弁護士法人四谷麹町法律事務所のブログ

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労働者の過半数代表者の要件 労基則第6条の2

2010-10-11 | 日記
 労基則第6条の2は,労働者の過半数代表者の要件を規定しており,次の各号のいずれにも該当する者としています。

① 法第41条第2号に規定する監督又は管理の地位にある者でないこと。
② 法に規定する協定等をする者を選出することを明らかにして実施される投票,挙手等の方法による手続により選出された者であること。

 管理監督者扱いをして残業代を支払っていない管理職を過半数代表者とした場合,①に違反することになります。
 管理監督者だから過半数代表者にはなれないのか,管理監督者ではないから過半数代表者になれるのか,社内での扱いをはっきりさせておく必要があります。

 なお,①で規制されているのは,管理監督者が過半数代表者になることであり,管理監督者と同じ条文に規定されている「機密の事務を取り扱う者」が過半数代表者になることは,直接には規制されていません。


弁護士 藤田 進太郎

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大阪地方裁判所平成22年5月19日判決 アスベスト(石綿)と国の責任

2010-10-11 | 日記
 本件は,大阪泉南地域のアスベスト(石綿)工場の労働者であった者及びその家族並びにアスベスト工場の近隣で農業を営んでいた住民(相続人を含む。)である原告らが,被告に対し,アスベスト(石綿)粉じんにばく露したことによって健康被害を被ったのは,被告が規制権限を行使しなかったためであり,国家賠償法1条1項の適用上違法であるとして,同項に基づき,健康被害あるいは死亡による損害の賠償を求めた事案です。

 判決は,「昭和47年において,前記3(6)イのとおり,屋内作業場の石綿粉じん濃度の測定結果の報告及び抑制濃度を超える場合の改善を義務付けなかったことは,石綿粉じんによる被害が石綿肺に止まらず,肺がんや中皮腫にも及ぶことが明らかになった段階にあっては,著しく合理性を欠いたもので違法であったというべきである。」として,国の責任を認めました。

 なお,原告らが,昭和47年の時点において省令制定権限を行使すべきであるのにしなかったと主張した点に対する違法性判断は,以下のとおりです。

(1) 石綿製品の禁止
 昭和47年の時点において,被告(労働大臣)が,石綿製品の使用又は製造を禁止することを正当化するに足りる医学的又は疫学的知見があったことを認めるに足りる証拠はなく,同時点において,被告が石綿製品の使用又は製造を禁止しなかったとしても,許容される限度を逸脱して著しく合理性を欠いたものということはできない。

(2) 局所排気装置の設置にかかる,密閉・機械化
 原告らは,工程ごとに,可能な限り機械化を進め,これを密閉した上,密閉が極めて困難な部位に局所排気装置のフードを設置するという方法をとるよう義務付けるべきであったと主張する。
 確かに,前記(第3,5)のとおり,昭和35年の時点で局所排気装置の代替措置として発散源の密閉化をも使用者に義務付けるべきであったというべきである。そして,原告らが指摘するように,可能な限り機械化してこれを密閉することが労働者の石綿粉じんばく露を回避できる効果的な措置であるということはできる。
 しかし,機械化や密閉を優先的かつ一律に事業者に義務付けることは現実的ではない(だからこそ原告らも「可能な限り」と主張している。)。したがって,「事業者は(中略)粉じんを発散する屋内作業場においては(中略)発散源を密閉する設備,局所排気装置又は全体換気装置を設ける等必要な措置を講じなければならない」(安衛則577条)という規定の仕方による義務付け以上の規定を設けることは困難であったというべきである。したがって,原告らの主張するような措置を義務付ける省令を制定しなかったことが許容される限度を逸脱して著しく合理性を欠いたものとまではいえない。

(3) 全体換気装置への除じん装置の設置
 全体換気装置への除じん装置の設置は,作業場外の一般環境への石綿粉じんの排出を防止する措置であり,これは,近隣住民の石綿粉じんばく露を避けるために必要な措置であることはいうまでもない(労働省も,旧特化則施行に当たり,通達〔昭和46年5月24日付け〕において,有害物質含じん気体の大気中への放出が公害をもたらす危険性があることに言及している。)。しかし,これは,労働者の健康,風紀及び生命の保持を行うことを目的とする安衛法に基づく省令制定権限の問題そのものではなく,この関係で違法性を論ずるのは適切ではない。

(4) 防じんマスクの備え付け
 前記(第3,5(2)ウ)のとおり,防じんマスクは,粉じんばく露防止措置としては,補助的な手段に位置づけられるものである上,被告は,安衛則(593条,596条)及び特化則(43条,45条)において,呼吸用保護具等の保護具の備付けを義務付けているのであり,被告に省令制定権限の不行使があったとはいえない。

