仕事と生活の授業(続き)

前に作ったホームページは、あまり読まれないようなのでブログで再挑戦です。

56.万葉集のはじめの歌『こもよみこもち』 その4 プロポーズ大作戦

2024年06月30日 | 和歌 短歌 俳句
今回は序盤の後半のさらに後ろ半分です。

学説によって漢字や読み方が
いろいろある困った部分になります。

A.「家告奈 名告紗根」
 →「いえのらな なのらさね」
B.「家吉閑名告沙根」
 →「いえきかな のらさね」
  「いえきかな なのらさね」

(ひらがなは、岩波文庫
 『原文 万葉集』に書いてあった 
 いくつかの読み方です。)

万葉集の底本として定評のある
西本願寺本はBです。
Aは、江戸時代の学者さん達が
Bでは解釈が難しいので、かなり強引に
Bを誤字としてしまったものです。
Bで解釈できれば、Bで良いと思います。

どちらも前半は5文字なのでOKです。
後半を7文字にしたいので一工夫必要です。

この歌の最後に家と名の対比があるので、
ここでも「名」は助詞ではなく
「名前」の意味で使いたいと思います。

「閑」一文字で「かな」と読む説もあり、
「いえきかな なのらさね」が良いのですが、
後半がどうしても7文字になりません。

「名告沙根」 
(「沙」は「紗」という写本もあります。)

「紗」または「沙」は
「少」という字が付いています。
「些細(ささい)な」とか
「細雪(ささめゆき)」とかの
小さいとか少ないという
意味の言葉があるので、
「ささ」と読んでも
良いのではないでしょうか?

ここの「紗」は、
尊敬の助動詞「す」の未然形
と言われていますが、
前回にも触れましたが、
天皇陛下が女の子に
尊敬語は使いません。
ここは、精霊が主語で
使役の助動詞として使われています。

初回に書いた私の翻訳では
「恋を実ら“せ”て」という
現代語の使役の助動詞「せる」
の連用形「せ」を使いました。

この時代、女の子が名を答えるというのは、
プロポーズにOKすることです。
精霊が女の子にOK「させる」よう
雄略天皇が精霊に
お願いするところなので、
使役の助動詞です。

使役の助動詞は「す」だけでなく、
「さす」もあるので、
字数を稼ぐために
「さす」を使います。

「さす」は、四段活用の「告(の)る」
には続かないので、
「告」は下二段活用の
「告(つ)ぐ」になります。

願望の助詞「ね」が続くので、
「さす」は未然形の
「ささ」になります。

「家吉閑 名告沙根」
 →「いえきかな なをつげささね」

「な」と「ね」は
上代特有の希望を表す助詞だそうです。

名前を言う意味の「名のる」
という言葉が現代でも残っているので、
「名告(の)る」
と言いたいところですが、
七五調の文字数優先です。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
それではここまでのところを
読んでみましょう。

篭毛與  > こもよ
美篭母乳 > みこもち
布久思毛與> ふくしもよ
美夫君志持> みいふくしもち
此岳尓  > このおかに
菜採須兒 > なつみをするこ
家吉閑  > いえきかな
名告沙根 > なをつげささね


七五調で流れるように読むと、
楽しさが伝わってきます。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

55.万葉集のはじめの歌『こもよみこもち』 その3 菜摘ます娘か菜摘みをする娘か

2024年06月30日 | 和歌 短歌 俳句
数年前、娘の大学受験があり、
なぜか一緒に古文の勉強を
することにしました。
文法の知識の元は、
『富井の古典文法をはじめからていねいに』
です。

それと、Z会の問題集
『古文上達』を勉強しました。
この本は名著ですね。
問題文の選択が素晴らしく、
共感できるものばかりで、
時代の違いを感じませんでした。

古文上達 基礎編 読解と演習45 - Z会の本

<編集者より>文法にどうやって取り組めばよいのかわからない人、学習しても読解にどう活かせばよいのかわからない人にお薦めの1冊です。 文法知識を身につけながら同時に...

