代表弁護士藤田進太郎が「東リ事件大阪高裁判決の解説 ~偽装請負を理由とした労働契約申込みみなし制度適用への対応~」と題する講演を行いました。
主催:日本経済団体連合会
日時:2022年5月26日(木)10:30~12:00
場所:東京都千代田区大手町1-3-2 経団連会館
内容
・東リ事件大阪高裁令和3年11月4日判決を検討する必要性
・前提知識の確認
・東リ事件大阪高裁令和3年11月4日判決の解説
・実務上の留意点
・質疑応答
__________________
代表弁護士藤田進太郎が「東リ事件大阪高裁判決の解説 ~偽装請負を理由とした労働契約申込みみなし制度適用への対応~」と題する講演を行いました。
主催:日本経済団体連合会
日時:2022年5月26日(木)10:30~12:00
場所:東京都千代田区大手町1-3-2 経団連会館
内容
・東リ事件大阪高裁令和3年11月4日判決を検討する必要性
・前提知識の確認
・東リ事件大阪高裁令和3年11月4日判決の解説
・実務上の留意点
・質疑応答
__________________
1 勤怠管理
遅刻や無断欠勤が多い社員の対応として最初にしなければならないことは,遅刻や欠勤の事実を「客観的証拠」により管理することです。客観的証拠が存在しないと,遅刻や欠勤の立証が困難になることがあります。
遅刻時間の管理は,タイムカードや日報等を用いて,通常の労働時間管理をすることにより行います。
欠勤日数の管理は,タイムカードの打刻や日報の提出がないことを確認しつつ,欠勤届を提出させることにより行います。
2 原因の調査
次に,どうして遅刻や無断欠勤が多いのか,その原因を調査する必要があります。
なぜなら,遅刻や無断欠勤が多い原因としては,大きく分けて,
① 体調不良
② だらしない
の2つがあり,原因がどちらかにより,対処法が違うからです。
体調不良のため遅刻や無断欠勤が多い場合は,残業を禁止したり,医師への受診を促したり,休職命令を検討したり,傷病手当金の申請を促したり,普通解雇を検討したりする等,体調不良の社員に対する通常の対応を行います。
他方,社員の体調に問題はないのに,単にだらしないため遅刻や無断欠勤が多いような場合は,注意指導等の問題社員に対する通常の対応を行います。
3 注意指導
だらしないため遅刻や無断欠勤が多い社員については,十分に注意指導して,正当な理由なく遅刻や欠勤をしてはいけないこと,やむなく遅刻や欠勤をする場合は速やかに会社に連絡する必要があること等を理解させ,正当な理由のない遅刻や無断欠勤をなくす努力をして下さい。
注意指導の主な目的は,
① 正当な理由のない遅刻,欠勤をなくすこと
② 証拠の確保
の2つです。ポイントは,
① 正当な理由のない遅刻,欠勤をなくすこと
が一番の目的であって,
② 証拠の確保
を一番の目的にしてはいけないということです。
確かに,注意指導したことを立証するための証拠を確保しておく必要はあります。しかし,正当な理由のない遅刻,欠勤をなくすことを第一の目的としなければ,形だけいくら注意指導しても問題社員の勤怠を改善させることは難しいでしょう。単に「証拠作り」をしているに過ぎないことが透けて見えれば,労働審判や訴訟においても,懲戒処分や解雇の前提として行うべき注意指導をしたと評価してもらえない可能性が高くなります。
遅刻や無断欠勤が多い問題社員の態度が悪く,改善の意欲が見られないと,注意指導する側も匙を投げてしまい,辞めてもらうための証拠作りを注意指導の主な目的にしたくなるかもしれません。しかし,そのやり方ではかえって,辞めてもらうという目的を達成することを困難にしてしまいます。問題社員の遅刻や無断欠勤をなくすことができるよう誠心誠意注意指導することが,結果として,問題社員の正当な理由のない遅刻,欠勤をなくすことや,改善しない場合の退職につながるのです。大変かもしれませんが,頑張って下さい。
遅刻や無断欠勤の多い問題社員を注意指導するに当たっては,遅刻や欠勤の事実を確認するほか,遅刻や無断欠勤の理由等についても事情を聴取します。事情を聴取したら,説明内容に対応したフィードバックを行い,遅刻や無断欠勤をなくすことができるようベストを尽くして下さい。
事情聴取の内容は,報告書等の形で上司に報告し,記録に残しておいて下さい。報告書等の書面の形式では大げさだというのであれば,上司への電子メールでの報告でも構いません。会社経営者等,社内で報告する相手がいないような場合は,顧問弁護士にメールで報告するとよいでしょう。遅刻や無断欠勤の程度が甚だしく,懲戒処分を念頭に置いているような場合は,聴取結果を事情聴取書にまとめた上で聴取内容を確認させ,署名押印させることもあります。
上司等への報告や事情聴取書は,5W1Hを意識して「事実」を記載したものを作成して下さい。何月何日の何時頃,どこで,誰が,誰に対して,何をしたのか(どのような言葉のやり取りがなされたのか)といった客観的な事実を記載する必要があります。必要に応じて,どのように話したのか,どうしてそのように話したのかといったものを付け加えてもいいかもしれません。「事実」を記載せずに,「遅刻が多い。」とか「反省の色が見られない。」といった評価的な表現や「次に遅刻したらいかなる処分を受けても異存ありません。」といった反省の気持ちを表明する発言の記録が中心となってしまったのでは,遅刻や無断欠勤の具体的事情が明らかにならず,証拠価値が低くなってしまうことがあります。
口頭でいくら注意指導しても遅刻や無断欠勤が改まらず,業務に支障を来しているような場合は,「注意書」「厳重注意書」等の書面に5W1Hを意識した具体的事実を記載した「書面」を交付して注意指導しましょう。具体的事実を記載した「注意書」「厳重注意書」等の書面で注意指導することにより,本人の改善をより強く促すとともに,注意指導したことの証拠を確保することができます。遅刻や無断欠勤を繰り返していて,普段は自分の非を認め謝罪の言葉を口にしていたような社員であっても,労働審判や団体交渉の席では,「遅刻や欠勤は会社に認めてもらっていましたし,上司から十分な注意指導を受けたこともありません。」などと言って,懲戒処分や解雇の無効を主張するのがむしろ通常です。
「注意書」「厳重注意書」といった書面を受け取ったことがないと言われないようにするため,受領書にサインを取った方がいいのかとか,書留郵便で郵送した方がいいのかといった質問を受けることがよくあります。確かに,万全を期すのであれば,そういった配慮が必要なこともあるでしょう。しかし,実際の事案では,「注意書」「厳重注意書」といった書面を交付したにもかかわらず,受け取っていないと言われることは,それほど多くはありません。「確かに厳重注意書を受け取りましたが,内容が事実とは異なります。」といった主張がなされることがほとんどです。したがって,ほとんどの事案では,押印済みの「注意書」「厳重注意書」といった書面の写しとPDFを取った上で,本人に「注意書」等を交付し,何月何日何時頃どこで誰が当該社員に注意書等を交付したのか,その際,どのような言葉のやり取りがなされたのかを記録し,上司や顧問弁護士にメールで報告しておけば十分です。極端な虚言癖のある社員等,特に必要性が高い場合についてのみ,「注意書」等を交付するとともにそのPDFをメール送信したり,書留郵便やレターパックで「注意書」等を郵送したりすれば足りると思います。
