仕事と生活の授業(続き)

前に作ったホームページは、あまり読まれないようなのでブログで再挑戦です。

27.『この世界の片隅に』(アニメーション映画)その五 ガルシア=マルケス 『百年の孤独』1967年 コロンビアの小説の感想

2017年05月19日 | 小説の感想
『百年の孤独』はこういうお話です。

コロンビアの山里から離れた土地に

追われるようにやってきた夫婦が村を作り

生きている人と死んだはずの人が混ざりながら暮らしていきます。


不思議なことと、身近な現実が入れ替わるように現れては、

消えていきます。


家庭内の主導権を嫁と姑が争い、

死んだはずの錬金術師が

感染性の不眠症に侵された村を救う。


異性に対する執着心に心乱され、

兄弟、姉妹の間で葛藤が起こり、

また、

王妃のように美しい娘は、

あたりまえのように空に消えて

二度と戻らない。


確かに起こったはずの大虐殺の生き残りは、

そんなことはなかったという目撃者達に驚き、

革命の英雄は、

和平を選んだ自分の誤りを、

老いて力をなくした時に気づく。


何が本当に起こったことで、

何がファンタジーか、

コロンビアの歴史を知らない私には区別がつかない。


けれど、コロンビアの歴史を踏まえた読者には、

とても新しい手法で、

本当にあったことを浮き彫りにする

作者の手法に驚いたことでしょう。


そう...、

日本人が『この世界の片隅に』で感じたように。

☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★


私の生きてきた時代には、

将来だれでも知っていることになるような歴史的な出来事は、

ほとんどなかったんだと思います。


それでも、私が目の当たりにした歴史に残る出来事があるとすれば、

大手銀行や大手証券会社が破綻した金融危機です。

当時私は、銀行の支店に勤めていたので、

大量の払い出しに備えるため本店に現金を取りに行きました。


本店の金庫の中に500億円くらいの現金が積んであり、

二度と目にすることのない現金の柱を見ながら、

なにかワクワクしていたのを覚えています。


自分の銀行が潰れるかもしれないという切迫した状況を

十分感じてはいながらも、

すごいものを見たことを、誰かに自慢したくなっていました。

(と書いて今自慢しているんですけど)


もちろん大変つらい思いもしたのですが、

のんきな時間も流れていく、

大きな歴史の中の小さな人の暮らしというのは、

そんなものなのかもしれません。


残念なことに『百年の孤独』を読む前に

コロンビアの歴史を全く知らなかったので、

この作品のテーマである大きな歴史と日常の対比を味わうことができませんでした。

ジャングルに迷い込んだ読者が、

霧に包まれた不思議な世界を目の当たりにし、

魔法の雲の上でふわふわ浮かんでいるような感覚を得ながら、

深刻で悲しい歴史を見せられる。

それを事実だと知らない読者には、

不思議な出来事の一つでしかないものが、

それを事実だと知っている人には、

胸を揺さぶられる悲しい想い出として蘇る。



とても素晴らしい物語の手法ですね。
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26.『この世界の片隅に』(アニメーション映画)その四 2016年 原作 こうの史代 監督 片渕須直

2017年05月07日 | 映画の感想文

 だいぶ時間が空いてしまいましたが、『この世界の片隅に』の感想の続きです。

 映画を始めとする芸術での物語の手法について書きます。

☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★

 映画や小説の世界へ鑑賞者を誘(いざな)う方法は、

 いくつかの型があると思います。

 『この世界の片隅に』では、

 こまごまとしたディテイルに拘った日常の描写と、

 小さなファンタジーを織り交ぜるという方法をとっています。

 小さな嘘と小さな本当を並べていく方法です。

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


 一方、SFなどでは、大きなフィクションの世界に観客を誘う為に、

 ディテイルに拘ったリアルな描写を積み上げるという方法をとります。

 (映画製作のバイブルと言われているロバートマッキーさんの『STORY』という本に書かれている例ですが)

 『エイリアン』では恒星間輸送を担う宇宙船の存在という物語の根幹となるフィクションがあり、

 そのフィクションに信憑性を持たせる為、ディテイルに拘ったリアルな日常描写がなされています。

 運送業で働くトラック運転手が現実に語りそうな給料に関する会話や、

 家族の写真が飾ってある運転席の様子を映画に取り入れています。

 これは、大きな嘘の為に小さな本当を並べていく方法です。

☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★

 『この世界の片隅に』では、

 化け物にさらわれかけたり、座敷わらしが現れたりする小さな嘘と、

 短くなった鉛筆をナイフで削ったり、鉛筆を転がして遊んだりという、

 一定の年代にはとてもリアルな現実が並べられています。

 小さな嘘と小さな現実が織り交ぜられることで、

 ファンタジーと現実の境界があいまいとなり、

 いつの間にか作品の世界に誘い込まれてしまいます。

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 そして、この作品の終盤、

 ファンタジー以上に信じがたいリアルな戦争が描かれます。

 作品の世界に入り込み、ファンタジーを現実として受け入れている観客は、

 現在の日本ではとても信じられないような戦争の現実も受け入れざるを得なくなっています。


 SFが、大きな嘘に誘う為に小さな本当を積み重ねるのと異なり、

 この作品は、結果として、小さな嘘と小さな本当を並べることで、

 大きな嘘以上に信じがたい大きな本当(戦争)に真実味を与えています。

☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★

 小さな嘘と小さな本当を並べることで作品世界へ誘う方法は、

 (私は初めて出会いましたが、)

 他の作品でもあるのではないかといろいろと検索してみました。


 リアルな現実を相対化するという意味では、

 シュールレアリスムの手法が近いのかなとも思いますが、

 シュールレアリスムの絵画作品の多くは、大きな嘘が前面にでてきていて、

 小さな嘘と小さな本当を並べるという手法とは少し違う感じがします。

 (『光の帝国』など、マグリットの作品の中にはそれに近いものがあると思いますが。)

 https://www.guggenheim.org/artwork/2594

 戦争の悲惨さを訴えるという点では、

 ピカソがキュビズムで描いた『ゲルニカ』が有名ですが、

 やはり小さな嘘を並べる、という感じはしません。

 http://www.museoreinasofia.es/coleccion/obra/guernica


 いろいろ検索する中で、やっと見つけました。

 【マジックリアリズム】

 これですね。


 小さなファンタジーと細部に宿るリアリティーを並べることで、

 観客の現実を相対化して作品の世界に誘い込む手法。

☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★

 さっそくマジックリアリズムの代表作である

 コロンビアの作家ガルシア=マルケスの

 『百年の孤独』

 を読んでみました。


 (続きはまた今度。)
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