうセリフは無かったのでした。





 実はシルヴィアの死は誤報でした。
ダーフネとの再会後、シルヴィアは
エルガストからアミンタの自殺を知り、
悲しみの中でダーフネと遺体の捜索へと
向かうのでしたがー。

 これ、②でも書いたように
貴族の夏の宴会が初演の場。
モヤるバッドエンド劇なんて
上演するもんなんだろうか?

 シェイクスピアの「夏の夜の夢」では
アテネ大公の結婚式に「ピラマスとシスビー」
の悲恋劇が上演されてるけど、
おとぼけキャラ揃いの役者さん達と
同時辛口批評をする見学者との相乗効果で
破茶滅茶ラストになってしまうしね。










牧歌劇「アミンタ」ってルネッサンスのジェットコースタードラマ?

2023年04月16日 | 各話末エッセイ
【各話末エッセイ⑤の2】

 16世紀イタリアの詩人タッソ作の
牧歌劇「アミンタ」。
この後、
現代感覚では「お茶の間が凍りつく展開」
となります。

 この話、近々大河ドラマでも描かれる
織田信長が室町幕府を滅ぼした年
イタリアの貴族の宴会で上演された劇作品なのですが、
全衝撃シーンは
「目撃者キャラが説明の語りで済ませている」

とはいえ、
イラストみたいにはならなかったんでしょうか?




 アミンタの兄貴分ティルシが
シルヴィアの姉貴分ダーフネの
協賛を得て用意したお膳立てに対し、
アミンタは釈然とせず、
気乗りもしないまま、
シルヴィアのお気に入りの場所へと
行ってみるとーー。

   ∩_, ._∩          
  ( ゜Д ° ) ガシャーン!   
  (つ O.  ₋₋
  と₋₋)₋)(₋₋()、;o:。 ドパツ 
          °*·:.。 

  懐かし杉な表現 ⬆    
 (2004年頃の作者不詳のAAより) 


 全裸で…彼女自身の髪で
木に縛られたシルヴィアが!





 シルヴィアはアミンタのみならず、
獣神サテュロスにも肘鉄食らわしていたのでした。
その復讐として、こんな目に遭っていたのです。

      ∩-∩
   ーー(||#°Д°||) ー   ∧
   三 (     )三  Σえ" >
   ➖ (_)(_)➖   ∨
   T      T

 (同じく2004年頃の作者不詳のAAより)

 強姦殺人されかねなかった所を危機一髪、
アミンタとティルシが駆けつけ、
サテュロスは追っ払われました。

 アミンタはシルヴィアに失礼を侘びながら
彼女の髪の縄を解いてあげるのですがー。
「まぁ!ありがとう♡」なんて
電車男展開とはなりませんでした。

 それどころか、
シルヴィアは逃げて行ってしまい、
続くは「ロミジュリ展開」と
なってしまうのです。



牧歌劇「アミンタ」ってルネッサンスのラブコメ?

2023年04月10日 | 各話末エッセイ
【各話末エッセイ⑤の1】

 クレールさんが連れて来た白わんこ、
名前をティルシといいますが、
16世紀イタリアの詩人トルクァート・タッソ作の
「アミンタ」という劇の登場人物から取られています。

 この牧歌劇「アミンタ」は
タッソが仕えていたフェラーラ公国宮廷の
人々の前で初演されて大好評を博し、
その後イタリア全土へ、
更にはヨーロッパ中にも広まって行きました。