注意指導の際のやり取りを録音しておくことも考えられますが,録音されていることを意識すると,言いたいことを素直に言えなくなってしまう可能性があります。録音記録を労働審判等で証拠として使うためには,反訳(文字起こし)して文書化しなければならないため,録音記録の利用は手間がかかる面があることを意識する必要もあります。録音記録は,必要性をよく検討した上で,必要性が高いと判断された場合に利用すべきと考えます。
従来,ルーズな勤怠管理をしていた職場の場合,従来であれば容認されていた程度の遅刻や無断欠勤をした社員に対し注意指導しても,なかなか受け入れられず,上司が遅刻や無断欠勤を注意したところ,「パワハラだ。」などと言われることも珍しくありません。遅刻や無断欠勤をしないのは当然のことなのですが,ルーズな勤怠管理をしていた会社にも落ち度がありますので,直ちに懲戒処分等を行うことはお勧めできません。今後は遅刻や無断欠勤を許さない旨,明確に伝えた上で,粘り強く注意指導し,それでも改善しないときに懲戒処分等を行うことをお勧めします。
遅刻や無断欠勤が多い問題社員に対し電子メールを送信して改善を促しつつ注意指導した証拠を確保することも考えられますが,電子メールでの注意指導は,必ず「口頭での注意指導とセット」で行って下さい。遅刻や無断欠勤が多い問題社員が,在職中であるにもかかわらず口頭での注意指導を拒絶し,電子メールでのみ注意指導等をするよう要求してくることがありますが,口頭での注意指導を怠ってはいけません。口頭でのコミュニケーションと比較して,電子メールでのコミュニケーションは,誤解が生じやすいものです。恋人や友達と喧嘩した際,電子メール,メッセンジャー,LINE等での話し合いでは埒があかなかったのに,実際に会ってしばらく話しているうちに仲直りしたという経験がある方も大勢いらっしゃるのではないかと思います。口頭での注意指導をせずに電子メールだけで注意指導した場合,注意指導の効果が上がらず,かえって「パワハラだ。」などと反発を受け,問題がこじれることはよくある話です。仮に,会って話すことができないような状況であっても,電子メールでの連絡で終わらせずに,せめて,電話で話すくらいの努力はするようにして下さい。テレビ電話機能を用いて,お互いの姿を表示しながら話し合うことができればより望ましいところです。
口頭で十分に注意指導せずに「書面」でのみ注意指導することもお勧めできません。社員の言い分を聴きながら口頭で教え諭して正しい方向に導いていく努力なしに,遅刻や無断欠勤の多い社員の態度を改めさせることは困難です。口頭での注意指導が不十分なまま,書面での注意指導や懲戒処分を行った場合,単に「証拠作り」をしているだけのように見えてしまうこともあります。
4 実態どおりの評価
勤務成績の評価は,遅刻や無断欠勤を正確に反映したものにして下さい。実態よりも高い評価をしているような会社は,勤務成績の評価の信頼性が低く,トラブルが拡大しやすい傾向にあります。
勤務成績の評価を実態に合わせて下げて昇給を停止したり,賞与を他の社員よりも大幅に低額にしたり,懲戒処分を行ったりして紛争になった場合,どうして勤務成績の評価を下げたのか,懲戒処分を行わなければならないのかを説明できるようにしておく必要があります。従来は実態よりも高い評価がなされ,昇給幅も賞与額も他の社員とあまり変わらなかった社員に関し,繰り返される遅刻や無断欠勤に堪忍袋の緒が切れて勤務成績の評価を実態に合わせて大幅に下げたような場合は,評価を大幅に下げた合理的理由を説明する難易度が高くなります。その結果,評価を実態に合わせて大幅に下げたことがハラスメントと受け取られて紛争となったり,配置転換・降格,懲戒処分,解雇等が無効と判断されたりするリスクが高くなります。
実態よりも高い評価をした方が部下に好かれやすく,問題を先送りにできることもあり,管理職の中には,下手に厳しい評価をして部下に不満を持たれては損だ,実態よりも高い評価をしてあげる上司が良い上司だ,などと勘違いしている者も少なからず存在します。言ってみれば,会社の利益や公正な評価よりも,自分の利益を優先させているわけです。部下の良いところも悪いところもありのままによく見てあげて適正に評価することの重要性を社内で共有しておくべきでしょう。
5 配置転換・降格
遅刻や無断欠勤があったのでは支障が大きな業務に従事している場合は,人事権を行使して,担当業務を変更することを検討する必要があるかもしれません。
管理職が遅刻や無断欠勤が多く,部下やプロジェクトの管理に支障を来すなど,管理職としての適格性を欠くような場合は,「人事権」を行使して,管理職から外す等の対応をするとよいでしょう。就業規則には「懲戒処分」としての降格処分が規定されていることが多いですが,多くの事案において会社にとって最も重要なのは「適材適所」の実現であって,当該管理職の処罰ではありません。懲戒処分の形式を選択する必要性が高い例外的な場合を除き,「懲戒処分」としての降格処分をするのではなく,「人事権」を行使して管理職から外す等の対応をすることをお勧めします。
6 懲戒処分
「厳重注意書」等の書面で注意指導しても遅刻や無断欠勤が改まらず,業務に支障が生じている場合は,懲戒処分を検討せざるを得ません。遅刻や無断欠勤が多い社員の対応としては,まずは,譴責,減給といった軽い懲戒処分を行い,それでも改善しない場合に出勤停止等のより重い処分をしていくことになります。
民間企業の社員と国家公務員との性質の違いは意識する必要があるものの,懲戒処分の種類を決定するに当たっては,人事院事務総長発「懲戒処分の指針について」が参考になります。同指針は,遅刻や欠勤に関する標準的な懲戒処分として以下のように規定しています。
(1) 欠勤
ア 正当な理由なく10日以内の間勤務を欠いた職員は、減給又は戒告とする。
イ 正当な理由なく11日以上20日以内の間勤務を欠いた職員は、停職又は減給とする。
ウ 正当な理由なく21日以上の間勤務を欠いた職員は、免職又は停職とする。
(2) 遅刻・早退
勤務時間の始め又は終わりに繰り返し勤務を欠いた職員は、戒告とする。
有効に懲戒処分を行う前提として,懲戒の種類と事由を就業規則に明記し,周知(社員が見ようと思えば見られる状態にしておくこと。)させておいて下さい。就業規則が周知されていないと,業務に重大な支障が生じていても懲戒処分を有効に行うことはできません。中小企業では,懲戒事由に該当するかとか,懲戒権濫用に当たらないかといった問題以前の話として,就業規則が周知されていないというだけの理由で懲戒処分が無効と判断されることも珍しくありません。