Z会の本

笑いのツボに共感できるコントがあったり、
推し活の話があったりと、
とても現代的でした。

『古文上達』を読んで、
古典も現代の感覚で読んで
かまわないことに気が付きました。
短い流行り廃(すた)りはあっても、
長期的には安定した感覚が
あるんだと思います。

我々が遅れていると感じる
30年前の人より、
2000年前の人との方が
感覚が合ったりすることが起こりえます。
(2030年前の人とは合わない
ということになりますが。)

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
今回は『こもよみこもち』の歌の
序盤の後半の前半分です。

》》此岳尓 菜採須兒
》》このおかに なつますこ

ネットで見かける解釈の全てで
この歌は雄略天皇が女の子に声を掛けている
歌だとしています。
ところが、その説は、
ここの部分で都合が悪くなります

声を掛けるのに
すぐ目の前にいるのなら
「あなた」とか「きみ」とか
言えばいいので、
目の前にいる人に
「この丘で草を摘んでいる女の子」
とは呼びかけません。

ここは、離れたところにいる精霊たちに、
目の前のカゴやスコップを通して
話しかけているとの解釈の方が
辻褄が合います。

「(あっちの丘で果実をもいでいる
男の子ではなく、)
この丘で草を摘んでる
女の子のことなんですが、」
と精霊に問いかけます。

》》菜採須児
》》なつますこ
 
前の「このおかに」が5文字なので、
次は7文字のはずです。
一般的には「菜摘(なつ)ます子」
と読んでいますが、
助詞や助動詞の活用部分は
書かれていないことが普通なので、
それを補って本当は7文字だった
のかもしれません。


また、終わりの「すこ」に
とても違和感を感じます。
ずっこけそうな音の響きで、
「この丘」を「スコッー」と
滑り落ちていきそうです。


それと「す」は、
尊敬の助動詞という説明を見ますが、
天皇陛下が女の子に尊敬語を
使うのでしょうか?

また、「児」という名詞=体言の前の
助動詞「す」の活用は、
終止形「す」ではなく、
連体形「する」だと思うのですが、
この時代は違ったのでしょうか?

そんな例外はネットで出てこないので、
素直に次のように読みましょう。
「す」は「行う」の意味の
動詞の「す」の連体形「する」です。

「菜採須児」
 →「なつみをするこ」(7字)

助詞は適宜補って読むのが万葉集では
標準的な形です。
助詞「を」は、読み手が補って良いんです。


今日はここまでです。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

54.万葉集のはじめの歌『こもよみこもち』 その2 高校古文の知識と検索力で読解しました

2024年06月28日 | 和歌 短歌 俳句
高校レベルの古文の知識
しかありませんが、
ネット検索力で万葉集を
読解していきます。

(まずは序盤の前半です。)
篭毛與  > こもよ
美篭母乳 > みこもち
布久思毛與> ふくしもよ
美夫君志持> みいふくしもち

「持ち」という言葉について考えます。
前回「持ち」とは精霊や神様
または精霊や神様が宿っている人や物
のことだといいました。

たしか、
日本書紀か古事記に
「持ち」を役職名として
使っているところがあったなぁ、
と思い検索していると、
それが見つかる前に、
違うものが見つかりました。

「鍬(さい)持ちの神」という、
鍬(すき)や小刀などの
金属製品(「さい」と呼んだそうです)
の神様の名前がヒットしました。
(怪異・妖怪画像データベース より さいもちの神は、ワニです。)


さらに、有名な
保食神
(うけもちのかみ 「うけ」=食べ物)や、
くひさもちのかみ
(くひさ=ひさご=ひしゃく)
も見つけました。
ひさごは、ひょうたんのことを指します。
昔、柄杓(ひしゃく)は、
ひょうたんで作っていました。