 牧人のアミンタと
狩りガールのシルヴィアは
幼馴染でいつも一緒に遊んでいました。
やがてアミンタはシルヴィアを
恋するようになります。

 ある時、二人がフィッリという少女と
木陰で休んでいた時、
フィッリが蜂に顔を刺されてしまいます。

 シルヴィアがフィッリの顔の傷に
唇を近付けて呪文を唱えると
痛みが消えてしまいました。

 それを見ていたアミンタが
自分の唇も蜂に刺されてしまったと
嘘を付いてシルヴィアからの手当を
求め、恋の傷を深めてしまうのです。

 思慕の痛みに耐えかね、
アミンタはシルヴィアに告白しますが、
彼女から避けられるようになり、
3年の月日が経過します。



 アミンタにはティルシ、
シルヴィアにはダーフネという
頼りになる兄貴分/姉貴分がいました。

 この二人が間に入って、
何とかアミンタの恋を実らせようと
策を練り、ティルシがアミンタに
決行をすすめるという、
ここまではラブコメっぽい流れ
行ってますが…。

 この後、トンデモ級の
大波乱が巻き起こります。


 途中にはダーフネとシルヴィアの恋バナも
ありますが、昔の内館牧子ドラマ(「ひらり」とかの
女子同士の)会話みたい…。😅


 それから、この話って
「ダフニスとクロエ」(ロンゴス作、私もシャガールの
挿絵みたいな絵が描けたらな〜)
「愛の妖精」(ジョルジュ・サンド作←男装の麗人で
ショパンの恋人だった人)
「潮騒」(三島由紀夫作、「その火を飛び越えてこい」
が出て来て「あまちゃん」にも繋がる)

ーの系統に含まれるっぽい雰囲気がある。

 クレールさんとこのティルシは
よく薬を買いに来た男性客が
亡くなった時に引き取った雑種犬で、
名前はその人が付けたようです。








ウイリアム&ハリー王子だって自分の子にこんな事言わんだろ?!

2022年05月01日 | 各話末エッセイ
【各話末エッセイ④-2】



 ヘンリー・フィールディング作「トム・ジョーンズ」
7巻第3章より

 原作者の名前やタイトルからすると、
「ブリジット・ジョーンズ」の姉弟編か、
冒険物の要素もあると聞いたりすると
「インディ・ジョーンズ」の御先祖様の話
か?と思ってしまうような、
現代人にとっては読む前からすでに
実に紛らわしい
18世紀英国の文学作品。

 英語でのタイトルは
“ The history of Tom Jones , a foundling ”
「捨児トム・ジョウンズ物語」
と朱牟田夏雄氏は岩波文庫で翻訳しています。

 ちなみに、この方(故人)は
「トリストラム・シャンディ」も
全訳しているのでした。

 現在では差別語アリになるかもしれないし、
18世紀風の説明調の長いタイトルでは無く、
主人公の名前そのままの「トム・ジョーンズ」か
ブリジット・ジョーンズの「ブリジョン」に
倣った省略形「トムジョン」
更に省略して「TJ」とでも
呼ばれてるんでしょっかね?

 英国の田舎紳士の家で育った主人公のトム。
近所の幼馴染ソファイアと恋仲になりますが、
ソファイアには、トムの養家の跡取りで
当主の甥であるブライフィルとの
婚約話が持ち上がってしまいます。

 ソファイアは必死に拒否しますが、
父親や父親の妹である叔母が
「そんな事絶対許さない!」
と脅すのです。

 その時の叔母の言い草が上記の如しで、
現代の読者からすると、
「田舎の金持ちの家ってくらいで何言ってんだ?!」
「はぁ?」
って感じ。

 今時、王室や皇室の人達でさえ、
結婚したい時に結婚したい人と
結婚できてる時代には奇々怪々の意味不明
でしかないって感じなんですが…。

 しかも叔母さん、
自分はキャリアウーマンの走りみたいな人。
「宮中に出入りしていた」とあるので、
大奥の御末みたいなスタッフ系なのか、
お局様(貴族の夫人や寵姫)付の侍従かは
ハッキリしないけれども、
そういう所にいても恥ずかしくは無い程度の、
教養を付けていたようです。

 で、未婚だと思われる
(ダンナ登場の記憶が無い、こういう場合、
外観は穏やかな人物で、妻の行き過ぎを
たしなめるシーンがあったりするものだが、
その記憶も無い)のに、
姪っ子には結婚を無理強いしてるんですよっ!