「懲戒処分なんてしたら,職場の雰囲気が悪くなる。」などと言って,懲戒処分を行わずにいきなり辞めてもらおうとする会社経営者は珍しくありません。しかし,懲戒処分歴のない社員を,遅刻や無断欠勤を理由として有効に解雇することは,遅刻や無断欠勤の程度がよほど甚だしい場合でない限り困難です。遅刻や無断欠勤が多い社員が退職勧奨に応じて退職届を提出してくれれば,懲戒処分を行っていなくても目的は達成できるかもしれませんが,懲戒処分を行っておらず,解雇しても無効と判断されるリスクが高い事案において,社員から「退職勧奨には応じられません。」と回答されてしまったら打つ手はなく,それこそ職場の雰囲気が悪くなってしまいます。解決金を支払って辞めてもらおうにも,社員は解雇されても無効であることが分かっていて怖くないわけですから,解決金の相場は高くなることでしょう。勢い,強引な退職勧奨を行って,不法行為が成立するようなことにもなりかねません。他方,解雇が有効となる可能性がそれなりに高い場合であれば,社員の側としても無理に争って解雇が有効と判断されては困りますから,ほどほどの金額の解決金で合意退職に応じることが合理的な選択となります。したがって,退職勧奨で辞めてもらう場合であっても,懲戒処分を繰り返し行ったにもかかわらず遅刻や無断欠勤が改まらなかったのでやむなく退職勧奨をして辞めてもらったという流れになるよう準備していく必要があります(懲戒処分の結果,遅刻や無断欠勤が改善された場合は,当面は勤務を継続させて様子を見ることになります。)。職場の雰囲気が悪くなることを恐れて,懲戒処分をせずにいきなり辞めてもらおうとすることは,遅刻や無断欠勤の程度が甚だしいなどの理由から解雇が有効となる見込みが高い場合や,本人も退職する意思を表明していて条件交渉が残されているだけの場合を除き,適切ではないと考えます。
7 退職勧奨
懲戒処分を繰り返しても遅刻や無断欠勤が改まらない社員については,退職勧奨を行って辞めてもらうことを検討すべきでしょう。
退職に当たり一定額の金銭の支払等を要求された場合は,それが過度の要求でないのであれば,折り合いをつけるよう交渉するのが原則です。双方折り合いがついた場合は,退職合意書を交わすなどして権利義務関係を明確にし,退職してもらいましょう。折り合いがつかない場合は,懲戒処分を行うのか,解雇するのかなどについて,検討していくことになります。
8 普通解雇・懲戒解雇(諭旨解雇・諭旨退職)等の退職の効果を伴う処分
懲戒処分を繰り返しても遅刻や無断欠勤が改まらず,退職勧奨にも応じない場合は,普通解雇・懲戒解雇(諭旨解雇・諭旨退職)等の退職の効果を伴う処分を検討せざるを得ません。
懲戒解雇(諭旨解雇・諭旨退職)等の懲戒処分を行う場合には,懲戒の種類と事由が記載された就業規則が周知されていることが前提として必要です。就業規則が周知されていないと「門前払い」となり,懲戒解雇等の懲戒処分を有効に行うことはできません。就業規則が周知されておらず懲戒解雇等の懲戒処分ができない場合は,普通解雇で対処することになります。諭旨退職処分をした場合は,退職願が提出されていたとしても,合意退職扱いとはされず,懲戒処分としての諭旨退職処分の有効性が問題となることにも注意して下さい。
普通解雇や懲戒解雇(諭旨解雇・諭旨退職)等の退職の効果を伴う処分を行う場合は,職場から排除しなければならないほど遅刻や無断欠勤の程度が甚だしく,業務に重大な支障が生じていることを証拠により立証できるようにしておく必要があります。立証に必要な客観的証拠がそろっているのか,十分に検討してから普通解雇や懲戒解雇等に踏み切って下さい。
私が顧問先企業等に解雇等を指導する場合,1か月以上欠勤が続いてから普通解雇(たいていは予告解雇)に踏み切るのが通常です。遅刻や無断欠勤の多い問題社員に関しては,懲戒解雇,即時解雇にこだわる必要性のある事案はほとんど存在しません。普通解雇(たいていは予告解雇)で,遅刻や無断欠勤の多い問題社員との間の労働契約関係の解消という目的を達成することができます。特に,遅刻や欠勤があればその時間分の賃金が支払われない欠勤控除のある会社においては,社会保険料の負担はあるにせよ,急いで解雇に踏み切る必要性は高くありません。
弁護士法人四谷麹町法律事務所
代表弁護士 藤田 進太郎
__________________
1 「協調性がない。」の具体的意味
「協調性がない。」という日本語は,評価的要素が強い日本語です。「協調性がない。」と「評価」する前提として,協調性がないことを基礎づける「事実」の有無・内容を確定させる必要があります。協調性がないことを基礎づける「事実」の有無・内容を確定できない状態で「協調性がない。」と評価することは,単に「何となく協調性がないような気がする。」と言っているのと変わりません。「事実」と「評価」を分けて考え,「事実に基づいた評価」をして下さい。
事実(具体的言動) → 評価(「…に値するほど協調性に欠ける。」)
協調性に乏しいことを基礎付ける具体的言動を,5W1Hを踏まえて説明できるようにしておいて下さい。いつ,どこで,誰が,何を,どのように言ったのか(したのか)について事実関係を客観的に記録し,どうしてそのようなことを言ったのか(したのか)について,本人から事情を聴取して記録して下さい。
協調性がないことを基礎づける「事実」の有無・内容を確定することができたら,次は当該事実に基づいて「評価」を行います。「協調性がない。」といっても程度問題です。通常許される個性の範囲内に収まっているのか,それとも,社員や管理職としての適格性が問われたり,企業秩序を阻害したりする程度にまで至っているものなのかを「評価」した上で,対応を決める必要があります。
周囲の社員の言うことを鵜呑みにして,裏付けを取らずに「協調性がない。」と決めつけて,処分を決めてはいけません。「上司も,同僚も,部下も,みんなが協調性がないと言っている,裁判になったら証言すると言っている」ことから,協調性がないことを基礎づける「事実」を確定せずにいきなり協調性がないと「評価」して,懲戒処分や解雇をしてしまったような事案は,「事実に基づいた評価」を行っていない失敗事例の典型です。客観的証拠と照らし合わせ,本人の言い分を聴取するなどして「事実」をよく確認してから,「事実に基づいた評価」を行って下さい。
2 注意指導
業務に必要な協調性が欠けている問題社員については,注意指導して,周囲と協調性を保つことの重要性を理解させ,協調性に欠ける言動を改めさせる努力をして下さい。
注意指導の主な目的は,
① 業務に支障を来すような協調性に欠ける言動を改めさせること
② 証拠の確保
の2つです。ポイントは,①業務に支障を来すような協調性に欠ける言動を改めさせることが一番の目的であって,②証拠の確保を一番の目的にしてはいけないということです。
確かに,注意指導したことを立証するための証拠を確保しておく必要はあります。しかし,業務に支障を来すような協調性に欠ける言動を改めさせることを第一の目的としなければ,形だけいくら注意指導しても問題社員の協調性に欠ける言動を改善させることは難しいでしょう。単に「証拠作り」をしているに過ぎないことが透けて見えれば,労働審判や訴訟においても,懲戒処分や解雇の前提として行うべき注意指導をしたと評価してもらえない可能性が高くなります。
