からくの一人遊び

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The Goon Sax - In The Stone (Official Music Video)

2021-06-29 | 小説
The Goon Sax - In The Stone (Official Music Video)



太田裕美・君と歩いた青春



Sitting in My Hotel kinks



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(ちんちくりんNo,31)


―駄目やな、これ。

―どこが。

―最後やな。心がのってへんやん。

 そうか、心がのってないか、と思った。
 昨日かほるに思わぬ指摘をされたが、それでも圭太はこの小説のラストをどう評価するのだろうかと読後の感想を求めた。勿論これまでの小説の内容を、区切りがつくたびに読んでもらっていたし、特に否定する発言もなかった。「いいんでないかい」の一言だけだ。だが、きっとこのラストだけは何らかの異なる反応があるはずだとは前から思っていた。ただ、かほるの感想を聞くまではとても良い反応であろうと勝手に思い込んでいたが。
 あれは二年ほど前の七月だったか。我が映画研究部も「社会運動」の一環として、首相官邸前の反戦デモに参加したのだが、前日の夜更けに僕と圭太は近隣の日枝神社に忍び込んだ。忍び込んだ、とはいってもプラカードやら横断幕やらを詰め込んだ軽バン車に乗って日枝神社南、女坂の登り口脇にそっと駐車していただけだが。
 デモは朝早く、様々な団体から相当の人々が集まってくる。だから国会議事堂前駅から首相官邸前までは人の列で非常に混雑することになるし、そんなところに「商売道具」を抱えていくのも甚だしく面倒であった。そこで、君たち、先に現地入りして「商売道具」を用意しておいてくれないか、―という訳で僕と圭太の二人は"とてもお優しい先輩たち"のとても有り難いご指示を頂いて「夜更けに男二人で日枝神社」というシチュエーションに相成った。そこに貢がいなかったのは、幸運なことに(?)急性盲腸炎で入院中だったからだ。
 車の中で男二人、夜更けに何をすれば良いのだ。僕は例え一時間でもいいから仮眠をとっておこうと、シートを倒したが、どうしても眠れなかった。隣の運転席に座っている圭太の方を見るとヘッドホンを頭に着け、ウォークマンから流れる音楽を聴いていた。「ボヘミアン・ラプソディが好きやねん」圭太はロックが好きで、特にクイーンのその曲はバイブルだと語り、歌詞を自分なりに訳したりもしていた。僕はそんな圭太に好感を抱いていた。実は僕もあのおぞましくもある「忍耐の二年間」の中で「ボヘミアン・ラプソディ」を聴き、妄想を膨らませた。それがやがて文章を書き、小説を創作していく切っ掛けになったのだった。それで音楽を聴いている圭太を見て、ふと圭太はどういう環境で育ってきたのかという興味を僕は自分の中に感じた。僕はシートを元に戻すと、音楽を聴いている圭太の左肩を、二度軽く右手の中指の腹で叩いた。
―どこの家も同じような悩みを抱えて生きてるんやな。僕が「ボヘミアン・ラプソディ」に絡めて自分の「昔話」をぽつぽつと喋っていたら、圭太が息を吐いてからそう呟いた。「ただ、俺は母親からの呪縛を解くために義理の父親をナイフで刺し殺そうとまで考えたけどな」―母親からの呪縛を解くために、何故義理の父親を?僕がそう疑問に思っていると、圭太は「おふくろもまた奴に縛られてた。なら俺が自由になるには元をたたかなあかんやろ」薄気味悪い笑みを浮かべた。結局圭太の境遇について知ったことはその二つのことだけだったが、僕はそれだけで十分彼のそれまでの人生がどういうものかを察することが出来たのだった。その後、僕は僕の過去と圭太のその経験を膨らませて結末に添え、百ページ超の一遍の小説を書いて或る小説新人賞の公募に出した。それが不必要なものを削ぎ落し、より輪郭が鮮明になった今回の小説なのであった。




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