回転が早いので、昼時も少しだけ並ぶと食べられます(•‿•)
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三好達治が朔太郎の妹、萩原アイ(愛子)に初めて会ったのは、昭和2年10月、東京大田区馬込の朔太郎の家
当時の馬込は関東大震災後に画家や文士が集まり、馬込文士村を形成
北原白秋、室生犀星、萩原朔太郎の三大詩人も暮らしていた
達治は東京帝国大学仏文科の四年生、既に詩人の駆け出しで、朔太郎に師事していた
“太郎を眠らせ、太郎の屋根に雪ふりつむ。
次郎を眠らせ、次郎の屋根に雪ふりつむ。”
「雪」昭和2年3月
萩原アイは朔太郎の妹で四姉妹の四女、二度結婚した出戻り
馬込に住んでいた小説家の宇野千代は、「萩原の家には美しいと言うよりは、お姫さまかと思われる風情の妹がいたのである。」
朔太郎、アイの父親の密蔵は大阪で代々続く開業医の三男で、東京大学で医学部を首席で卒業、前橋市で医院を開業していた
裕福な医者の家に生まれた、アイは何不自由なく育ち、我儘な性格だったらしい
帝大の学生だった達治は一目で恋に落ち、アイに結婚を申込む
朔太郎の母は貧乏書生の将来を危ぶみ、結婚を許さなかった
帝大を卒業した達治は、朔太郎の紹介で、北原白秋の弟が経営する出版社に就職するが、程なく経営不振でリストラされる
果たして、達治とアイの婚約は破談となった
朔太郎の娘、萩原葉子(1920〜2005)が、達治とアイの恋愛・結婚離婚をモデルに書いた小説が「天上の花」
アイは慶子と名前を変えているが、他は実名で登場し、ノンフィクション小説の体裁
(手前)から朔太郎の妹、萩原アイ・慶子(入山法子)、(左)萩原朔太郎(吹越満)、(中央)三好達治(東出昌大)、(右)朔太郎の妻、萩原稲子(鎌滝恵利)
達治と破談となった慶子(アイ)は、谷崎潤一郎からプロポーズされるも断り、昭和8年、売れっ子の作詞家佐藤惣之助と結婚する
慶子に子供はいない
一方、達治も昭和9年、佐藤春夫の姪智恵子と結婚し、一男一女をもうける
昭和17年5月11日 萩原朔太郎 死去
昭和17年5月15日 佐藤惣之助 死去
昭和18年 朔太郎の一周忌で達治と慶子再会 「16年と4ヶ月待ちました」と慶子を口説く
慶子は、達治が離婚することを条件とする
達治は協議離婚し、昭和19年5月、疎開していた福井県三国に慶子を迎える
都会ぐらしの豪華な生活に慣れ、我儘な性格の慶子と「詩」を至上とする清貧な生活の達治は次第にすれ違い、慶子は「詩」を解さず暮らしの不満をつのらせる…
達治は愛を叫びながらも、
慶子に凄絶なDVを繰り返す…
朔太郎は、三好達治について「彼の性格の中心には魂の不潔さというものが少しもない。三好君は心情の高貴性と美しさを持っている人間。」と評している
その純粋で心情の高貴性を持った達治であるが慶子への暴力は日ごとにひどくなっていく
あの美しい顔を「お岩さんのように」殴打されたり、下駄でふみつけられたり、髪をつかまれ階段からひきづりおろされたりするのである
ついに、昭和20年3月、慶子は三国から逃れる
達治と慶子(アイ)が暮したのはわずか10ヵ月に過ぎなかった
北国の春を告げる辛夷(こぶし)の花が咲く頃だった…
「天上の花」とは、曼珠沙華を指すが、ここでは三好達治の詩から辛夷の花を表している
映画では、慶子を愛しながら暴力を振るう達治の精神分析については語っていない、おそらく原作でも書かれていないのだろう(読んでいないが…)
達治は陸軍幼年学校、陸軍士官学校に在籍した職業軍人のエリートであったが、途中から文学の道に進んだ
彼の中には、士官学校出で、第三高校(京大予科)では剣道三段(戦前の三段は今の五六段といわれる)の益荒男振りと、小心で感傷的な手弱女振りが同居していたようだ
朔太郎は、三好君は「一種妙な豪傑笑いをする。爽快な笑いであって、しかも空洞(うつろ)に寂しい笑いである。」
この文を読んで、三島由紀夫を思い出した
川端康成と三島由紀夫、萩原朔太郎と三好達治 なんとなく似た関係性を感じる
川端康成も萩原朔太郎も生得的に「美」を自らの内部に醸成でき、魔界や幻視の世界を往来した
対して、三島由紀夫と三好達治は自分には無い「美」に対して強い憧憬を持ち、三島は理性の力で、達治は国民の力でそれを獲得しようとしたのではないか
さて、映画は詩人のアンビバレントな愛と暴力を観客に放り投げた
役者は実在の人物をよく研究したであろう努力が見られる
東出昌大は軍人の役がよく似合い、今回も三好達治のアンビバレントな怪しさがよくでていた
入山法子は我儘でスノッブな慶子の役を見事にこなしている、上手い
吹越満の萩原朔太郎はさすが
注目したのは、三国の支援者小野夫人を演じた、「ぎぃ子」だ、これからブレイクしそう
★★★✰☆
文学好きは見逃せない