協調性に欠ける言動が多い問題社員の態度が悪く,改善の意欲が見られないと,注意指導する側も匙を投げてしまい,辞めてもらうための証拠作りを注意指導の主な目的にしたくなるかもしれません。しかし,そのやり方ではかえって,辞めてもらうという目的を達成することを困難にしてしまいます。問題社員の協調性に欠ける言動をなくすことができるよう誠心誠意注意指導することが,結果として,問題社員の協調性に欠ける言動をなくすことや,改善しない場合の退職につながるのです。大変かもしれませんが,頑張って下さい。
注意指導の仕方のポイントは,何をどのように改めればいいのか,具体的に伝えることです。単に,「もっと協調性を持って仕事して下さい。」「どうすればいいかは,自分の頭で考えて下さい。」などと伝えたのでは,具体的に何をどのようにすればいいのか分かりませんし,注意指導に従ったのか,従わなかったかの判断もできません。具体的事案に応じて,どうしてそのような言動をしたのか質問したり,具体的にどのようにすればいいのか教えたりして,注意指導していく必要があります。
例えば,上司の指示をよく考えもせずに断る問題社員に対しては,「上司から仕事の指示を受けたら,指示された仕事をするよう努めなければなりません。指示された仕事ができない事情があるのであれば,どうしてできないのかをよく説明し,理解してもらえるよう努力して下さい。直ちに対応できない場合であっても,工夫すれば対応できるのであれば,工夫して指示された仕事ができるよう努力して下さい。」などと伝えます。そして,上司の指示を断るような状況にないのに上司の指示を断ってきた場合には,本人の言い分を聞きつつ,何をどうすればいいのか具体的に教えてあげるようにして下さい。
協調性のなさの程度が甚だしい問題社員に対する注意指導の内容は,報告書等の形で上司に報告し,記録に残しておいて下さい。報告書等の書面の形式では大げさだというのであれば,上司への電子メールでの報告でも構いません。会社経営者等,社内で報告する相手がいないような場合は,顧問弁護士にメールで報告するとよいでしょう。協調性のなさの程度が甚だしく,懲戒処分を念頭に置いているような場合は,聴取結果を事情聴取書にまとめた上で聴取内容を確認させ,署名押印させることもあります。
上司等への報告や事情聴取書は,5W1Hを意識して「事実」を記載したものを作成して下さい。何月何日の何時頃,どこで,誰が,誰に対して,何をしたのか(どのような言葉のやり取りがなされたのか)といった客観的な事実を記載する必要があります。必要に応じて,どのように話したのか,どうしてそのように話したのかといったものを付け加えてもいいかもしれません。「事実」を記載せずに,「協調性がない。」とか「反省の色が見られない。」といった評価的な表現や「次に協調性に欠けた言動をしたらいかなる処分を受けても異存ありません。」といった反省の気持ちを表明する発言の記録が中心となってしまったのでは,協調性に欠ける言動の具体的内容が明らかにならず,証拠価値が低くなってしまうことがあります。
口頭でいくら注意指導しても協調性に欠ける言動が改まらず,業務に支障を来しているような場合は,「注意書」「厳重注意書」等の書面に,
① 協調性に欠けることを示す言動の具体的内容
② 具体的にどうすればよかったのか
を5W1Hを意識して記載して交付し注意指導しましょう。①協調性に欠けることを示す言動の具体的内容と②具体的どうすればよかったのかを記載した「注意書」「厳重注意書」等の書面で注意指導することにより,本人の改善をより強く促すとともに,注意指導したことの証拠を確保することができます。協調性に欠ける言動を繰り返していて,普段は自分の非を認め謝罪の言葉を口にしていたような社員であっても,労働審判や団体交渉の席では,「会社が言うような協調性に欠ける言動をしたことはありませんし,十分な注意指導を受けたこともありません。」などと言って,懲戒処分や解雇の無効を主張するのがむしろ通常です。協調性に欠けることを示す言動の内容とどうすればよかったのかを5W1Hを意識して具体的に記載した「注意書」「厳重注意書」といった書面を交付して注意指導することにより,当該社員がどういった言動をしたのかや,上司により書面で注意指導をした事実を立証することができるようになります。
「注意書」「厳重注意書」といった書面を受け取ったことがないと言われないようにするため,受領書にサインを取った方がいいのかとか,書留郵便で郵送した方がいいのかといった質問を受けることがよくあります。確かに,万全を期すのであれば,そういった配慮が必要なこともあるでしょう。しかし,実際の事案では,「注意書」「厳重注意書」といった書面を交付したにもかかわらず,受け取っていないと言われることは,それほど多くはありません。「確かに厳重注意書を受け取りましたが,内容が事実とは異なります。」といった主張がなされることがほとんどです。したがって,ほとんどの事案では,押印済みの「注意書」「厳重注意書」といった書面の写しとPDFを取った上で,本人に「注意書」等を交付し,何月何日何時頃どこで誰が当該社員に注意書等を交付したのか,その際,どのような言葉のやり取りがなされたのかを記録し,上司や顧問弁護士にメールで報告しておけば十分です。極端な虚言癖のある社員等,特に必要性が高い場合についてのみ,「注意書」等を交付するとともにそのPDFをメール送信したり,書留郵便やレターパックで「注意書」等を郵送したりすれば足りるでしょう。
注意指導の際のやり取りを録音しておくことも考えられますが,録音されていることを意識すると,言いたいことを素直に言えなくなってしまう可能性があります。録音記録を労働審判等で証拠として使うためには,反訳(文字起こし)して文書化しなければならないため,録音記録の利用は手間がかかる面があることを意識する必要もあります。録音記録は,必要性をよく検討した上で,必要性が高いと判断された場合に利用すべきと考えます。
従来,協調性に欠ける言動を放置していた職場の場合,従来であれば容認されていた程度の協調性に欠ける言動をした社員に対し注意指導しても,なかなか受け入れられず,上司が協調性に欠ける言動を注意したところ,「パワハラだ。」などと言われることも珍しくありません。仕事の種類によって必要性に程度の差こそあれ,周囲と協調しながら仕事をすることは当然のことなのですが,協調性に欠ける言動を放置していた会社にも落ち度がありますので,直ちに懲戒処分等を行うことはお勧めできません。今後は協調性に欠ける言動を許さない旨,明確に伝えた上で,具体的にどうすればいいのか教えながら粘り強く注意指導し,それでも改善しないときに懲戒処分等を検討することをお勧めします。
