思いつくままに

ゆく河の流れの淀みに浮かぶ「うたかた」としての生命体、
その1つに映り込んだ世界の断片を思いつくままに書きたい。

「想定外」と法的責任

2012-06-17 23:17:19 | 随想


 東京電力福島第1原子力発電所の事故に対して責任があった人たちは口を揃えて「想定外」と言う。だったらどうしたというのだろう?「だから責任はない」と言いたいらしい。想定外だったらどうして責任がなくなるのだろう?だいたい事故というのはほとんど想定外ではないのか?自動車運転だって、多くの人は自分が事故を起こすことなど想定外として運転しているのではないか。しかし、実際には事故を起こし、人を傷つけたり、殺したりしている。想定外だったから自分には責任がないなどと言っても通用しない。刑事責任を問われ、相応の罰を受ける。民事責任を問われ、賠償金の支払い義務が生ずる。人を傷つけたり、殺したりしても罪に問われないのは、心神喪失状態にあった場合と正当防衛くらいではないか。

 今回の事故では、実に多くの人に多大の損害を与えたし、なお与え続けている。多くの人が従来の国の安全基準を越える放射線量の被曝という傷害を受け、また、津波の被害に遭って身動きできなくなり、生きたまま避難区域に閉じ込められた人がいて、それがわかっていながら、避難命令のために助けにゆけず、後日、餓死しているのが見付かったりしている。何と言おうと彼らには重大な責任があるはずだ。これだけの事故を起こしては、さすがに全面的に責任を回避するわけにはゆかず、会社として(役員個人としてではない)一定の民事責任は認めているようで、損害賠償請求には応じているようだ。ただし、前にも述べたが、「原子力発電所から空中に飛び散った放射性物質はもはや『無主物』」と強弁して、その除去の責任を認めていない。

 彼らは、役員個人としての民事責任を問われるべきだ。たとえ故意ではなかったとしても、自動車運転と同様に過失責任というものがある。今年の3月、東京電力の株主が、今回の事故で東電が巨額損失を出したのは、安全対策を怠った経営陣に責任があるとして、歴代の取締役ら計27人に東電への総額約5兆5千億円の損害賠償を求める株主代表訴訟を起こしたとのこと。当然のことだと思う。

 また、刑事責任も問われるべきだ。こちらについても、被害に遭った市民が業務上過失傷害などの罪で東電を刑事告訴している。どうして警察は告訴を受ける前に、刑事責任を問うべく自発的に捜査を開始しなかったのだろう。傷害罪、傷害致死罪は親告罪(被害者の訴えがないと成立しない罪)ではない。時間が経てば現場の状況も変わり、証拠隠滅なども進んで、どんどん立件は難しくなると思うのだが。放射線の被曝と傷害を結び付けるのが難しいという話もあるが、それは、先の戦争で、原爆が投下された広島や長崎の市民の尊い命によって立証済みのはずではないか。この告訴への対応を誤れば、国というものに対する信頼を大きく損なうことになる。

 なお、想定外ではなく、想定していていながら事故を起こせば、これは単なる過失ではない。刑法には「未必の故意」という概念がある。これは、「行為者が、罪となる事実の発生を積極的に意図・希望したわけではないが、自己の行為から、ある事実が発生するかもしれないと思いながら、発生してもしかたがないと認めて、行為する心理状態」(広辞苑)を言う。未必の故意は、過失ではなく、故意犯として裁かれる。

 事故後、時間が経ち、いろいろと調べが進んでゆくにつれ、実は想定外ではなかったということがわかってきた。津波の高さも想定していたし、全電源喪失という事態になる可能性も想定していた。地震の規模についても想定していた。「想定外」だったのは実際に今回のような事故が起きることだろう。だから、彼らは対策を講じなかった。全電源が喪失し、炉心を冷却できなくなると、核分裂の連鎖反応を制御できなくなり、炉心溶融が起きる。そうなると重大な事故につながる。そういう重大な結果の発生を認識していたはずだ。それでも、それを防ぐ対策を講じなかった。そうであれば、明らかに未必の故意が成立すると思う。

 反対に、認識していなかったとすれば、つまり、素人でも少し説明を受ければすぐにわかるこのような結果の発生を認識していなかったとすれば、とんでもないバカが原子力発電所を持つ会社を経営していたことになる。すなわち、バカが各種の重大な決定権限を持っていたということになってしまう。彼らはバカではないはずだ。だから認識していた。しかし、彼らには、今回のような事故が起きないために万全を期すことよりも、もっと大切なものがあったようだ。彼らとその仲間は、その大切なもののために、原子力発電の位置付けを元に戻すべく、必要なことを着々と進めている。大飯での原子力発電の再開はその一環ということだ。



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