思いつくままに

ゆく河の流れの淀みに浮かぶ「うたかた」としての生命体、
その1つに映り込んだ世界の断片を思いつくままに書きたい。

「働き方改革」? ⇒ 「働かせ方改革」

2018-04-17 12:54:05 | 随想

 いま 「働き方改革」が問題になっている。従来の法律は、立場の弱い労働者が低賃金で過酷な労働をさせられないように、また、経営者の都合だけで簡単に解雇されないように、さまざまな規制をしてきた。「働き方改革」は、これらの規制をなくしたり、骨抜きにしたりするものである。経営者にとって都合のよい「働かせ方」ができるようにするためのものであり、まさに「働かせ方改革」であるが、それを労働者がいろいろな働き方を選べるかのような印象を与える「働き方改革」という欺瞞的な言葉にすり替えて強行している。

 労働者がその意志で、働く時間を自由に選んだり、転職をしたり、自分の裁量で仕事のやり方を決めたりすることを禁止する法律など存在しない。会社が認めさえすればそれはできるのである。会社は、就業時間、始業時刻や終業時刻を自由に決められるのである。だから、いろいろな働き方ができるかどうかは、経営者次第である。ただし条件がある。1日8時間を超える労働、休日の労働、早朝の労働、深夜の労働、それぞれに対しては割増賃金を支払う必要があった。それによって経営者をけん制し、経営者の都合で過酷になりがちな労働から労働者を守っていた。それでも、長時間労働が原因でうつ状態になり自殺する人が出たり、残業代未払い問題がたびたび起きたりしている。

 いわゆる労働三法(労働組合法、労働基準法、労働関係調整法)は、憲法28条の労働基本権の理念に基づき制定されたものである。これに劣る条件で働かせてはならないという最低限の労働条件を規定したり(労働基準法)、また、労働者が組織=労働組合を作って会社と話し合うことや、その話し合いを会社と対等な立場で行なえるようにストライキなどの争議権を認めたり(労働組合法)、労働争議について、必要に応じ、国が斡旋・調停・仲裁などの調整をしたり(労働関係調整法)することによって、圧倒的に強い立場にある会社から労働者を守り、公正、対等な労使関係を築くことがその目的である。

 いま政府が導入しようとしている裁量労働制だの、ホワイトカラーエグゼンプションだの、高度プロフェッショナル制度などは、その言葉からは内容が見えないが、実態は、労働基準法に規定されている労働時間の制限、割増賃金の撤廃である。会社が、労働者に対しその制度の適用を宣言すれば、割増賃金を支払わなくてもよくなるわけである。年収や、職種による制限を設けるそうであるが、割増賃金を支払わなくてもよい人たちを作り出すということにおいて、本質は何も変わらない。

 仕事ができる人とできない人の不公平感をなくすというメリットを唱える人がいるが、不公平感をなくすために、割増賃金を支払わなくてもよい制度を設ける必要などまったくない。いままでも、会社は仕事ができる人の昇給率を高めたり、昇格という制度で指導的立場に就け賃金を上げたり、賞与の支給率を高くしたりしてきている。仕事ができる人とできない人を評価し(評価していない会社などないはずだ)、その評価に基づき、いろいろな対応をしてきている。できる人もできない人も、生涯同一賃金という会社などあるのだろうか。

 働く場所や時間がもっと自由に決められるようになると言う人もいる。すでに述べたが、現行の法律で、それを禁止するものはなく、会社がそれを認めるか否かだけにかかっているのである。仕事が早く終わった人が早く帰ることができる就業規定、自宅でもできる仕事は自宅でしてもよいという就業規定を作ればよい。それを禁止する法律などないのだ。これらのことを実行するのに、割増賃金を支払わなくてもよいという制度を作る必要など全くないのである。

 いま「働き方改革」として提案されている制度は、各種の規制緩和の一環として行なわれているものであるが、それら規制の中には、放っておけば強いものの犠牲になってしまう弱い立場にあるものを守るために、時間をかけて築き上げてきたものが多い。それらは、社会秩序を維持するためにはしっかりと守ってゆかなければならないものである。そういうものを、「岩盤規制」などと、何か悪いものでもあるような言い方で取り除いてゆこうとしている。経営者たちが、自分たちを縛っているものを取り除いてゆくという改革である。政権が憲法を変えて、権力の暴走を防ぐために縛っているものを取り除こうとしていることと呼応している。

 再度述べるが、裁量労働制、高度プロフェッショナル制度などは、「割増賃金をなくしたい」という経営者側の要求を実現しようというものであり、経団連などの経営者側が強く要求しているものである。労働者側からの要求では決してない。契約社員、派遣社員など、必要な時にだけ使える社員を供給するシステムの整備も同じく経営者側の要求である。これらが着々と実現されるに従って、労働コストは抑えられ(下図参照。一番下の赤い線が日本。上から、スウェーデン、オーストラリア、フランス、イギリス、デンマーク、ドイツ、アメリカ)、企業の収益は拡大し、史上最高益を更新している。これを経済成長と呼んでいる。アベノミクスが成果を出しているという人もいるが、これがその成果なのである。



最新の画像もっと見る

コメントを投稿