彼らは、
鍬(すき)や食べ物や柄杓(ひしゃく)
に宿っている神様ですね。
前回の「持ち」の解釈は当たりでした。

役職にくっつく「もち」についてです。
「司」や「宰」と書いて
「みこともち」と読みます。
「御言(葉)」を持って任地に行く、
中央から地方に派遣される
長官のような役職で、
後の国司になる役職です。

「御言葉」ではなくて、
「尊」「命」(みこと)は、
貴い人の敬称なので、
貴い人自身が宿っている官職
という意味だと思います。

今でも外国に赴任する大使は、
天皇陛下から任命される
「全権大使」で、
元首の権限をすべて兼ね備えている
と言う建て付けになっています。
昔も今もそういう意味では同じです。

天皇陛下は、神様扱いなので、
「全権大使」は、神様が宿った人
ということで、自然に
「命持(みことも)ち」
と呼ぶのだと思います。

「みこもち」は、
「美(御)籠持ちの神」
「みふくしもち」は、
「美(御)掘串(ふくし=スコップ)持ちの神」
「美(み)」は当然美しいという意味もありますが、
神様への敬称「御(み)」でもあるようです。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
万葉集は万葉仮名という、
漢字の音読みで日本語(和語、大和言葉)
の音(おと)を表す文字を使っています。
一方で、漢文のように
意味を取ってそれにあった
訓読みで読む部分もあり、
かなり複雑です。

本当はどのように読んだかは
よく分からなくなっているようなので、
自由な発想で読むことにします。
自分の日本語の感覚で、
自分なりに確かだと思うように
読んでみたいと思います。

和歌は、五七調が原則です。
なるべく五七調に合うように
読み解いていきます。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
篭毛與 美篭母乳 布久思毛與
こもよ みこもち ふくしもよ

「こ」は、カゴで、
「も」と「よ」は助詞だそうです。
「も」は詠嘆? 
「よ」は「もしもし かめよ かめさんよ」の
呼びかけの「よ」です。

「も」は詠嘆でしょうか。
「も」は、不確定な事柄に付く言葉でした。
「かも」「ども」も今は一語ですが、
元々は複合語だったはずです。
「そうか“も“」
「そう言えど“も“」
どちらも不確定な事柄を表しています。

不確定な状況は嘆かわしいので
詠嘆のように見えるのでしょう。

選択肢が2つ以上あって、
どちらか定まらない場合もあります。
「行くも地獄、帰るも地獄」

確率の低い事柄が並ぶと掛け算で
更に確率が低くなります。
あまりに確率が低いと
確率の低いことが
起こり得ると思わせることができます。

「天気予報が昨日も今日も」
と聞くと、次に
「ハズレた」
がくると予想しますが、

「宝くじが昨日も今日も」
とくれば、
「当たった」
がくることを予想します。

このような経路で、「も」は、
不確定な事柄で無いことも
並列させる意味を持つようになります。
「猫も杓子(しゃくし)も(誰もかれも_何もかも)」

「ふくし」は竹でできたスコップです。


「籠(かご)の神様もスコップの神様も」
どちらも、という意味か、
「籠の神様でも、スコップの神様でも」
どちらでも良いので、というように
不確定な意味を残しているか.
どちらかですが、

どちらにしても一生懸命
お願いしている感じが伝わります。

『うさぎとかめ』の歌では
歌いだしでうさぎがカメを「遅い」と
ディスっています。


歌い出した後に
のんびりしたコアラが現れたら、
こうなります。


「もしもしかめよ、コアラ“も“よ
 世界の内で君らほど
 歩みののろいものはない」

「籠もよ」「堀串(ふくし)もよ」は
こんな感じで並列の助詞「も」と
呼びかけの助詞「よ」の組み合わせだと
思います。

ここまでは、「こもよみこもち」7文字
「ふくしもよ」5文字と
七五調なのですが、
次の「美夫君志持」が
「みふくしもち」なので、
6語になってしまいます。

「うさぎ うさぎ」の歌は


7語になるように
「ううさぎ うさぎ」と歌うので、
同じように「みいふくしもち」と
始めの「み」を伸ばしましょう。

さん、はい!

