新井素子さんの自伝的小説「定年物語」(中央公論新社)を読了しました。新井素子さんの小説を読むのはボクにとって初めての経験でしたが、同世代の作家ということもあり親しみを感じるとともに、1つの文章が短く簡潔でとても読みやすかったです。500ページ近くある長編小説でしたが、抵抗なく最後までサクサクと読むことができました。
作者の新井素子さんに関しては、ボクは「どこかで名前は聞いたことがあったよなぁ…」程度しか知らず、自伝的な私小説として「結婚物語」とか「新婚物語」とか「銀婚式物語」なんていう夫婦モノの小説も書いていたことも初めて知りました。今回読んだのは、そのシリーズの中の初老編である「定年物語」です。
主人公は現在62歳の正彦さんと陽子さんの夫婦です。正彦さんが定年を迎え、さてこれからは、一緒に旅行を……と期待していた2人。しかし、折しも世の中はコロナで自粛中。そんな中で、新たなフェーズに入った2人の生活は?俳句、骨董と、趣味の道をきわめる正彦さんと、QRコードやスマホに苦しめられたり、日々のちょっとした生活の変化を楽しんだりする陽子さんの日常を綴る物語です。何よりも2人の感じ方や価値観に、ボク自身も共感しながら気楽に読めたというのがヨカッタですね。いやぁ〜おもしろかった!
で、今「新井素子」と「定年物語」をネットで検索していろいろ情報を得たのですが、ボクはさっき新井素子さんのことを「どこかで名前を聞いたことがあったよなぁ…」なんて書きましたが、訂正します。ボクは彼女のことを知っていました。それどころか今から40年以上前に、「とんでもない女子大生がいる!」ってビックリしていたことを思い出しました。
当時、ボクが好んでよく読んでいた漫画の作者に「吾妻ひでお」という漫画家がいました。「ふたりと5人」とか「やけくそ天使」とか、ちょっとエッチで不条理系の漫画を描いていた人だと記憶しています。後にアルコール依存症や自殺未遂なども起こし、それをネタに描いた「不条理日誌」なんていう作品もボクは読んでいました。
その”吾妻ひでお”氏と、この”新井素子”さんが、なんと40年前に共著でこんな本を出していたのです。
「ひでおと素子の愛の交換日記」です。この本の執筆時、新井素子さんは20歳前後の女子大生。ボクは20代の頃に、間違いなくこの本を書店で立ち読みしていました。今、その記憶が蘇りました(本に何が書いてあったかは蘇りませんが)。いやぁ〜あの時代に女子大生だった新井素子が、自伝的小説の「定年物語」かぁ。時間は確実に流れているなぁ。ますます感慨深いです。