(5) 保護作業着保管
 前記(第3,5(2)オ)のとおり,保護作業着の保管は,職業性ばく露の問題そのものとはいえないし,労働者の作業場外における石綿粉じんばく露の防止という観点においても,これを省令において義務付けることの必要性やその効果が明確とはいえないというべきであるから,これを省令で義務付けなかったことが違法となるとはいえない。

(6) 基準値の法定と定期測定の結果報告
 ア 旧特化則においては,じん肺(石綿肺)を対象とする抑制濃度を,1立方メートル当たり2mgとしたが,この値は,前記1(4)の英国のアスベスト産業規則(クロシドライト以外の石綿粉じんの規制値を1立方センチメートル当たり2繊維又は1立方メートル当たり0.1mgとし,クロシドライトの規制値を1立方センチメートル当たり0.2繊維又は1立方メートル当たり0.01mgとする)と比較して大幅に高い。しかも,石綿粉じんへのばく露による肺がん及び中皮腫の発症に関する医学的又は疫学的知見が集積されており,特に中皮腫については,低濃度の石綿粉じんばく露によっても罹患するおそれのあることが指摘されていたのであるから,なおさら適切さを欠いたといわざるを得ない。しかし,従来より,このような基準値は,省令により定められてきたわけではなく,労働省の告示や通達によるものである。また,告示ないし通達による内容の違法性を検討するとしても,肺がんや中皮腫についての個人のばく露限界については統一的な基準や知見があるわけではないから,その数値の設定が他国の基準よりも緩和されていたとしても直ちに違法であると評価を下すことはできない。したがって,基準値を更に厳格に改定(法定)しなかったことが違法であったということはできない。
 イ 一方,特化則においては,石綿を製造し,又は取り扱う屋内作業場について,6か月以内ごとに1回,定期に,石綿粉じん濃度を測定し,記録を保存することが義務付けられたが(36条1項),その測定結果の報告は義務付けられなかった。しかし,石綿粉じん濃度を測定して労働環境のモニタリングをすることは,石綿粉じん被害を予防するための前提として,また,その後の労働安全行政に活用するために極めて重要であるから,そのような意義を有する測定が実行されることを担保する措置を講ずることもまた極めて重要である。そして,測定結果が抑制濃度を超える場合にはその改善を義務付ける措置を講ずることもまた重要である。前記のとおり,石綿粉じんばく露によって肺がんや中皮腫に罹患することが医学的又は疫学的に明らかになった時期であったから,なおさらである。したがって,測定結果の報告及び改善措置を義務付けることは測定を義務付けることとともに必要であり,また,そのような報告義務,改善義務を課することにさほどの障害があったとは認めがたいところである。そうすると,これらの措置を義務付けなかったことは,許容される限度を逸脱して著しく合理性を欠くものであったというべきである。

(7) 特別教育の実施
 前記(第3,5(2)キ)のとおり,特別教育は,粉じんばく露防止措置としては,補助的な手段に位置づけられるものであり,これを義務付ける省令を制定しなかったことが,許容される限度を逸脱して著しく合理性を欠くものとはいえない。

(8) その他,原告らは,粉じん測定法を定めなかったこと,石綿の危険性の表示及び危険性情報の開示を義務付けなかったこと,小規模零細事業への考慮を欠いていること等を理由として省令制定権限不行使の違法を主張するが,いずれも,その義務付けを省令において規定すべきであった根拠が明らかではなく,採用の限りではない。

弁護士 藤田 進太郎

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ニチアス事件中労委平成22年3月31日命令(労経速2077-22)

2010-10-11 | 日記
 本件は,ニチアス株式会社が,全日本造船機械労働組合関東地方協議会神奈川地域労働組合及び分会から平成18年9月20日付け及び平成19年3月5日付けで申し入れられた,C及びDを含む分会の組合員11名(会社在職中の従業員である組合員はいません。)に対する石綿健康被害の補償制度の創設等を議題とする団体交渉に応じなかったことが,労働組合法第7条第2号の不当労働行為に当たるとして,同年4月5日,再審査被申立人全日本造船機械労働組合及び分会が,奈良県労働委員会に救済を申し立てた事案です。
 奈良県労委は,平成20年7月24日,会社が本件団交を拒否したことは労働法第7条第2号の不当労働行為に当たるとして,本件団交に速やかに誠意をもって応じるよう命じることを決定し,同月31日,命令書を交付しました。
 会社は,翌月8日,これを不服として,初審命令の取消し等を求めて再審査を申し立てました。