「こもよみこもち
 ふくしもよ
 みいふくしもち」

今日はここまで

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

53.万葉集のはじめの歌「こもよみこもち」 その1 とってもカワイイ歌でした

2024年06月25日 | 和歌 短歌 俳句
万葉集を読もうとして、
みなさん1首目でくじけると思います。
「こもよ、みこもち ふくしもち」
という歌ですが、
何言っているのかさっぱり分かりません。
解説読んでも納得いきません。
まずは、歌の全文をアップします。

(桜井市観光情報サイトより)
巻名 巻1-1
歌人 雄略天皇
書き下し文

籠もよ み籠持ち ふくしもよ みふくし持ち
この岡に 菜摘ます児 家告らせ 名告らさね
そらみつ 大和の国は 押しなべて 我こそ居れ しきなべて 我こそいませ
我こそば 告らめ家をも名をも

解説によると次のような状況だそうです。

かご(籠)とふくし(掘串)
=スコップを持っている
若菜を摘みに来たお嬢さんに
王様が言い寄っています。




その言い寄り方が変です

「きれいなカゴですね」
「美しいスコップお持ちですね」
「あなたの名前とお家を教えて下さい」
「私は王様で、私の治めている領地はどんどん広がっています」「名前とおうちを教えて(=結婚して下さい)」

こんなこと言われて女性はなびきますか?
相手が王様だからといって
こんな話が、よい歌として何百年、何千年と歌い継がれてきたとは思えません。

(ちょっと言葉遊びをしてみたくなりました。)

ずっと、歌い継がれてきたからには、
きっと、みんなが好きになる
あっと、驚く魅力が隠れているはずです。

もっと、考えてみようと思ったら、
すっと、分かりました。

えっと、この歌はとっても楽しい歌でした。
そっと、隠されていた秘密に
ぐっと、たどり着くまでの冒険に、
ちょっと、の間お付き合いください。

〜〜以下、脳内再生の為、敬語無し〜〜

「こもよ、みこもち ふくしもち」

「籠(こ)」ってカゴだから、
「かごめ、かごめ、かごの中の鳥は、」
と同じく童謡のような歌だったのかも
しれないなぁ。

「よ」って人ではないものに
語りかけているから、むしろ
「もしもしかめよ、かめさんよ」
の系統かも。

そもそもかごは生き物でもないから、
「かがみよ、かがみ、かがみさん」
に近いのでは?

「かがみよ」は
鏡の妖精にお願いをする話だから、
「こもよ」も
かごの妖精にお願いする話かもしれない。

(もちろん「かめさんよ」や「鏡よ」は西洋の話ですが…、)

「籠(こ)もよ、美(み)籠(こ)持ち」の
「持ち」ってどういうことだろう。

現代語で残っている
「もち」で思い浮かぶのは、
(「お餅」は置いておいて、)


「お金持ち」や


「力持ち」。


「お金持ちになりたい」とか
「若い頃は力持ちだった」
という使い方をするので、
「持ち」は「移り変わる性質」を
「変わらない主語」につなげる言葉。

運が良い人について
「持っている」って言うのは、
「持つ」という言葉には、
神様や妖精が宿っているような
イメージがあるから

〜〜〜〜以上、脳内再生〜〜〜〜〜〜

「お金持ちになる」は、
お金の神様や精霊が宿る
というイメージですかね。

私たちがものにも命がある
と考えるときには、
そのものの精霊が宿っていると
考えているのではないでしょうか?

