1981年アルビン・トフラーが来日した際、日本の著名人と対談した記録があるのではないかとの問い合わせがありましたので、
NHK取材班作成の「写真でみる第三の波」より引用します。堺屋太一氏、盛田昭夫氏、小松左京氏、永井道雄氏、鶴見和子さん、長州一二氏の6名と対談しており、順番に紹介します。
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●トフラー対談 1982.5.1NHK出版 写真でみる第三の波P.72~
創造性を価値とみる経済体系を
堺屋太一(作家)
創造活動が重んじられる社会の到来
トフラー まず初めに、現在進行しつつある科学技術上の変化が、どのように人間の労働に影響を及ぼすと考えられるしょうか。
堺屋 現在の技術が人間の労働に重要な影響を与えているのは、人間の頭脳の一部が電子技術に置きかえられていくことだと思います。この技術の進歩は、産業革命が人間の筋肉労働からの解放であったように、少なくとも記憶からの開放になるでしょう。これからは、今まで高く評価された能力よりも、別の能力が必要になってくる。そういう意味で、人間の労働に決定的な影響を与えると思います。
私が通産省に入った20年前、仕事の中で大きな比重を占めていたのは、ものを記憶することだったんです。私たちの受けた教育もものを覚えることに大きな比重を置いていたんですが、それが今は事務機の進歩で計算も速くなったし、記憶もコンピュータに置き換えられるようになってきたのではないでしょうか。
トフラー 今までわれわれが高く評価してきた労働に代わって、創造的な仕事が高く評価されるという意味でしょうか。
堺屋 そうです、広い意味での創造性と言えるでしょうね。戦後の社会は大量生産・大量消費という方向できた。ところが、これから自分の好みのものを選択するようになると、多種少量生産が必要になってくる。そうなるとデザインとか機能とかを、職業・年齢・地域・趣味に合わせた商品が開発されねばならない。今後、デザインを作るとか、コンピュータのソフトウェアを組み立てるとか、市場を予測して新しい事業を企画してゆく仕事など、いわゆる創造活動がますます重要になってくると思います。
トフラー 大量生産社会から多様化社会に変わった場合、巨大企業の構造などにどのような変化がもたらされるでしょうか。
堺屋 中小企業にチャンスのある時代が開けてくると思います。しかし大企業もまた組織を細分化し、金融力などを生かしたて商品のイメージを多様化してゆくと思います。だから、マス・プロがなくなっても、大企業は多様性の時代に対応する組織変革をしてゆくことで、その能力と活力を発揮できるだろうと予想しています。
科学技術が変える労働の内容
トフラー 少し前にシリコンバレーへ行き、そこの会社の経営者と話しをしていて気づいたのは、そういう会社がこれまでの大量生産社会の会社とは全く異なる人間関係をもっているということです。画一性とコンセンサスを重んずる日本の経営流儀に、多様性を特質とするシリコンバレー文化というものが適合するでしょうか。
堺屋 私も昨年シリコンバレーへ行ってきました。私は、現在の日本でも同じ変化が起こっているとと思うんです。新しい創造的な会社、例えばファッション産業などでは、ある程度の経験と実績をもった人がどんどん企業外へスピンアウトしてゆく傾向がある。これはアメリカでも日本でも同じ形で進行すると思います。
トフラー アメリカでは電気通信装置やコンピュータを利用するエレクトロニック住宅というアイデアがさかんに論議されています。日本では文化的伝統の違いも、住宅の大きさ、家族構成の違いのために、うまくこれが機能しないのではないか、別の形のものが生まれるのではないかと言う人もありますが。
堺屋 アメリカと日本とではずいぶん違ってくると思います。決定的な違いはコミュニケーション観です。アメリカでは文化と経済が分散する方向に行ったのに対して、日本では東京に集中する形になった。というのは、日本人は人間関係を作ることがコミュニケーションだと思っている。つまり情報交換ではなしに人間関係を作ることが大切だと思っているわけです。ですから、時には一緒に食事をしたり冗談を語り合うようでないとだめで、家庭で仕事をして通信回線だけでつながれるというのは、日本にとってはやりにくいことではないかという気がします。その意味で、コンピュータが普及しても人間関係の仕事はふえると思います。それに伴ってヒューマンウェアー(対人技術)がより重要になるでしょう。
