安室知氏は、民俗地図に関連した記事を各誌に掲載している(長野県民俗地図研究会が日本民俗学会年会でグループ発表したは「日本民俗学会第七六回年会に参加して」『長野県民俗の会通信』305号へ、また「方法としての民俗分布論―民俗地図の可能性―」『長野県民俗の会会報』47など、ほかに第36回 現在学研究会 リモート研究会において「方法としての民俗地図、ver.2」2025年1月28日など)。それらで安室氏はこれまでは「小縮尺の議論が中心であった」と言い、「そうした小縮尺の民俗分布論は、特定の事象しか取り上げられないこと、圧倒的にデータ数が不足すること、用いられるデータの出所が不分明であること、データが質的に不均衡であること、民俗誌データと大きく乖離することなど問題が多い」と指摘している。そして「県・地方といった中縮尺の民俗分布論が必要である」と述べて、中縮尺の民俗地図を勧めている。
地図には大・中・小の縮尺が知られる。一般的には
大縮尺 5千分の1より大きい縮尺の地図
中縮尺 1万分の1から10万分の1程度の縮尺の地図
小縮尺 20万分の1より小さい縮尺の地図
と言われている。ようは縮尺の分母が大きいほど小縮尺と言われ、小さいほど大縮尺ということになり、大小のイメージが逆転するためわかりづらいことは確かである。実際のところ長野県民俗地図研究会が作成した地図はA4版で長野県図を出力しており、縮尺は100万分の1程度である。利用する際にはさらに小さくしているため、実際の縮尺は200万分の1とか500万分の1といったところが実際だ。したがって縮尺レベルでいけば小縮尺なのかもしれないが、安室氏が述べているのはそういうことではない。ようは日本地図であれば広域表示であるから小縮尺であり、県図であれば限定された地域を表しているから中縮尺、もっと狭い範囲を示そうとすれば大縮尺であるという意味である。ようは日本地図で表したような民俗地図は、前述の「小縮尺の議論が中心であった」に当るわけである。
さて、民俗地図研究会では長野県図の地図を作成してきたわけであるが、いっぽうで「それは長野県という限定範囲のこと」という指摘もある。したがって周辺県を含めた地図も今後は課題となってくるし、会員の中にはそうしたところに目を向けようという意識もある。多様な展開は予想されたことであるし、当初の県史データだけにとどまらない地図も今後は展開されることになるのだろうが、応用していくにはさらなる地図作成が容易なものであるという意識が広がらないと難しい。そういう意味で、ここでは盛んに地図を垂れ流しているわけであるが、「多様」な展開は今後も検討していきたいと考えている。
そうした中で以前上伊那郡内を示した地図も示してきたわけであるが、ここでは市域という範囲を示した地図を事例として展開していこうとも考えている。もちろん大縮尺化することは地域性を捉えられない可能性が高いが。それらをもう少し広いエリア、例えば郡とか県といったところへ反映することでデータが多くなり、地域性の検証にもたどり着くのだろう。