 父親も紳士階級とはいえ、
豪放磊落、粗野という印象すら与える人で、
娘に対して数々の荒々しく、
現代だったら完全アウトな
セクハラ言語を吐きまくるのでした。

 こんな調子で、
某牛丼チェーン店の重役が
「伝統を正しく受け継ぐ源」的言いっぷりで、
ラストまで突っ走っていました。

 ソファイアはこんな状況にもめげず、
彼女との事以外にも問題があって
養家を出て旅烏のトムを追い、
家出してしまいます。
二人とも最後はロンドンに辿り着くのですが、
トムのあまりの破天荒ぶりを知ったソファイアは
愛想を尽かしてしまいました。

 更にトムは事件に巻き込まれ
逮捕されてしまうし、
「どーやって回収できるの?」という所まで
話が行ってしまいますが――。

 でも、作者フィールディング氏が
「ダフニスとクロエ」が大好きなだけあってか?
トムの衝撃の出生の秘密が明らかとなり、
大団円を迎えるのでした。

 とはいえ、私には少し心配な事が…。
ソファイアさん、結局お父さんと同じ様な
男性が好きなんじゃないか…と?

 でも、少女時代のアンジェラさんと
姿がよく似ているので、
結局は女帝化して夫を尻に敷いていたのでは?
…とも思えるのでした。








昔々、少女が故郷を捨てロシアで皇帝になりました。

2022年03月23日 | 各話末エッセイ
【各話末エッセイ④-1】

 第25話ラストに書いた予定を変更して
お送りいたします。

 ロシア大統領プーチン氏が
「17−18世紀ロシアの歴史を学んでいる内に
ロシア大帝国復活の妄想を膨らませてしまった」

――という話を聞き、
ウチにもこーゆー本があるのを
思い出しました。

 その本とは
劇画版「女帝エカテリーナ」

 原作はロシア革命の時代にフランスに渡り、
当地で執筆し続けた歴史小説家アンリ・トロワイヤ氏。
そして漫画は、あの「ベルサイユのばら」作者の
池田理代子氏です。

 18世紀神聖ローマ帝国(ドイツ)内の
田舎貴族の娘ゾフィー。
母親からは美少女と思われていなかったが、
知性と教養に優れ、落ち着きがあった。

 あるパーティーで彼女は
いとこのピョートルと出会う。
容姿はパッとしないが、
ロシアを近代国家に変革しようとした
故ロシア皇帝ピョートル1世の孫だった。

 幸運が重なり、ゾフィーは皇太子妃として
ロシア宮廷に迎えられる。
ロシア語を覚え、改宗もし、
ロシア人になりきろうと努力した上、
名前もロシアの女性名「エカテリーナ」に変えてしまう。

 しかしその後は、自分に無関心な夫、
気性の激しい姑(夫の叔母)エリザヴェータ帝の言動や
世継出産のプレッシャーに悩まされ、
宮中の陰謀にも巻き込まれて行く。

 そして、遂には不毛な夫に見切りをつけ、
自分に忠誠を誓う者達と共にクーデターを決行。
ロシア皇帝に即位し、やがては「大帝」とまで
讃えられるようになる。



 イラストにある場面、
夫からロシア皇帝の位を奪った主人公エカテリーナが、
彼女を支持する人々からの歓声につつまれるいう、
物語半ばにある最大の山場なのですが…。

 そのままスキャナ撮りして転載すると問題があるので、
こちらの物語の前編17・18話に登場する、
アンジェラさんにアングルも変えて
モノマネをしてもらいました。


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 衣装はブラウン商会
 宝石類はシドニー社
 馬はハリソンさん宅のロッシー君
 その他からの提供でした。
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 しかし、何か違う。
本物の豪華絢爛さには足元にも及ばない。

 アンジェラさん、
物語中では大人しい印象で、
なぜ女帝役をやらねばならぬのか?
黒髪のせいなのか?…と思いきや、
後に「クラングベルフィールドの女帝」
と呼ばれ、「猛る獅子も黙る」「村長も逆らえない」
「ブラウン商会社長もご機嫌取りしている」
とまで恐れられる人となるのです。
…どうしてそんな風になってしまうんでしょうか?

 エカテリーナ帝が即位したのと大体同じ頃、
マルセルは軍隊の鼓笛隊でフルート吹いていました。
ハリソンさんはアラベラさんとの仲が
突然の破局へと向かっている所でした。

 「女帝エカテリーナ」を読んだだけでも
プーチン氏の妄想が形成されていった過程が
分かるような気になって来たのでしたが――。