「鏡よ、鏡、鏡さん」と
鏡に語りかける時には、
そこにある鏡自身に
語りかけているのと同時に、
「鏡の精」や「鏡の神様」に
語りかけている気持ちになります。

(「トイレの神様」という素敵な歌がありましたね。何度も泣きました。)

「籠(こ)もよ み籠(こ)持ち 掘串(ふくし)もよ み掘串(ぶくし)持ち」

これで歌の出だしについて分かりました。
この歌は、
娘さんに語りかけているのではなく、
娘さんの持っている
かご=かごの神様、
スコップ=スコップの神様(妖精)に
話しかけているんです。

「カゴよ、カゴさん」
「スコップよ、スコップさん(聞いて聞いて)」
って歌い出しなんです。

もうこれだけで、
楽しい歌だということが分かります。
ものに語りかけるなんて、
かわいいですよね。

「もしもしカメさん」の歌や
「メダカの学校」が記憶に残るのは
「かわいい」からです。

「スコップさん」などと言うと、
「スプーンさん、とことこ」の
絵本を思い出します。

この歌は、女性にプロポーズするのに、
本人に語りかけないで、
女性が持っている持ち物の妖精(神様)に
間を取り持ってもらおうとする歌です。

自分が治めている国が
どんどん大きくなっていることも、
プロポーズする相手に直接言うと
嫌味に感じられますが、
間に入っている人(もの?)に
一生懸命言っているとすると、
微笑ましくなります。

「ボクは本当は、凄いんだけど、
うまく伝えてくれるかな」
っていう感じです。

この歌の現代語訳はこんな感じです。
(「もしもしかめさん」の節で歌えます。)

[1番]
かごさん、かごさん、スコップさん
ここで菜を摘む女の子
名前を聞きたい、付き合いたい
灯(とも)した恋を実らせて

[2番]
伝えてほしいボクの国
空から見れば 分かるはず
どんどん広がる国だけど
ぱあっと広がる国だけど

[3番]
いえいえどうして 私から
かわいいあなたに伝えます
お呼びいただく 私の名
お越しいただく 家の名も


3番は、女の子の返事ですね。
(『うさぎとかめ』の歌も
ウサギさんとカメさんが
順番に歌っています。)

近くにいるのに、
持っている持ち物に語りかけられたら、
どん引きする人もいると思いますが、
初め少し驚くけれど、
それを可愛いと思う人もいるのでしょうね。

今回はそういう人で、
うまく行ってよかったですね。

こんな解釈は、
怖い雄略天皇のイメージに合わない
と思う方は、
ぜひ、古事記、日本書紀の
雄略天皇の巻を「原文(書き下し文)」で
読んでみてください。
ぶっそうなエピソードも多いのですが、
童心を持ち続けた雄略天皇の
かわいいエピソードも満載です。

120歳まで生きた天皇が
なぜ「ワカ(若)タケル」
と呼ばれたかよく分かります。
童心を忘れなかったからです。

鳥山明さんの漫画「ドラゴンボール」の
孫悟空のイメージにピッタリ合います。
もしかしたら、悟空のモデルは雄略天皇かも、
と妄想が膨らみます。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

52.日本神話の大八洲の誕生と実際の歴史(6)  島を双子に生むこと アワシマとヒルコの正体

2024年06月19日 | 日本神話を読み解く
日本書紀本文には、
佐渡ヶ島と隠岐の島は双子に生んだとあります。

今回はこの意味について考えます。

国土地理院地図の自分で作る色別標高図機能をあらためて見てみましょう。

佐渡ヶ島を見てください。

青い所を海とすると

同じような細長い形の島が二つ並んでいるように見えます。
陰影起伏図を見ると更に良く分かります。

土壌が堆積したところは、
なだらかな平野になっています。
そこは、海でした。

今度は隠岐の島の海図を見てみます。

水深の浅い所(50mくらい)までが陸地だった時代には

同じようなまんまるの島が二つ並んで見えたはずです。


南西側の群島は、
元々一つの山が噴火して
カルデラになったものと
考えられています。

そこに海水が入り込みました。

噴火前は、
本当にそっくりな山だったのかもしれません。

でも、その時代はだいぶ古いようです。

今のカルデラの形であっても、
縄文海進の途中、水深50mの所まで
海面が上がってきた時には、
西側の島の海岸線と東側の島の海岸線が
同じ形に見えたはずです。
その時代は、地質学で分かるはずなので、
神話の時代がいつか分かってしまいます。



