アルビン・トフラー研究会(勉強会)  

アルビン・トフラー、ハイジ夫妻の
著作物を勉強、講義、討議する会です。

トフラー対談(過去から)その3 小松左京

2011年09月18日 00時46分57秒 | トフラー対談1982
● トフラー対談3 1982.5.1NHK出版 写真でみる第三の波P.112~ 
情報はコンピュータに乗って
小松左京(作家)
コンピュータデモクラシー
トフラー 小松さんは作品の中に最新の科学技術を採り入れたものが多いと聞いていますが、私が第三の波の文明と呼んだものの中で、コンピュータはどんな影響を与えると思いますか。

小 松  日本では、コンピュータはかなり前から使われていました。しかし昨年あたりから、また新しい変化が起こり始めたと思います。それはマイクロコンピュータが一般のビジネスマンとか、私のような小説家、出版社の編集者などに使われる傾向が出てきたからです。マイクロコンピュータが安くなり、また性能がよくなって使いやすくなったから、一般の人でも使えるようになったわけです。
 これまでは政府や大企業が大型のコンピュータをもって、そこに権力が集中してしまうと思われていたのですが、マイクロコンピュータを一般の人たちが使い始めるとなると、まず自分のために小さなところで使い始め、自分たちの間でマイクロデータベースを作り始める。ひょっとすると、コンピュータデモクラシーというものが可能になるのではないかという気がします。ちょうどすべての人たちが読み書きができて、電話がかけられるようになったように、すべての人がコンピュータを使い始めるのではないでしょうか。
 ところで、私はヨーロッパの状況がよくわからないのですが、ヨーロッパでも、第三の波は同じような形で進展しつつあるのでしょうか。

トフラー ヨーロッパが困難な状況に陥っていることは、ご承知のとおりです。しかし、今回取材で訪れたエディンバラ近郊の町など、かつては石炭で有名なところですが、今ではエレクトロニクス産業が起こっている。こういった意味での第三の波は、ヨーロッパにも来ていると言えると思いますが、しかし、東欧やソビエト連邦では、もっと困難な問題が大きいのではないでしょうか。

小 松  非常に小さな芽は、ソビエト連邦でも出てきていると思います。しかし、民衆のそういう新しい芽を、政府は育てるのかどうか、例えば、この人は地方から出てきたけれども、ちゃんと教育すれば立派な市民になるんだという民主主義の基本が第二の波の時に築かれて、それが第三の波の時代に花開こうとしているのではないかと思うんです。共産圏の大きな問題は、政府が基本的に民衆を信じていないということではないかと思います。

トフラー まったくそのとおりです。ソビエト連邦は民衆に思想の自由・創造の理由を許すべきなんです。官僚たちは技術を高度化すれば第三の波の文明が到来すると思っていますが、ビデオカセットなど、情報や言論の自由を前提とするものです。それを阻害しては、第三の波はやって来ないでしょう。

小 松  そうです。日本の場合は逆に、第二の波の時代に国家独占というのをやったわけです。国家が、産業、軍事、防衛、それに鉄道や通信体系まで握ってしまい、民間には勝手に使わせないという基本姿勢ができてしまった。しかし、実は80年くらい前の第二の波時代に作られた古いシステムが、現在非常に非効率になってしまい、将来に対する発展が阻害されているのです。
 テレビやラジオのネットワーク・システムにも、日本ではライセンスが必要であり、しかも巨大ないくつかのネットワークが、電波を全部おさせている。ところがビデオカセットができ、ホームVTRが出回ってきたため、いろんな放送局の番組をカセットにとってみることができるようになりました。日本では、ケーブルテレビとか民間のサテライトを使った放送などはこれからの問題ですが、アメリカの状況をみていると、そういう多様な情報に対して日本人もパニックになったりせず、その中からもっとも必要な情報を選択して、自分の生活を充実させることになると思います。

プロシューマー
小 松  ところで、トフラーさんはプロシューマー(生産消費者)という概念をお出しになりました。まさにこれは、第三の波の人びとの一つの特徴だと思うのですが、そのようなプロシューマーがふえていったら困る事態も出てくるのか、あるいはそういう人たちこそ人類の新時代を作っていく人たちだから、彼らをサポートしなければならないのか、どうお考えでしょうか。

トフラー プロシューマーというのは、どんな経済学者も考えつかなかった概念でしょう。今ロボット時代に入り、各国が失業問題をかかえています。このような時に、労働の機会をふやすことのできる生産=消費活動は、経済学的にもきわめて有用な概念だと思います。プロシューマーというのは、より人間的な、疎外感のない人たちになると思います。
 また、生産=消費活動が巨大企業をつぶすとは思いません。むしろ、生産=消費活動は社会の緊張を緩和するだろうと思います。ミッテランのフランスやオランダで、興味深い提案がなされています。労働時間を減らして、雇用機会をふやそうとしていうのです。いろいろの取り決めが必要でしょうが、こうした考えは、エレクトロニクス住宅ともうまく合致します。第三の波の文明は経済の根本的変化で、それが一般化するには相当長い期間を要するでしょうが、大企業をつぶすようなものではないと思います。

思考のスピード
小 松  宇宙空間から地球をみることができたのは、1960年代以降だったですね。あの時、私は大変なショックを受け、それまで引き出しにマリリン・モンローの写真を入れていたんですが、それからは地球の写真を入れて、時々見るようにしているんです。
 結局、宇宙を媒介にして初めて、われわれが地球という惑星の上に住む人類だということが深く印象づけられたんですね。私はスペースシャトルが使われ始めたら、世界中のリーダーに宇宙空間に集まってもらい、地球を目の前にみながら自分たちはこの地球に責任があるんだぞ、と自覚しながら話をさせれば、いろいろとよい考えが出てくるのではないかと思うんです。

トフラー 1973年に衛星通信が導入されて以来、アメリカ社会は大きな影響を受けました。それまではせいぜい、ケーブルテレビをどうするかなどと話し合っていたにすぎなかったんです。しかし1973年から1974年に衛星通信によるいろいろな計画が一挙に実現すると、アメリカのマイクロ回線のシステムは、急激に整備されました。確かに、通信衛星は土地資源開発地図や環境生態地図を作るのに使えるばかりでなく、情報が国境を越えて入手できる結果、ある点で軍隊の力を無効にし、民族国家に変わる世界的な政治体制を作り出すことにもつながるだろうと思います。
ところで、情報産業もコンピュータ産業も始まったばかりです。この2つはますます密接な関係をもつようになるでしょうが、どこまでがコミュニケーションで、どこからがデーターベースの操作かは区別がつきにくくなる。小松さんは、この2つの相互関係の将来がどうなり、われわれの精神にどんな影響を及ぼすと思われますか。

小 松  人間の思考のスピードを早めるのに、コンピュータとコミュニケーションが結びついた仕掛けがあれば、一生のうちにはとても考えられなかったようなことが可能になるのではないかと思うのです。例えば、百科事典やほんの必要なページを写していた。それがコピー機械を使うようになって、必要な部分がいっぺんにコピーできて、目の前にくるようになったわけです。またあるときの確認をしたい時、自分の書庫か図書館まで行かなければならないので、めんどうだから明日にしようということになる。翌日になると、いったい自分はなぜそんなことまで考えていたのかがわからなくなってしまう。アイデアが出てきた時、確認がすぐできたら次のステップへ行くわけです。一晩のうちでステップが10でも20でも進める。そうすると、創造性は非常に高くなるだろうという気がします。