トフラー 第三の波の社会では頭脳を使う仕事や対人関係を重視する仕事が大切になるというお話ですが、そのような技能は大部分のブルーカラーの労働者は身につけていません。そうすると労働者にどういうことが起こるでしょうか。
堺屋 日本のいちばんの特徴は、ブルーカラーと言われる人たちの教育水準が高いことです。諸外国に比べてトップの人たちと底辺の人たちとの差が少ない。
だから、日本のブルーカラーはかなりの程度、工場労働とか道路清掃などの機械化を進める能力がある。実際、肉体労働、ダーティワークをやりたい人が減っている。そうした仕事に対する賃金は、今やホワイトカラーより高いくらいです。ですから、日本ではそのような仕事にどんどんコンピュータを入れて機械化、ロボット化するということが、世界一早く進むのではないかと思います。
新しい経済体系の必要
トフラー 私のいう第一の波、第二の波の社会では、人が手に入れた財産は土地であり、建物・機械でした。しかし新しい社会、第三の波の社会では、本当の資本はカネではく、頭の中に入っているものです。しかも、これまでの財産は自分だけのもので他の人は利用できなかった。ところが新しい社会では、もし私があるアイデアを使えば、他の人もそのアイデアを使うことができる。また、そのアイデアを使う人がふえれば、それだけまた多くのアイデアをわれわれは考え出す。これは財産に対する根本的な考え方の変革であり、政治・経済・財産・階級などについての、従来の考え方を根こそぎ変えてしまうものです。私は代替資源は石油ではなく想像力だと考えており、今いちばん供給不足になっているのが想像力なのです。
堺屋 そういう社会を想定してゆくと、これから生産性という概念は変わってくると思います。物価指数というものに知恵の値打ちが入ってくるとなると、物価の概念も変わることになるでしょう。これは大きな経済的革命になるわけで、そういうものに今の社会・政治がついていけるのかどうか、そのような変化に対する抵抗が出てきて、それがあつれきを生んでいくのではないかと心配します。
トフラー 現在、経済機構が根本的な変化をとげようとしているとすれば、政治組織もまた変わらざるをえない。これまで経済上の概念はすべてが産業革命の産物であり、例えば今の生産性は真の生産性ではなく、河川を汚染したり社会問題を引き起こす犠牲の上に立った、生産性に他ならないのです。これからは、経済学・心理学・社会学・生態学を組み込んだ、全く新しい経済学を作り出さなければならないと思います。
堺屋 その通りですが、それだけではありません。私が強調したいのは知恵の値打ち、つまりソフトグーズということです。何の変哲もないネクタイなら、3,000円ぐらいからありますが、有名ブランドのものなら1万5,000円もします。これまで3,000円のネクタイを月1万本作っていた会社が、同じ人数で1万5,000円のものを5,000本作るようになったとすれば、生産性は上がったのか下がったのか、これまでの概念ではわからないわけです。したがって、私は今体系としての経済学の新しい構築が必要だと思うんです。従来の標準産業分類というのは、そこでつくられる物質の性質、使われている機械の性質、原材料の性質ということにのみ着目しているものですから、知恵で作るような広い意味での第三次産業というものについての分類は、全くなされていない。知恵の値打ちの分類はたくさんあるのだから、まず産業構造の見方から考えていかなければならないと思うんです。私は全ての産業に共通の生産物、つまり人類社会に貢献する場を基準とした分類を研究中なんです。そうした全く新しい概念を作り出して、トフラーさんのおっしゃる新しいイマジネーションというものを概念づけて人びとに納得させる運動が、経済学者をはじめとする全ての学者に要求されることではないかと思います。ぜひ、トフラーさんも、一つの体系としての新しい経済概念、経済学のシステムを提示していただきたいと思いますね。
NHK取材班作成の「写真でみる第三の波」より引用します。堺屋太一氏、盛田昭夫氏、小松左京氏、永井道雄氏、鶴見和子さん、長州一二氏の6名と対談しており、順番に紹介します。
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●トフラー対談 1982.5.1NHK出版 写真でみる第三の波P.72~
創造性を価値とみる経済体系を
堺屋太一(作家)
創造活動が重んじられる社会の到来
トフラー まず初めに、現在進行しつつある科学技術上の変化が、どのように人間の労働に影響を及ぼすと考えられるしょうか。
堺屋 現在の技術が人間の労働に重要な影響を与えているのは、人間の頭脳の一部が電子技術に置きかえられていくことだと思います。この技術の進歩は、産業革命が人間の筋肉労働からの解放であったように、少なくとも記憶からの開放になるでしょう。これからは、今まで高く評価された能力よりも、別の能力が必要になってくる。そういう意味で、人間の労働に決定的な影響を与えると思います。
私が通産省に入った20年前、仕事の中で大きな比重を占めていたのは、ものを記憶することだったんです。私たちの受けた教育もものを覚えることに大きな比重を置いていたんですが、それが今は事務機の進歩で計算も速くなったし、記憶もコンピュータに置き換えられるようになってきたのではないでしょうか。
トフラー 今までわれわれが高く評価してきた労働に代わって、創造的な仕事が高く評価されるという意味でしょうか。
堺屋 そうです、広い意味での創造性と言えるでしょうね。戦後の社会は大量生産・大量消費という方向できた。ところが、これから自分の好みのものを選択するようになると、多種少量生産が必要になってくる。そうなるとデザインとか機能とかを、職業・年齢・地域・趣味に合わせた商品が開発されねばならない。今後、デザインを作るとか、コンピュータのソフトウェアを組み立てるとか、市場を予測して新しい事業を企画してゆく仕事など、いわゆる創造活動がますます重要になってくると思います。
トフラー 大量生産社会から多様化社会に変わった場合、巨大企業の構造などにどのような変化がもたらされるでしょうか。
堺屋 中小企業にチャンスのある時代が開けてくると思います。しかし大企業もまた組織を細分化し、金融力などを生かしたて商品のイメージを多様化してゆくと思います。だから、マス・プロがなくなっても、大企業は多様性の時代に対応する組織変革をしてゆくことで、その能力と活力を発揮できるだろうと予想しています。
科学技術が変える労働の内容
トフラー 少し前にシリコンバレーへ行き、そこの会社の経営者と話しをしていて気づいたのは、そういう会社がこれまでの大量生産社会の会社とは全く異なる人間関係をもっているということです。画一性とコンセンサスを重んずる日本の経営流儀に、多様性を特質とするシリコンバレー文化というものが適合するでしょうか。
堺屋 私も昨年シリコンバレーへ行ってきました。私は、現在の日本でも同じ変化が起こっているとと思うんです。新しい創造的な会社、例えばファッション産業などでは、ある程度の経験と実績をもった人がどんどん企業外へスピンアウトしてゆく傾向がある。これはアメリカでも日本でも同じ形で進行すると思います。
トフラー アメリカでは電気通信装置やコンピュータを利用するエレクトロニック住宅というアイデアがさかんに論議されています。日本では文化的伝統の違いも、住宅の大きさ、家族構成の違いのために、うまくこれが機能しないのではないか、別の形のものが生まれるのではないかと言う人もありますが。
堺屋 アメリカと日本とではずいぶん違ってくると思います。決定的な違いはコミュニケーション観です。アメリカでは文化と経済が分散する方向に行ったのに対して、日本では東京に集中する形になった。というのは、日本人は人間関係を作ることがコミュニケーションだと思っている。つまり情報交換ではなしに人間関係を作ることが大切だと思っているわけです。ですから、時には一緒に食事をしたり冗談を語り合うようでないとだめで、家庭で仕事をして通信回線だけでつながれるというのは、日本にとってはやりにくいことではないかという気がします。その意味で、コンピュータが普及しても人間関係の仕事はふえると思います。それに伴ってヒューマンウェアー(対人技術)がより重要になるでしょう。