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
そして、日本書紀本文には、
佐渡ヶ島と隠岐の島は双子に生んだ
とあります。

これを佐渡ヶ島と隠岐の島が双子だ
と解釈している人が多いと思いますが、

場所も形もだいぶ違う島を
双子と呼ぶでしょうか
(しかも間に越の洲がある)。

百聞は一見にしかずです。
先ほどの二つの画像をみれば、
まさにそれぞれが双子で、



隠岐の双子と佐渡の双子で
双子が二組いるということが明らかです。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
日本書紀は、本文とは別に
様々な異説を並べています。
異説の方が正しいとすると
多少修正が必要になりますし、
特に異説を元にしたと思われる
古事記の記載とは
うまく合わないかもしれません。

異説のいくつかに、大八洲を生む前に、
ヒルコと淡島を生んだという話があります。
これはつじつまが合うのかもしれません。

まず淡島ですが、
現在「あわしま」と検索して出てくる島は、
新潟県沖の粟島です。

これを海図で見てみると、
北東側に細長い長方形の
浅い海底の形が現れます。
縄文海進の際、
一度は大きな島だったことが
分かります。

本州と陸続きだった粟島は、
海水の進入によって本州から分離されます。
海面が現在より80m程度低い時のことです。
マイナス80mの等高線を見ると、
その時の島の面積は現在の
20倍以上になります。

しかし、
早い段階で現れてくる島は、
その後の縄文海進の進行で、
水没してしまいます。

異説の一つのように、
ヒルコが一番先に生まれた島だとすると、
粟島のように一部を残すこともなく
海進の進展で全て水没してしまった
と考えて良いのではないでしょうか。

海図を見ていると、ヒルコの候補となる
浅い海底がいくつか考えられますが、
それ以上の情報がない(気がつかない)
のでヒルコの位置は分かりません。

ヒルコは葦船で水に流した
との記載があります。
水没していく島を表現するのに
葦船に流すという言い方をするのは
どうしてでしょう。
(何の象徴なのでしょうか。)

洲を生むというのが、
洲に住んでいる人々を生む
という意味であれば、
島の水没を前に
住んでいる人々が
葦の船で
他の島に逃げていったということを
記録したのかもしれません。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
上の文章を書いたときには
思わなかったのですが、

今はヒルコが
山形県の飛島
ではないかと思っています。
(みんなの海図より)

(グーグルアースより)

飛島周辺の海底の浅い部分が
生き物のヒルのようですね。

(ウィキペディアより)

飛島は海上交通の要衝で、
縄文時代からの遺跡が
残っています。

(鳥海やわた観光 飛島全島マップ より)

飛島には蛭子前崎(えびすまえざき)
という地名があります。


蛭子は、「ひるこ」とも読みます。

また、賽の河原(賽の磧)という場所があります。


島の大半が水没した際の犠牲者を
偲ぶところではないでしょうか。


飛島は色々見どころのある島のようです。
いつか行ってみたいと思っています。

<ブラタモリコース3> 飛島の自然をたっぷり感じる旅

「山形県酒田市」のモデルコース・観光プランをご紹介。かつて「日本の中心!?」と言われるほど繁栄した北前船の寄港地、酒田。酒田港が風や潮の流れが強く入港できないに...

酒田さんぽ

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
飛島の周りのヒルのような浅い海底は、
そのさらに周りを水深300mの深い海底に囲まれています。

ここが本州と陸続きだったとすると、
当時の日本海の水面は、
当時の太平洋側の海水面より
かなり低くないといけません。

今のイスラエルにある死海のように、
海抜マイナス400m程度だった
ということになります。

(Googleマップより)

2万年前の寒冷期に
外洋との繋がりの絶たれた日本海では、
十分にその可能性があると思います。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
想像力を更に豊かにすると、
面白い偶然が見つかります。

