アルビン・トフラー研究会(勉強会)  

アルビン・トフラー、ハイジ夫妻の
著作物を勉強、講義、討議する会です。

トフラー対談(過去から)その2 森田昭夫氏

2011年09月09日 23時52分24秒 | トフラー対談1982
● トフラー対談2 1982.5.1NHK出版 写真でみる第三の波P.74~ 

新しい技術の吸収が早い日本人
森田昭夫(ソニー会長)

エレクトロニクスを早く吸収した日本

トフラー 日本をはじめとする主要な科学技術国で、現代社会を変革する経済上・科学技術上の変革が起こっております。これらの先進技術国が新しい科学技術、新しい文明の競争をしている時、日本がこの挑戦に打ち勝つための最も強力な武器は何だと考えておられますか。

盛 田  日本のいちばん強い産業はエレクトロニクスだと思います。現在のエレクトロニクスというのはハードウェアだけではなしに、ソフトウェアが入っていかないとエレクトロニクスの本当の価値が出てこない。エレクトロニクスというものが、ハードウェアとソフトウェアと一緒になった産業であることは、日本にとって非常に有利な産業だと言えると思います。

トフラー 日本が特にこのような根本的変革をなしとげるのに有利な文化的背景と生活慣習があるのでしょうか。

盛 田  エレクトロニクスのハードウェアから発生してきた新しいソフトウェアを含め、新しい情報産業といったようなものの文化を、日本人は早く吸収し、新しい文化を作っていく能力をもっています。そういう点で、日本人は非常に適応能力のある国民だと思うんです。

トフラー 従来の工業社会から高度技術に支えられた情報文化社会へ転換する過渡期に、多くの国で失業とインフレ問題が起きています。今回のような大規模な構造変化から生まれる衝撃から日本の労働者を守るため、どんな社会政策、経済政策の変革が必要だとお考えですか。

盛 田  歴史的にみると、日本は新しい社会に入って、われわれの生活が大きく変わっても、そのためにインフレとか失業問題が起きたことは、まずないんです。日本人は、むしろロボットとか新しいコミュニケーションテクノロジーとかいうものを、もっと吸収することによって、自分たちでたくさんの仕事を作り出していく。だからロボットが来たから失業がふえるという考え方はないわけです。

トフラー ロンドンタイムズがコンピュータ化をはかった時、1年におよぶストライキが起きたというのに、なぜ日本の労働組合はロボットの採用に異議を申し立てないのですか。

盛 田  日本人の先天的に新しい知識を進んで自ら吸収していこうとする、非常なフレキシビリティをもっている。あらゆる階層が頑固に自説を固持しようと思っていない。いつも新しいものに向かっていこうという意欲があります。
これは日本の強みだと思います。

新しい波に対する適応力

トフラー 強力な変革が経済上の効果を生じさせると、それがさらに政治的、社会的効果を生み出すに違いありません。そのような場合、日本の経済構造の中で、どのような対応策が必要でしょうか。

盛 田  日本はこれだけ狭い国土にたくさんの人が住んでいる。しかも高い生活水準に達している。それゆえ、ある意味では構造的変化がむずかしい面があるわけです。しかしその一方で、みんなの教育水準が高いから、新しい知識を吸収していこうという意欲がある。そこから構造的変化がやさしいのではないかとも言えるわけです。その証拠に私はよく外国の家族経営の商店で買い物をするのですが、そこでは新しいコンピュータは使っていない。ところが日本の商店には新しいキャッシュレジスターなどをどんどん吸収しようとしている。そういう意味では、中小企業を含めて、技術吸収能力は日本の方がはるかに高いと思うんです。

トフラー 新しい波に対する適応力は、日本人の文化的・心理的特性によるのか、あるいは日本の経済組織が少し違った経済環境の組み合わせのうえに成り立っているからでしょうか。

盛 田  それは確かに環境の違いというものがあるんです。日本の場合、会社の経営者も、従業員も1つの家族として、利益も苦しみも同じに分けあっていくという概念があります。ところが外国の場合、労使の関係がはっきりしていて、労働者と使用者はいつまでも敵対関係にある。私は日本の社会がうまくいっているのは、お互いに一体感をもっているという点ではないかと思います。

トフラー 盛田さんは現在の教育制度について批判的なことを言われておりますが、あなたの会社では工場従業員を雇用する場合、高い学歴を要求されますか。

盛 田  私のところは学歴無用です。その人がどこの学校を出ていようが、出ていまいが、そのことは全然問題にならない。必要な能力と知識があればいいわけではなくて、むしろ社会にある。一般社会の方が変わっていくべきだと思います。会社の私たちの場合を言いますと、同じラインワーカーでも、絶えず勉強していかなければ仕事に追いついて生きていかれないというのが仕事の性格です。私たちの会社では、すべての人が新しい技術、新しい知識を勉強しようとしていますし、そうしなければならないという1つのムードができています。ですから新しい変化がきてもいつでも、対応できる態勢ができていると思います。

政府の姿勢はどうあるべきか。

トフラー ところで、従来型の産業経済、つまり自動車、鉄鋼あるいは繊維などの工業を基盤とした経済から、コンピュータや新しい通信技術、海洋技術、資源のリサイクリングなど新技術を基盤とした経済への転換をするには、国がどのような体制を整え、施策を行ったらよいとお考えですか。またその場合、従来の産業が滅んでゆくこともあると思うのですが、従業員はどうなるのでしょうか。

盛 田  日本の会社は要するに運命共同体だということをよく知っていますから、もしも自分たちの産業が滅びていく産業だということになったら、マネジメントも社員も一体となって、どうした自分たちが新しい産業に生まれ変われるかということを本気になって考える。私もそういう点からみると、アメリカの経営者も労働者も、少しわがままがすぎるのではないかと思うんですが・・・。

トフラー その点で、今欧米での問題は、自由経済社会の根本原理である競争ということを忘れてしまったら、自由経済そのものがつぶれるんだぞということを、忘れてしまったことではないかと思うのです。欧米諸国では民間企業と政府との間に規制があるのに、日本は株式会社日本というイメージがあり、実際に政府と会社が単一の巨大会社のような様相があります。しかし盛田さんは、企業と政府の姿勢とは違うと言われましたが・・・・。

盛 田  会社は利益を出せば利益の半分以上を政府に納める、いわば政府は会社の50%以上のパートナーなんですね。株は1株ももっていないけれども、半分以上の利益をもっていくんだから、政府と会社とはジョイントベンチャーなんです。ですから、政府の方は会社がうまくいくように希望するのが当然だし、会社も政府に対してそれだけの期待をしてもいいのではないか。企業と政府がいつでも論争しているような関係にある方がおかしいんです。

トフラー 日本の一般市民、アメリカの平均的な国民、西欧の一般的な大衆にとって、第三の波の時代はどんなものになるのでしょうか。

盛 田  あなたの「第三の波」で言う次の社会の変化は、大変大きな変化だと思います。私は今ビジュアルなイメージは浮かばないんですが、これから10年の変化というのは、私たちが想像する以上の変化ではないでしょうか。しかし、この次の変化というのは非常に大きいという気はするけれども、むしろ人間の考え方がいかに早く社会的変化を吸収できるかということにかかってくる。それが1つの発展が可能か不可能かを分ける大きなキーポイントになってくると思います。そういう点では、日本人にはいつも勉強しようという意欲があるので、非常に有利だと思います。私がとても心配するのは、欧米の人たちがなかなかこの変化に乗り切れないのではないかということです。特にヨーロッパの場合、新しい変化の波を受け入れにくいのではないでしょうか。