協調性に欠ける言動が多い問題社員に対し電子メールを送信して改善を促しつつ注意指導した証拠を確保することも考えられますが,電子メールでの注意指導は,必ず「口頭での注意指導とセット」で行って下さい。協調性に欠ける言動が多い問題社員が,在職中であるにもかかわらず口頭での注意指導を拒絶し,電子メールでのみ注意指導等をするよう要求してくることがありますが,口頭での注意指導を怠ってはいけません。口頭でのコミュニケーションと比較して,電子メールでのコミュニケーションは,誤解が生じやすいものです。恋人や友達と喧嘩した際,電子メール,メッセンジャー,LINE等での話し合いでは埒があかなかったのに,実際に会ってしばらく話しているうちに仲直りしたという経験がある方も大勢いらっしゃるのではないかと思います。口頭での注意指導をせずに電子メールだけで注意指導した場合,注意指導の効果が上がらず,かえって「パワハラだ。」などと反発を受け,問題がこじれることはよくある話です。仮に,会って話すことができないような状況であっても,電子メールでの連絡で終わらせずに,せめて,電話で話すくらいの努力はするようにして下さい。テレビ電話機能を用いて,お互いの姿を表示しながら話し合うことができればより望ましいところです。
口頭で十分に注意指導せずに「書面」でのみ注意指導することもお勧めできません。社員の言い分を聴きながら口頭で教え諭して正しい方向に導いていく努力なしに,協調性に欠ける言動が多い社員の態度を改めさせることは困難です。口頭での注意指導が不十分なまま,書面での注意指導や懲戒処分を行った場合,単に「証拠作り」をしているだけのように見えてしまうこともあります。
3 実態どおりの評価
勤務成績の評価は,協調性に欠ける言動の程度を正確に反映したものにして下さい。実態よりも高い評価をしているような会社は,勤務成績の評価の信頼性が低く,トラブルが拡大しやすい傾向にあります。
勤務成績の評価を実態に合わせて下げて昇給を停止したり,賞与を他の社員よりも大幅に低額にしたり,懲戒処分を行ったりして紛争になった場合,どうして勤務成績の評価を下げたのか,懲戒処分を行わなければならないのかを説明できるようにしておく必要があります。従来は実態よりも高い評価がなされ,昇給幅も賞与額も他の社員とあまり変わらなかった社員が協調性に欠ける言動を繰り返すことに堪忍袋の緒が切れて勤務成績の評価を大幅に下げたような場合は,評価を大幅に下げた合理的理由を説明する難易度が高くなります。その結果,評価を大幅に下げたことがハラスメントと受け取られて紛争となったり,配置転換・降格,懲戒処分,解雇等が無効と判断されたりするリスクが高くなります。
実態よりも高い評価をした方が部下に好かれやすく,問題を先送りにできることもあり,管理職の中には,下手に厳しい評価をして部下に不満を持たれては損だ,実態よりも高い評価をしてあげる上司が良い上司だ,などと勘違いしている者も少なからず存在します。言ってみれば,会社の利益や公正な評価よりも,自分の利益を優先させているわけです。部下の良いところも悪いところもありのままによく見てあげて評価することの重要性を社内で共有しておくべきでしょう。
4 配置転換・降格
配置転換の余地があるのであれば,協調性に欠ける言動が多い社員を別の部署に配置転換してみてもいいでしょう。それほど共同作業が必要のない業務を担当することになったり,共同で仕事をするメンバーが変わることで,協調性に欠ける言動がそれほど目立たなくなることもあります。しかし,複数の配置転換先でも協調性に欠ける言動を繰り返して周囲との軋轢が生じるようであれば,本人に問題がある可能性が高いと言わざるを得ません。
管理職が協調性に欠けた言動を繰り返し,部下やプロジェクトの管理に支障を来すなど,管理職としての適格性を欠くような場合は,「人事権」を行使して,管理職から外す等の対応をするとよいでしょう。就業規則には「懲戒処分」としての降格処分が規定されていることが多いですが,多くの事案において会社にとって最も重要なのは「適材適所」の実現であって,当該管理職の処罰ではありません。懲戒処分の形式を選択する必要性が高い例外的な場合を除き,「懲戒処分」としての降格処分をするのではなく,「人事権」を行使して管理職から外す等の対応をすることをお勧めします。
5 懲戒処分
「厳重注意書」等の書面で注意指導し,配置転換や降格等で対応しても協調性に欠ける言動が改まらず,業務に支障が生じている場合は,懲戒処分を検討せざるを得ません。懲戒処分の種類を検討するにあたっては,協調性が特に必要とされる業務内容,職場環境かどうか,チームワークが重視される共同作業が多い業務内容なのか,少人数の職場なのかといった要素を考慮します。「協調性がない。」ことを理由に懲戒処分を行おうとする場合,通常は,譴責,減給といった軽い懲戒処分を行い,それでも改善しない場合に出勤停止等のより重い処分をしていくことになります。
有効に懲戒処分を行う前提として,懲戒の種類と事由を就業規則に明記し,周知(社員が見ようと思えば見られる状態にしておくこと。)させておいて下さい。就業規則が周知されていないと,業務に重大な支障が生じていても懲戒処分は無効となります。小規模な会社では,懲戒処分の相当性以前の問題として,就業規則が周知されていないというだけの理由で懲戒処分が無効と判断されることも珍しくありません。
「懲戒処分なんてしたら,職場の雰囲気が悪くなる。」などと言って,懲戒処分を行わずにいきなり辞めてもらおうとする会社経営者は珍しくありません。しかし,単に「協調性がない。」と表現したのでは足りないくらいの問題行動をした場合でない限り,懲戒処分歴のない社員を,協調性に欠ける言動を理由に有効に解雇することは困難です。協調性に欠ける言動をした社員が退職勧奨に応じて退職届を提出してくれれば,懲戒処分を行っていなくても目的は達成できるかもしれませんが,懲戒処分を行っておらず,解雇しても無効と判断されるリスクが高い事案において,社員から退職勧奨には応じないと回答されてしまったら打つ手はなく,それこそ職場の雰囲気が悪くなってしまいます。解決金を支払って辞めてもらおうにも,社員は解雇されても無効であることが分かっていて怖くないわけですから,解決金の相場は高くなることでしょう。勢い,強引な退職勧奨を行って,不法行為が成立するようなことにもなりかねません。他方,解雇が有効となる可能性がそれなりに高い場合であれば,社員の側としても無理に争って解雇が有効と判断されては困りますから,ほどほどの金額の解決金で合意退職に応じることが合理的な選択となります。したがって,退職勧奨で辞めてもらう場合であっても,懲戒処分を繰り返し行ったにもかかわらず協調性に欠ける言動が改まらなかったのでやむなく退職勧奨をして辞めてもらったという流れになるよう準備していく必要があります(懲戒処分の結果,協調性の乏しい言動が改善された場合は,当面は勤務を継続させて様子を見ることになります。)。職場の雰囲気が悪くなることを恐れて,懲戒処分をせずにいきなり辞めてもらおうとすることは,協調性に欠ける言動の程度が甚だしいなどの理由から解雇が有効となる見込みが高い場合や,本人も退職する意思を表明していて条件交渉が残されているだけの場合を除き,適切ではないと考えます。