飛島にはろうそく岩と呼ばれる岩があります。



淡路島の南のオノゴロ島だ
と言われている沼島(ぬしま)の
上立神岩(かみたてがみいわ)や
イースター島の
オロンゴの沿岸にある
イスロテ・モトゥ・カオ・カオ
という岩礁に似ています。


私の考察では、オノゴロ、オロンゴ、ンゴロンゴロは、円周状の山地に囲まれた窪地という意味です。

ろうそく岩のそばには、
島の高台との境界が
円周の一部(円弧)の形に
なった窪地があります。

46.タンザニアのンゴロンゴロ イースター島のオロンゴ 淡路島のオノゴロ - 仕事と生活の授業(続き)

タンザニアに大きな穴を意味するンゴロンゴロクレーターがあります。東太平洋南米チリ領イースター島のクレーター近くにオロンゴ(メッセンジャーの場所という意味...

goo blog


そこに先ほどの話にある
賽の河原(賽の磧)があります。

地元ではとても神聖な場所とされ、
そこに敷き詰められている
角の取れた丸い石を
取ってはいけないとされています。




ロウソク岩は、賽の磧(かわら)の
近くにあります。

オノゴロは、擬態語です。

飛島には、ロウソク岩のすぐ北側に
ゴトロ浜という浜があります。


ゴトリ、コトリは、重たいものや硬いものを落とした時の擬音語です。
ゴトロ浜に接して急傾斜の崖がそびえています。
重たいもの落とせば、
「ゴトリ」
と言いそうな崖に囲まれた海岸です。

回転を示す擬態語、
ゴロンゴロンを基にした
オノゴロ島とは、少し違いますが、
擬態語や擬音語を
地名に付けるという
文化が同じです。

最後にグーグルアースの航空写真を
見てみましょう。
手前の堤防の切れ目から、
同心円状に潮の流れが
打ち寄せて来ています。

古事記と日本書紀の一説を
思い出しました。

イザナギのミコトと
イザナミのミコトは
天の浮橋に立って
宝石でできた矛(ほこ)
で下界をコロコロ、クルクル
かき混ぜます。
矛の先から滴り落ちた
潮がオノゴロ島に成りました。

オノゴロ島には御柱があると
言われています。
そして
飛島の賽の河原には
ロウソク岩があります。


(グーグルアースより)

【追伸】
堤防の切れ目から、同心円状に潮の流れが広がっている写真を見ると、イザナギのミコトが天の瓊矛(ぬぼこ)でクルクルと潮をかき混ぜている姿を想像してしまいます。円弧状の崖も含め、ここもオノゴロ島だったのではないかと想像が膨らみます。


瓊矛(ぬぼこ)とは何でしょう?
瓊(ぬ)は宝石という意味です。宝石が付いている矛(ほこ)というのは想像しにくいのですね。
縄文時代の宝石というと、新潟県糸魚川産の翡翠の勾玉が思い出されますが、矛とは関係なさそうです。
一方、当時、黒曜石は大変貴重なものとして日本列島内で交易品として流通していたことが分かっています。
写真のように30cmを超える尖頭器と呼ばれる槍の先に付けた石器が出土しています。
(北海道の白滝遺跡から出土した黒曜石の尖頭器を含む大量の石器が2023年に国宝に指定されていました。全然知りませんでした。)

(文化遺産オンライン より)

(東北大学文学研究科研究年報 第 70 号 『最大の尖頭器と石槍をめぐって』 鹿又喜隆 より)

槍と矛の違いは、槍は突き刺すもので、矛は切るものと言われます。
30cmもある大きな尖頭器はとても突き刺すものとは言えず、切るものだったことが考えられます。
黒曜石のような貴重な石を使った矛ということになります。
これが瓊矛(ぬぼこ)の正体ではないでしょうか?



そして、私がオノゴロ島かもしれないと思った山形県酒田市飛島の賽の河原には、ここに自然にはあるはずのない黒曜石が見られるそうです。

イザナギのミコトが天の瓊矛を同心円状にクルクル回した時に刃こぼれした残りかもしれません。そう考えると楽しくなります。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする