6. 『秒速5センチメートル -a chain of short stories about their distance-』 その2 「コスモナウト」
2007年 脚本・監督 新海 誠
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青色LEDの開発者への2014年ノーベル賞が発表された日、鹿児島の種子島で気象衛星ひまわりの打ち上げがありました。
秒速5センチメートルのふたつ目のお話は種子島が舞台です。
H2-A型ロケットで太陽系の外まで旅をする探査機を打ち上げるシーンが終わりの方にでてきます。
どこからどこまでを太陽系というのか知りませんが、冥王星までの距離だとすると、59億キロメートル。
新幹線の速度で近づいたら二千年もかかる距離。音速と同じ速さで近づいたら、550年。
よく使うから新幹線の速度はイメージがわくけれど、二千年の距離は想像がつかない。
遠いんだろうなぁ...。
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自分の言いたいことが伝わるってとても嬉しいことですよね。
世代が違うと簡単なことでもなかなか理解しあえないものです。
若い仲間と話していると、こちらはただ質問しているだけのつもりでも、彼らは、自分の考えが否定されていると感じて、考えの支点をぶらしてしまい、支離滅裂にになってしまうことがあります。
先日、コミュニケーションがとても苦手な若い人と意見の食い違いがあった際、珍しく彼は考えをぶらさずに言いたいことを最後まで言うことができました。
一生懸命調べていたことなので自信があったのでしょう。
それでも年の離れた上司に自分の考えをきちんと主張することは、少し勇気のいることです。
伝えたいことをきちんと伝えることができる。
当たり前のことのようですが、苦手な人にはものすごく高いハードルです。
伝わった内容は、実は大したことはないのですが、彼が少し成長したことが嬉しく、それ以上に、言いたいことが伝わった彼の喜びに感情移入してしまい、ものすごく嬉しくなりました。
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大学生のころ、自分には絶対釣り合わない同級生を好きになり、毎日あきらめようと思いながら過ごしていた時期があります。
…、後先考えず告白して、だめだった、という話です。
(危ない。つい調子にのって、細かく描写した文章をアップするところだった。恥ずかしい...。)
渋谷の喫茶店の暗い二階の席。
彼女は相手の自尊心を傷つけないよう、まっすぐ過ぎる気持ちを上手に受け流していました。
終始会話をリードしていた彼女には、私の思いを口にさせないという誘導もできたのかもしれません。
彼女に感謝しているのは、思いを伝えるチャンスを奪わなかったことと...、思いを受けとめた上で、きちんと断ってくれたことです。
心が触れ合う形はさまざまで、『桜花抄』の冬の桜の樹の下や、前に感想を書いた『打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?』の夜のプールでの出来事のように心が一つになるのは幸せな形です。
一方で、心にある思いの一つでも、誰か他の人の心に届けることができるということは、必ずしも幸福ではないかもしれませんが、心が触れあう一つの形ではないでしょうか。
私の心にあるものが他の人の心にもある。
同じものを見ているという感覚。
見ているものが同じだ、という感覚。
見ているもの自体は取るに足らないものであっても、その感覚には心震わせるなにかがあります。
一瞬に過ぎないのですが、そのとき確かに彼女は私を、私の心の中の一部分を、『見ていた』はずです。
…、えっと、映画の話ですよね。夜中に書いたラブレターのような恥ずかしい昔話はどうでもよいですよね。
次からまじめに映画の話書きます。
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人はなぜ宇宙に憧れるのだろう。
子供のころ松本零士さんの宇宙もののアニメに心躍らせていたのを思い出します。
宇宙戦艦ヤマト、キャプテンハーロック、銀河鉄道999、千年女王...、いつか自分も宇宙に飛び出したい、そう思っていました。
バカだったのかな?
遠くのものに憧れるという気持ちも強いのかもしれませんが、それと共に大きなものに憧れるという気持ちもあるのだと思います。
日本橋室町にものすごく大きなビルが建ち上がった時、夜中に見上げるその姿は神々しく感じられました。
(コレド室町ですね。)
宇宙は、どこまで行っても宇宙なので、遠いですし、どこへ行っても宇宙なので、大きいですよね。
遠い存在であり、かつ私達を包み込んでいる大きな存在。
そんな存在に憧れるのは、今の自分を超えたいと思っているから、...かな。
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秒速5センチメートル・コスモナウトは、今の自分を超えたいと思っている女の子が、遠くを見ている青年に憧れている姿を描いた作品です。
女の子は、とても魅力的なキャラクターで、長編の主人公になれるような個性と複雑な感受性を備えています。
(脇役のお姉さんも、もう少し長く見てみたい存在感があります。)
女の子は自分の周りを取り囲む見えない壁を乗り越えようと、もがいています。
見えない壁の正体は、地方の高校生が感じる選択肢の限られた将来への閉塞感なのか、
良くできる姉と自分との落差で感じる劣等感なのか。
彼女には見えない壁を乗り換えることができるかもしれない2つの希望がありました。
一つ目はサーフィン。
もう一つは、遠くを見つめていて、いつか自分を、その見つめている先に連れていってくれるかもしれない青年。
半年前から波に乗れなくなったスランプは、青年の言葉をきっかけに(密度の濃いチャレンジを繰り返すことで)乗り越えることができました。
波に乗れたその日、彼女は残されたもう一つの課題にチャレンジします。
その課題とは、青年に自分の気持ちを伝えることです。
青年は「とても優しいから」、きっと彼女の気持ちを拒絶することができません。
彼女を受け入れる余裕のない彼は、女の子に気持ちを伝える隙を与えません。
それは、彼女にとってとても残酷な仕打ちです。
絶望の淵に沈む女の子と青年の前で、種子島の夕空にH2-Aロケットが宇宙へ向け舞い上がります。
小さな自分をはるかに超えて、果てしのない宇宙へ旅立つロケットを、荘厳さに打たれながら見送る二人の姿がそこにありました。
雄大な光景に心奪われる青年の表情を感じながら、女の子は、彼の遠くに憧れる心を理解します。
そして、その反対はないこと、つまり自分の心を青年がまっすぐに見つめることはないことも...。
気持ちを伝えることで心が触れあうという経験はできませんでした。
それは、とても悲しいことですが、同じものを、同じ心で見たという経験が残ります。
Fin.