6 退職勧奨
懲戒処分を繰り返しても協調性に欠ける言動が改まらない問題社員については,退職勧奨を行って辞めてもらうことを検討すべきでしょう。
退職に当たり一定額の金銭の支払等を要求された場合は,それが過度の要求でない限り,折り合いをつけるよう交渉するのが原則です。双方折り合いがついた場合は,退職合意書を交わすなどして権利義務関係を明確にし,退職してもらいましょう。折り合いがつかない場合は,解雇するのか,懲戒処分を行うのかなどについて,検討していくことになります。
7 普通解雇・懲戒解雇(諭旨解雇・諭旨退職)等の退職の効果を伴う処分
懲戒処分を繰り返しても協調性に欠ける言動が改善せず,退職勧奨にも応じない場合は,普通解雇・懲戒解雇(諭旨解雇・諭旨退職)等の退職の効果を伴う処分を検討せざるを得ません。
懲戒解雇(諭旨解雇・諭旨退職)等の懲戒処分を行う場合には,懲戒の種類と事由が記載された就業規則が周知されていることが前提として必要です。就業規則が周知されていないと「門前払い」となり,懲戒解雇等の懲戒処分を有効に行うことはできません。就業規則が周知されておらず懲戒解雇等の懲戒処分ができない場合は,普通解雇で対処することになります。諭旨退職処分をした場合は,退職願が提出されていたとしても,合意退職扱いとはされず,懲戒処分としての諭旨退職処分の有効性が問題となることにも注意して下さい。
普通解雇や懲戒解雇等の退職の効果を伴う処分を行う場合は,職場から排除しなければならないほど協調性に欠ける言動の程度が甚だしく,業務に重大な支障が生じていることを証拠により立証できるようにしておく必要があります。立証に必要な客観的証拠がそろっているのか,十分に検討してから普通解雇や懲戒解雇等に踏み切って下さい。
私は,単に「協調性がない。」としか表現できない事案で,普通解雇・懲戒解雇(諭旨解雇・諭旨退職)等の退職の効果を伴う処分ができる事案は多くないと考えています。普通解雇や懲戒解雇等に値するほど協調性のなさの程度が甚だしい事案であれば,通常は,より具体的な普通解雇事由,懲戒解雇事由が存在するように思います。
弁護士法人四谷麹町法律事務所
代表弁護士 藤田 進太郎
__________________
Q.飲食業で残業代(割増賃金)請求を受けるリスクが特に高いのはどうしてだと思いますか。
A
飲食業で残業代(割増賃金)請求を受けるリスクが特に高い一番の理由は、飲食業では会社経営者が残業代(割増賃金)を支払わなければならないという意識が低いことにあると考えています。飲食業の経営者に残業代(割増賃金)を支払わない理由を聞いてみると、
「飲食業だから。」
「昔からそういうやり方でやってきて、問題になったことはない。」
「飲食業で残業代なんて支払ったら、店がつぶれてしまう。」
「それが嫌なら、転職した方がいい。」
といった程度の理由しかないことが多く、当然ですが、訴訟や労働審判になれば、残業代(割増賃金)請求が認められることになります。上記のような認識を持っている飲食業の会社経営者は、これもまた自然なことですが、残業代(割増賃金)請求を受けると被害者意識を強く持つ傾向があり、そばにいて大変残念でいたたまれない気持ちにさせられます。
2番目の理由としては、労働時間が長いため、残業代(割増賃金)の金額が高額になりがちな点が挙げられると思います。1日あたりの店舗の営業時間は8時間を超えるのが通常であり、仕込み作業が必要なこともあるため、少なくとも正社員については1日8時間を超えて労働させるケースが多くなっています。また、店舗物件の有効利用の観点から、店舗の休日が全くなかったり、週1日だけしかなかったりすることが多く、完全週休二日制で休日出勤無しのケースはむしろ珍しい部類に入ります。その結果、週40時間(特例措置対象事業場では週44時間)を超えて労働させることが多く、1日8時間超の残業代(時間外割増賃金)のみならず、週40時間(特例措置対象事業場では週44時間)超の残業代(時間外割増賃金)を支払わなければならなくなることは珍しくありません。
定額(固定)残業代制度を採るなどして、一応の残業代(割増賃金)請求対策が採られている会社もありますが、定額(固定)残業代制度に対して裁判所の厳しい判断が相次いでいる現状に対する認識が甘く、制度設計や運用が雑で敗訴リスクが懸念されるケースが数多く見られます。
弁護士法人四谷麹町法律事務所
代表弁護士 藤田 進太郎
__________________
Q.運送業を営む会社を経営していますが、休日なしで長時間働いてお金を稼ぎたいと言ってくる運転手にはどのように対応すればいいでしょうか。
A
運送業を営む会社を経営していると、休まずにもっと働いてお金を稼ぎたい、働かせてくれなければ辞めて他の会社に転職する、などと言ってくる運転手がいることに気づくことと思います。
たくさん働きたいという意欲は素晴らしいのかもしれませんが、使用者には運転手の健康に配慮する義務(労契法5条)がありますので、本人が望んでいるからといって、恒常的な長時間労働を容認するわけにはいきません。ある程度までであれば、多めに運転させても構いませんが、度を超して働きたいという希望を押し通そうとする運転手については、断固として長時間労働を拒絶する必要があります。その結果、転職してしまうかもしれませんが、やむを得ない選択と腹をくくるべきでしょう。
なお、時間外割増賃金は1日8時間を超えて働かせたときだけ支払うものではなく、週40時間を超えて働かせた場合にも支払う必要がありますので、週6日以上働かせた場合には朝から残業(時間外労働)扱いになり時間外割増賃金の支払が必要となる可能性があります。また、休日を定めなかった場合であっても、7日続けて働かせた場合には、7日目の日は法定休日として取り扱われることになりますので、休日割増賃金を支払う必要があります。残業代(割増賃金)請求対策という観点からも、恒常的な長時間労働を抑制する必要があるところです。
弁護士法人四谷麹町法律事務所
代表弁護士 藤田 進太郎
__________________
代表弁護士藤田進太郎が参加した東京地裁労働部と東京三弁護士会の協議会が労働判例に掲載されました。(産労総合研究所)
東京地裁労働部と東京三弁護士会の協議会 第19回
「労働判例」2022年4月15日1259号(産労総合研究所)
協議議題
・新型コロナウイルスの感染対策問題発生後,1年半以上が経過したが,労働問題に関し,発生し,あるいは増加している相談の類型・論点,今後どのような類型・論点の労働事件が増加するのかの見通し等について
・裁判手続・労働審判手続の迅速化,IT化等について
・労働審判全般に関する審理,調停,審判の最近の状況について
__________________
Q.運送業を営む会社を経営していますが、休日なしで長時間働いてお金を稼ぎたいと言ってくる運転手にはどのように対応すればいいでしょうか。
A