トフラー 第三の波の社会では頭脳を使う仕事や対人関係を重視する仕事が大切になるというお話ですが、そのような技能は大部分のブルーカラーの労働者は身につけていません。そうすると労働者にどういうことが起こるでしょうか。
堺屋 日本のいちばんの特徴は、ブルーカラーと言われる人たちの教育水準が高いことです。諸外国に比べてトップの人たちと底辺の人たちとの差が少ない。
だから、日本のブルーカラーはかなりの程度、工場労働とか道路清掃などの機械化を進める能力がある。実際、肉体労働、ダーティワークをやりたい人が減っている。そうした仕事に対する賃金は、今やホワイトカラーより高いくらいです。ですから、日本ではそのような仕事にどんどんコンピュータを入れて機械化、ロボット化するということが、世界一早く進むのではないかと思います。
新しい経済体系の必要
トフラー 私のいう第一の波、第二の波の社会では、人が手に入れた財産は土地であり、建物・機械でした。しかし新しい社会、第三の波の社会では、本当の資本はカネではく、頭の中に入っているものです。しかも、これまでの財産は自分だけのもので他の人は利用できなかった。ところが新しい社会では、もし私があるアイデアを使えば、他の人もそのアイデアを使うことができる。また、そのアイデアを使う人がふえれば、それだけまた多くのアイデアをわれわれは考え出す。これは財産に対する根本的な考え方の変革であり、政治・経済・財産・階級などについての、従来の考え方を根こそぎ変えてしまうものです。私は代替資源は石油ではなく想像力だと考えており、今いちばん供給不足になっているのが想像力なのです。
堺屋 そういう社会を想定してゆくと、これから生産性という概念は変わってくると思います。物価指数というものに知恵の値打ちが入ってくるとなると、物価の概念も変わることになるでしょう。これは大きな経済的革命になるわけで、そういうものに今の社会・政治がついていけるのかどうか、そのような変化に対する抵抗が出てきて、それがあつれきを生んでいくのではないかと心配します。
トフラー 現在、経済機構が根本的な変化をとげようとしているとすれば、政治組織もまた変わらざるをえない。これまで経済上の概念はすべてが産業革命の産物であり、例えば今の生産性は真の生産性ではなく、河川を汚染したり社会問題を引き起こす犠牲の上に立った、生産性に他ならないのです。これからは、経済学・心理学・社会学・生態学を組み込んだ、全く新しい経済学を作り出さなければならないと思います。
堺屋 その通りですが、それだけではありません。私が強調したいのは知恵の値打ち、つまりソフトグーズということです。何の変哲もないネクタイなら、3,000円ぐらいからありますが、有名ブランドのものなら1万5,000円もします。これまで3,000円のネクタイを月1万本作っていた会社が、同じ人数で1万5,000円のものを5,000本作るようになったとすれば、生産性は上がったのか下がったのか、これまでの概念ではわからないわけです。したがって、私は今体系としての経済学の新しい構築が必要だと思うんです。従来の標準産業分類というのは、そこでつくられる物質の性質、使われている機械の性質、原材料の性質ということにのみ着目しているものですから、知恵で作るような広い意味での第三次産業というものについての分類は、全くなされていない。知恵の値打ちの分類はたくさんあるのだから、まず産業構造の見方から考えていかなければならないと思うんです。私は全ての産業に共通の生産物、つまり人類社会に貢献する場を基準とした分類を研究中なんです。そうした全く新しい概念を作り出して、トフラーさんのおっしゃる新しいイマジネーションというものを概念づけて人びとに納得させる運動が、経済学者をはじめとする全ての学者に要求されることではないかと思います。ぜひ、トフラーさんも、一つの体系としての新しい経済概念、経済学のシステムを提示していただきたいと思いますね。