からくの一人遊び

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the pillows / 1989

2021-11-08 | 小説
the pillows / 1989



他人の関係/イズミカワソラ(オリジナル:金井克子)



Save Your Words  Dislocation Dance 



Eddi Reader - Nobody Lives Without Love (LYRICS)






(ちんちくりんNo,57)

 ここ数日、大学でかほるさんの姿を見ないんだけど―、とじいさんに訊ねるとじいさんの眉間の皺がまた増えた。その表情に何かあったのかと感じた僕は、「具合でも悪いんですか」と続け、そのまま思い切って「心臓が良くないとは聞いてるけど」とかまをかけてみた。いささか強引過ぎるかなとは思ったが、僕はその時、かほるの持病は心臓の病であると結論付けていた。何の根拠もなかったが、勘ではあったが・・・。
 するとじいさんは、帳場台の隅に置いていたハイライトと灰皿を引き寄せ、箱から一本引き出し口に咥えると、胸ポケットから出した100円ライターで火をつけた。吸われた煙草の煙は鼻から押し出され、上空へ広がり、天井につくまでに霧散したように見える。ふとじいさんの煙草を挟んだ指の爪を見ると、黄色みがかっていることに気づいた。僕はじいさんが煙草を吸っているところを初めて見たのだった。じいさんは火が付いた煙草を灰皿の端に置いて、それからゆっくりと口を開いた。

「風邪をひいたようだ。だからお前さんが心配するようなことはないよ」

 もともと心臓に障がいがないのか、障がいはあるのだけど今回は風邪だということなのか、判然としなかった。ただ、それだけのことを言うのに余りにも時間をかけ過ぎる。やはり、かほるは心臓に何らかの異常があるのだろう。

「そうですか。今日は、もう治ったのかな」

「ああ、昨日には落ち着いたし、今日は午後から出掛けると言っておった。あと何日もないので何か準備でもあるんだろう」

「準備?」

「なんだ、お前に何も言ってなかったのか」

 聞いてない、と即座に思った。それに、何の・・・準備、だ。僕は慌てて何のことなのかじいさんに問い質そうと思った。いや、これはかほるに直接会って本人から聞いたほうがいいのかも。僕が「かほるは何処に」と言いかけたところで後ろから聞き覚えのある声がして僕は振り向いた。

 ―海人。何故・・・。

 かほるがすぐ其処にいた。


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