運送業を営む会社を経営していると、休まずにもっと働いてお金を稼ぎたい、働かせてくれなければ辞めて他の会社に転職する、などと言ってくる運転手がいることに気づくことと思います。
たくさん働きたいという意欲は素晴らしいのかもしれませんが、使用者には運転手の健康に配慮する義務(労契法5条)がありますので、本人が望んでいるからといって、恒常的な長時間労働を容認するわけにはいきません。ある程度までであれば、多めに運転させても構いませんが、度を超して働きたいという希望を押し通そうとする運転手については、断固として長時間労働を拒絶する必要があります。その結果、転職してしまうかもしれませんが、やむを得ない選択と腹をくくるべきでしょう。
なお、時間外割増賃金は1日8時間を超えて働かせたときだけ支払うものではなく、週40時間を超えて働かせた場合にも支払う必要がありますので、週6日以上働かせた場合には朝から残業(時間外労働)扱いになり時間外割増賃金の支払が必要となる可能性があります。また、休日を定めなかった場合であっても、7日続けて働かせた場合には、7日目の日は法定休日として取り扱われることになりますので、休日割増賃金を支払う必要があります。残業代(割増賃金)請求対策という観点からも、恒常的な長時間労働を抑制する必要があるところです。
弁護士法人四谷麹町法律事務所
代表弁護士 藤田 進太郎
__________________
代表弁護士藤田進太郎のDVD「相談されても困らない!社労士のための定額残業代対応マニュアル」が発売されました。(日本法令)
[主な目次]
1 はじめに
2 定額残業代の基礎
3 定額残業代の導入
4 定額残業代の運用
5 定額残業代の変更・廃止
6 よくある質問に対する回答
7 おわりに
[収録時間]
約120分
[収録書式]
講義レジュメ
資料1 同意書
【書式1】一般的な同意書(基礎賃金減額・定額残業代導入時)
【書式2】同意書(基礎賃金減額・定額残業代導入時・具体的な不利益記載)
【書式3】同意書(定額残業代変更時・増額)
【書式4】同意書(定額残業代変更時・減額)
資料2 重要最高裁判例(抜粋)
__________________
代表弁護士藤田進太郎が「職場を悩ます“困った社員”への対処法」と題する講演を行いました。
主催:日経ビジネス
日時:2022年3月11日(金)15:00~17:30
会場受講・ライブ配信
場所:東京都千代田区神田駿河台4-6 御茶ノ水ソラシティカンファレンス
内容
”困った社員”への対処法を学ぶことが大事な理由
第1部 ”困った社員”への対処法のイメージをつかむ
1. 勤務態度が悪く自分は悪くないと主張して指導に従わない社員への対処法
2.欠勤・遅刻・早退が極端に多い社員への対処法
3.注意指導するとパワハラだと言って指導に従わない社員への対処法
4.会社や上司を繰り返し誹謗中傷する社員への対処法
5.会社の金銭・所有物を着服・横領したり出張旅費や通勤手当を不正取得する社員への対処法
6.担当業務や勤務地の変更等の人事異動に応じない社員への対処法
7.会社の業績が悪いのに賃金減額に応じない社員への対処法
8.定年後再雇用の賃金が定年時よりも下がることに抗議する社員への対処法
9.解雇していないのに解雇されたと主張する社員への対処法
10.能力が極端に低く繰り返し教えても仕事ができるようにならない社員への対処法
11.「復職可」と書かれた主治医の診断書を提出して復職したのに満足に働けない社員への対処法
12.残業する必要がないのに残業して残業代を請求する社員への対処法
第2部 対処法の理解を深める
1.事前質問
2.当日質問
__________________
代表弁護士藤田進太郎が「職場を悩ます“困った社員”への対処法」と題する講演を行いました。
日時:2022年3月11日(金)15:00~17:30
会場受講・ライブ配信
場所:東京都千代田区神田駿河台4-6 御茶ノ水ソラシティカンファレンス
内容
”困った社員”への対処法を学ぶことが大事な理由
第1部 ”困った社員”への対処法のイメージをつかむ
1. 勤務態度が悪く自分は悪くないと主張して指導に従わない社員への対処法
2.欠勤・遅刻・早退が極端に多い社員への対処法
3.注意指導するとパワハラだと言って指導に従わない社員への対処法
4.会社や上司を繰り返し誹謗中傷する社員への対処法
5.会社の金銭・所有物を着服・横領したり出張旅費や通勤手当を不正取得する社員への対処法
6.担当業務や勤務地の変更等の人事異動に応じない社員への対処法
7.会社の業績が悪いのに賃金減額に応じない社員への対処法
8.定年後再雇用の賃金が定年時よりも下がることに抗議する社員への対処法
9.解雇していないのに解雇されたと主張する社員への対処法
10.能力が極端に低く繰り返し教えても仕事ができるようにならない社員への対処法
11.「復職可」と書かれた主治医の診断書を提出して復職したのに満足に働けない社員への対処法
12.残業する必要がないのに残業して残業代を請求する社員への対処法
第2部 対処法の理解を深める
1.事前質問
2.当日質問
受講料:15,000円
主催:日経ビジネス
その他の講演・著作はこちら
__________________
代表弁護士藤田進太郎が執筆した時言「偽装請負等の目的が要求される趣旨」が「労働経済判例速報」2022年2月28日号に掲載されました。(日本経済団体連合会)
その他の講演・著作はこちら
__________________
Q.運送業を営む会社において、配送手当、長距離手当、業務手当、特別手当等の手当の支払は、残業代(割増賃金)の支払として認められますか。
A
運送業を営む会社においては、日当のほか、配送手当、長距離手当、業務手当、特別手当等の手当が支払われていることがあります。これらの手当の支払は、残業代(割増賃金)の支払として認められるのでしょうか。
まず、配送手当、長距離手当、業務手当、特別手当といった名称の手当は、その日本語の意味を考えた場合、直ちに残業代の支払と評価することはできません。これらの手当が残業代の支払と評価されるためには、最低限、賃金規程にその旨明記して周知させておくか、労働条件通知書等に明記して就職時に運転手に交付しておくなどが必要となります。「口頭で説明した。」では、勝負になりません。
これらの手当が残業代(割増賃金)の趣旨で支払われていることが客観的証拠からは読み取れない場合は、新たに同意書、確認書等を作成したり賃金規程を変更したりして、これらの手当が残業代(割増賃金)の趣旨で支給されるものであることを明確にする必要があります。
もっとも、配送手当、長距離手当、業務手当、特別手当といった名称の手当を残業代(割増賃金)の趣旨で支払う旨の規定があったとしても、裁判では、実質的には残業代(割増賃金)の支払として認められないと判断されるリスクが残ることは否めません。「時間外勤務手当」「休日勤務手当」「深夜勤務手当」といった名称であれば、実質的にも残業代(時間外・休日・深夜割増賃金)の趣旨で支払われる手当と認めてもらいやすくなりますので、残業代(時間外・休日・深夜割増賃金)の趣旨で支払われる手当は、できる限り「時間外勤務手当」「休日勤務手当」「深夜勤務手当」といった名称で支給すべきと考えます。
