やさしい光 :sweet halo 2011
Ian McCulloch ‘Waiting For The Man’ NME Basement Sessions
カノンー浜田真理子/Marino/marimari (作詞遠藤ミチロウ)
David Bowie - waterloo sunset
(ちんちくりんNo,48)
それから僕らは、そのまま車が置いてある駐車場まで戻った。駐車場とはいっても路上駐車場で、途中から設けられた路側帯に、車道を後ろにして一台ずつ横に四十台程並べられるようになっているといったらいいのか。駐車スペースの前方は、柵が張ってある。僕は中程に駐車しておいたが、他には離れたところに軽トラと大きな四輪駆動車が駐車しているだけだった。何故こんなところに四十台も置ける駐車場が、と思うが元旦の早朝に「ダイヤモンド富士」を見に来る県外の車が想定外にやって来るのだそうだ。場合によっては車道にはみ出すくらいの車が駐車することもあるらしい。辺りを見ても柚子の畑と古い民家らしき建物が数件見えるだけだ。ド田舎、と思って車のボンネットに手を置き、柵の向こう側の山々を眺めた。富士山は場所を移してもやはり雲に囲われている。柵に手を置いていたかほるは、ふと何かを思い出したように「ねえ」と振り向いてきた。
「出るとき、お母さんに言われたのだけれど」
「何を」
「うちのご先祖さまだけど、かほるさんも夕方迎えて欲しいって」
「ああ、迎え火。・・・で?」
「はいって。わたしんち別にそういうことしないから」
「いいんじゃないか」
「だけど」
「だけど?」
「違うんだな、多分そうじゃなくて海人に何か言いたいことがあるんじゃないかって」
「俺に?」
「そう。昨日お母さんに宣言したんだよね、小説家」
「でも、返事はもらえなかった。でもいい、許可がなくとももうこれで俺は前に突き進む」
そこまで話すとかほるは少しの間、顎に手をやって考える風にした。かほるは白のTシャツとボブソンの腰の浅いベルトムのジーンズを履いていた。姉が出がけに「山行くんじゃ、活動的な恰好のほうがいいでしょ」と自分が若い頃のものを数着置いていったらしい。姉も166㎝と割に背が高い。体型も痩身だし、大丈夫だと思ったのだろうがそれは見事にはずれた。Tシャツはいいとしても、ジーンズの方は短すぎだ。・・・ちんちくりん。初めて出会ったときの印象が蘇った。そもそもかほるは何故よりによってベルボトムなんて選んだのだろう。ベルボトムは裾が足の甲を隠すくらいが格好いいのに。ちんちくりん。もう一度心の中で呟いてみた。でも、でも、同時に、これはこれで矛盾するようだが、とても可愛いではないか。彼女にはとても似合っているのではないか、とも僕は思った。
「きっと、ちゃんと返事をしたいんだよ、お母さん。きっと」
かほるは腕を降ろすと僕の思考などお構いなしに、僕の顔を真っすぐ見てそう言い切った。僕は彼女が人のことを何故そう確信できるのか不思議だった。でもそれは不快ではなく逆にある種の快さがある。彼女そのものが不思議な存在だ。居るだけで僕の周りの空気が変わる。居るだけで僕に勇気を与えてくれる存在。きっとそうだよね、と僕が肯定したらかほるはそれこそ夏のひまわりのような笑顔を見せた。これで富士山が見えていたらなあ・・・。山にいるからか、柚子の木々がざわめき、爽やかな風がかほるのまわりで楽しそうに遊んでいるように感じた。
Ian McCulloch ‘Waiting For The Man’ NME Basement Sessions
カノンー浜田真理子/Marino/marimari (作詞遠藤ミチロウ)
David Bowie - waterloo sunset
(ちんちくりんNo,48)
それから僕らは、そのまま車が置いてある駐車場まで戻った。駐車場とはいっても路上駐車場で、途中から設けられた路側帯に、車道を後ろにして一台ずつ横に四十台程並べられるようになっているといったらいいのか。駐車スペースの前方は、柵が張ってある。僕は中程に駐車しておいたが、他には離れたところに軽トラと大きな四輪駆動車が駐車しているだけだった。何故こんなところに四十台も置ける駐車場が、と思うが元旦の早朝に「ダイヤモンド富士」を見に来る県外の車が想定外にやって来るのだそうだ。場合によっては車道にはみ出すくらいの車が駐車することもあるらしい。辺りを見ても柚子の畑と古い民家らしき建物が数件見えるだけだ。ド田舎、と思って車のボンネットに手を置き、柵の向こう側の山々を眺めた。富士山は場所を移してもやはり雲に囲われている。柵に手を置いていたかほるは、ふと何かを思い出したように「ねえ」と振り向いてきた。
「出るとき、お母さんに言われたのだけれど」
「何を」
「うちのご先祖さまだけど、かほるさんも夕方迎えて欲しいって」
「ああ、迎え火。・・・で?」
「はいって。わたしんち別にそういうことしないから」
「いいんじゃないか」
「だけど」
「だけど?」
「違うんだな、多分そうじゃなくて海人に何か言いたいことがあるんじゃないかって」
「俺に?」
「そう。昨日お母さんに宣言したんだよね、小説家」
「でも、返事はもらえなかった。でもいい、許可がなくとももうこれで俺は前に突き進む」
そこまで話すとかほるは少しの間、顎に手をやって考える風にした。かほるは白のTシャツとボブソンの腰の浅いベルトムのジーンズを履いていた。姉が出がけに「山行くんじゃ、活動的な恰好のほうがいいでしょ」と自分が若い頃のものを数着置いていったらしい。姉も166㎝と割に背が高い。体型も痩身だし、大丈夫だと思ったのだろうがそれは見事にはずれた。Tシャツはいいとしても、ジーンズの方は短すぎだ。・・・ちんちくりん。初めて出会ったときの印象が蘇った。そもそもかほるは何故よりによってベルボトムなんて選んだのだろう。ベルボトムは裾が足の甲を隠すくらいが格好いいのに。ちんちくりん。もう一度心の中で呟いてみた。でも、でも、同時に、これはこれで矛盾するようだが、とても可愛いではないか。彼女にはとても似合っているのではないか、とも僕は思った。
「きっと、ちゃんと返事をしたいんだよ、お母さん。きっと」
かほるは腕を降ろすと僕の思考などお構いなしに、僕の顔を真っすぐ見てそう言い切った。僕は彼女が人のことを何故そう確信できるのか不思議だった。でもそれは不快ではなく逆にある種の快さがある。彼女そのものが不思議な存在だ。居るだけで僕の周りの空気が変わる。居るだけで僕に勇気を与えてくれる存在。きっとそうだよね、と僕が肯定したらかほるはそれこそ夏のひまわりのような笑顔を見せた。これで富士山が見えていたらなあ・・・。山にいるからか、柚子の木々がざわめき、爽やかな風がかほるのまわりで楽しそうに遊んでいるように感じた。
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