からくの一人遊び

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カーリングシトーンズ Music Video「それは愛なんだぜ!」~映画「マイ・ダディ」主題歌~

2022-06-01 | 小説
カーリングシトーンズ Music Video「それは愛なんだぜ!」~映画「マイ・ダディ」主題歌~



Liam Gallagher - I've All I Need (Official Video)






飛べない蝙蝠:小椋 佳



Vashti Bunyan session - 17 Pink Sugar Elephants




(ちんちくりんNo,82)

 薫子はもともと喘息の因子を持っていた。ただ、日常に於いてそれは特に彼女の生活に重大な支障を与えるわけではなく、極たまに軽く咳き込むことがあるだけで吸入器を使うまでもなく済んでいた。入院する前も時々咳き込んではいたが、いつものことだと思い、様子見をしていたのだった。結果的にはそれがまずかったということだ。医者は喘息が肺炎になったわけではなく、喘息症状によって体の抵抗力が弱くなったことで、細菌が肺に入り込み炎症を起こしたのだと僕と裕子を前にして言い、気管支喘息は東京の空気が悪いということもあるがと付け加えた。喘息と肺炎とは直接の関係性はなく、きっかけであるということか……、とそう理解しながらも、僕は何故だか薫子の喘息が一番の悪であると思った。だから〝東京の空気が悪い″と聞き、思わずこう医者に返してしまった。

「じゃあ、治すには娘を空気のいい場所にやれば良いということですよね」

 隣の裕子が驚く顔を見せ、医者は「いや、喘息は場合によりけり、良くなるかどうかは一概には……」とあからさまに僕を拒否するような顔をした。

 今にしてみれば、僕はずっと逃げたかったのだと思う。だけれども逃げるにしても言い訳がいる。そこへ薫子が肺炎で入院。それを喘息と結び付けて、田舎に引き籠る言い訳として利用したのだ。当時はそんなつもりはないと考えていたが、時を経るとともにその実感は確かなものになっていった。
 薫子が入院している間、僕は一家で山梨の田舎に引っ越すことを裕子に提案した。仕事は?という問いには、田舎で書いている作家はいくらでもいるさと応え、生活は?という問いには、私立の高校の教員募集の口があると応えた。裕子は仕方ないわよね、と言いながら寂しく笑ったが最後に一言だけ「あの約束……」と言いかけて口を閉ざした。わかっていた。僕と裕子の実妹、かほるとのあの夏の物語。それを書き上げる約束はどうするの、と裕子が質したかったということを。



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