弁護士法人四谷麹町法律事務所
代表弁護士 藤田 進太郎
__________________
Q.運送業を営む会社において,残業代(割増賃金)の趣旨を有する手当をトラック運転手に支給する際の注意点を教えて下さい。
運送業を営む会社において、残業代(割増賃金)の趣旨を有する手当をトラック運転手に支給する際の注意点は、大きく分けて
① 残業代(割増賃金)の趣旨を有する手当であることを明確にすること
② 残業代(割増賃金)とそれ以外の賃金とを明確に判別できるようにすること
の2つです。
まず、①についてですが、当該手当が残業代(割増賃金)の趣旨を有することが明確でない名目となっている場合、当該手当の支払が残業代(割増賃金)の支払として認められない可能性が高くなります。残業代(割増賃金)には見えないような名目の手当を支給しながら、残業代(割増賃金)請求を受けたとたんそれは残業代(割増賃金)だと主張しても、なかなか認められません。
「時間外勤務手当」「休日勤務手当」「深夜勤務手当」といった一見して残業代(割増賃金)であることが明らかな名目の手当を支給している場合には、それが残業代(割増賃金)ではないといった主張は滅多に出てきません。問題となるのは、「業務手当」「特別手当」「配送手当」「長距離手当」といった残業代(割増賃金)であるとは読み取れない名目の手当を支給している場合です。当該手当の全額が残業代(割増賃金)の趣旨を有することが労働条件通知書に明記してあったり、賃金規程に明記されて周知されていたりすれば、労働審判等になってもそれなりに戦えますが、そうでない限り、苦しい戦いを余儀なくされることになります。
「業務手当」「特別手当」「配送手当」「長距離手当」といった名称の手当を残業代(割増賃金)の趣旨で支払う旨の規定があったとしても、裁判では、実質的には残業代(割増賃金)の支払として認められないと判断されるリスクが残ることは否めません。「時間外勤務手当」「休日勤務手当」「深夜勤務手当」といった名称であれば、実質的にも残業代(時間外・休日・深夜割増賃金)の趣旨で支払われる手当と認めてもらいやすくなりますので、残業代(時間外・休日・深夜割増賃金)の趣旨で支払われる手当は、できる限り「時間外勤務手当」「休日勤務手当」「深夜勤務手当」といった一見して残業代(時間外・休日・深夜割増賃金)の趣旨で支払われる手当であることが分かる名目で支給すべきと考えます。
次に、②についてですが、通常の労働時間・労働日の賃金と残業代(割増賃金)に当たる賃金を判別できるようにしておかないと、残業代(割増賃金)の支払があったとは認められません。例えば、単に、残業代(割増賃金)込みの賃金である旨合意しただけでは、残業代(割増賃金)の支払があったとは認められません。
「業務手当には30時間分の時間外手当を含む。」といった定めも、通常の労働時間・労働日の賃金と残業代(時間外割増賃金)に当たる賃金を判別するためには方程式を使って計算する必要がありますので、リスクが高いものと思われます。残業代(割増賃金)の趣旨を有する手当は、基本給や何らかの手当に含むという形で支給するのではなく、項目を明確に分けて金額を明示して定めるとともに、給料日には給与明細書に金額を分けて明示して給与を支給すべきと考えます。
まずは、残業代(割増賃金)に相当する金額が何円なのか、残業代(割増賃金)の金額についてははっきりさせて下さい。その上で、当該手当が実質的にも残業代(時間外・休日・深夜割増賃金)の趣旨を有する手当であることを明確にするために、その金額が何時間分の時間外割増賃金、深夜割増賃金、休日割増賃金なのかを追加で明記するのであれば、より望ましいと考えられます。
弁護士法人四谷麹町法律事務所
代表弁護士 藤田 進太郎
__________________
Q.運送業を営む会社が残業代(割増賃金)請求を受けるリスクが特に高いのはどうしてだと思いますか。
運送業のトラック運転手は従来、自営業者意識が濃厚な傾向があり、トラック運転手のそういった傾向に対応して、運送業の会社経営者は残業代(割増賃金)を支払わなければならないという意識が希薄な傾向にありました。運送業では、トラック運転手の給料が「1日現場に行って来たら1万○○○○円」といった形で定められている会社が多く、労働者というよりは個人事業主に近い形で労務管理がなされている傾向にあります。昔からそのやり方で問題なくやってきたわけですから、トラック運転手から多額の残業代請求を受けて大きな損失を被らない限り、なかなか制度を変更しようとはしません。簡単に言えば、脇が甘いわけです。トラック運転手から残業代(割増賃金)請求を受けると強い被害者意識を持つ会社経営者が多い傾向にあるのも運送業の特徴です。
他方で、最近では残業代(割増賃金)に関するトラック運転手の意識が急速に変わってきています。おそらく、「○○さんは,弁護士に頼んで○○○万円も残業代を払ってもらったらしい。」などと,トラック運転手同士で情報交換しているうちに、自分も残業代(割増賃金)が欲しくなるトラック運転手が増えてきたものと思われます。運送業では、長距離運転があったり、手待時間が長くなったりしていることが多いことなどから、労働時間が長くなりがちで、残業代(割増賃金)も多額になる傾向にあります。少額の残業代(割増賃金)しか取れないのであれば会社と争っても仕方ありませんが,何百万円といった多額の金銭を取得できるのであれば、会社経営者との関係が悪化したとしても残業代(割増賃金)を取得できた方がいいと考えるトラック運転手が増えるのもやむを得ないところがあります。何しろ労基法で認められた正当な権利を行使しているだけなのですから、「残業代を払わないできた会社が悪い。」と自分を納得させることができますので,良心の呵責も大きくはありません。
運送業でトラック運転手から残業代(割増賃金)請求を受けるリスクが特に高い一番の理由は、運送業の会社経営者が残業代(割増賃金)を支払わなければならないという意識が希薄な傾向にあるのに対し、残業代(割増賃金)を請求すれば多額の残業代(割増賃金)を取得できることを知って残業代(割増賃金)を請求する意欲が高まっているトラック運転手の意識のギャップにあると考えています。実態と形式にギャップがある状態は、残業代(割増賃金)請求の格好のターゲットとなります。残業代(割増賃金)を請求するトラック運転手の立場からすれば、ガードを固めた会社と戦うのは大変ですが、脇が甘い会社であれば、大して難しいことをしなくても簡単に残業代(割増賃金)を取得できてしまいます。
トラック運転手が個人事業主に近い実態があるにもかかわらず、形式的には労基法上の労働者に該当することが多いことから、そのギャップを突かれて多額の残業代(割増賃金)の支払を余儀なくされているというのが実情に合致していると思います。
弁護士法人四谷麹町法律事務所
代表弁護士 藤田 進太郎
__________________