 本件では,本件団交拒否が,労組法第7条第2号の不当労働行為と認められるかが問題となったわけですが,その判断にあたり,
① 分会は,会社が「雇用する労働者の代表者」に該当するか。
② 本件団交事項は,義務的団体交渉事項に該当するか。
③ 本件団交拒否には正当な理由がないか。
が争点となりました。

 争点①に関し,本命令は,
・労組法第7条第2号において使用者が団体交渉を義務づけられる相手方は,原則として「現に使用者と雇用関係にある労働者」の代表者(労働組合)をいうとしつつ,
・労組法第7条第2号が基礎として必要としている雇用関係には,現にその関係が存続している場合だけではなく,解雇され又は退職した労働者の解雇・退職の是非(効力)やそれらに関係する条件などの問題が雇用関係の終了に際して提起された場合も含むと解されるとし,
・雇用関係継続中に個別労働紛争を含む労働条件等に係る紛争が顕在化していた問題について,雇用関係終了後に,当該労働者の所属する労働組合が団体交渉を申し入れた場合についても,同様に解すべき
との一般原則をまず述べています。
 そして,本件は,会社を退職した後長期間が経過した労働者ら(及びその遺族)が,在職中に従事した会社の業務において石綿にばく露したことにより出現したという胸膜プラークについて,その補償等を求めて組合を結成し,会社に団体交渉を求めた事案のため,本件団交要求に係る個別労働紛争は,雇用関係継続中に顕在化し退職後に持ち越されたものではなく,退職後長期間を経て紛争として顕在化したものであり,しかも,退職の是非やこれに関係する条件が争われているものでもないので,上記いずれの場合にも当たらず,従来の一般原則からすると,分会は労組法第7条第2号にいう「雇用する労働者の代表者」には該当することになると認定しています。
 本命令は,上記一般原則への当てはめでは終わりにせず,さらに,
 「退職後の労働者に係る個別労働紛争解決のための団体交渉については,退職前の雇用関係に起因して,退職者の生命・健康に関わるなどの客観的に重大な案件に係る紛争が発生し,退職前に当該紛争が顕在化しなかったことにつき,客観的に見てやむを得ない事情が認められるような場合」
には,例外的に「雇用関係が確定的に終了したとはいえない場合」とみなし,「雇用する労働者」に準じて考える「余地がないではない。」
と考えています。
 文末の「余地がないではない。」表現からは,積極的にこれを認めていこうという意思は感じられません。
 本件は,本件団交拒否が労組法第7条第2号の不当労働行為とは認められないという結論なので,この程度の表現でもいいのかもしれませんが,このような規範で労組法第7条第2号の不当労働行為を認定するのは難しいかもしれません。
 つまり,「退職後の労働者に係る個別労働紛争解決のための団体交渉については,退職前の雇用関係に起因して,退職者の生命・健康に関わるなどの客観的に重大な案件に係る紛争が発生し,退職前に当該紛争が顕在化しなかったことにつき,客観的に見てやむを得ない事情が認められるようあ場合」であれば,分会は会社が「雇用する労働者の代表者」に該当すると断言することが本当にできるのかという問題が生じると思います。
 あてはめでは,下請企業の労働者であった者,元労働者の配偶者・遺族は,会社が「雇用する労働者の代表者」に該当しないと判断されました。
 元労働者については,上記例外に該当すると判断することも「一応可能」であり,「雇用関係が確定的に終了したとはいえない」場合とみなして,「雇用する労働者」に準じて考える「余地があるといえなくもない。」と判断し,かなり消極的,あいまいな表現ながら,争点①を充足している可能性を示唆しています。
 その上で,争点②③についての判断となりますが,よく読まないと分かりにくい論理展開かもしれません。

 争点②③に関してですが,
 本命令は,まず,本件は,退職後約25年ないし50年と極めて長期間が経過してから顕在化した個別労働紛争につき,その解決を求めて団体交渉の申入れがなされた事案であることを確認しています。
 その上で,「一般的に,退職後団体交渉申入れまでの経過期間が長期化すればするほど,事実関係の確定等に必要な資料・関係者の散逸等が伴い,また,退職後長期にわたって継続していた事実状態を覆すことにより法的安定性を損なう結果が生じかねず,ひいては,使用者に対する罰則が背後に控えているが故に求められる労組法第7条第2号の適用範囲の明確性を損なうことがあり得ると考えられる。」と一般的な問題点を指摘し,
 本件事案に関しては,「本件団交申入れについて,上記のような長期間の経過それ自体については石綿被害の性質上やむを得ない面があるとはいえ,法的安定性・明確性の側面にかんがみると,会社に対し,団体交渉という形式での交渉を法的に義務づけることが必須かつ適切であるかどうかには疑問なしとし得ない。」との疑問を呈し,
 「したがって,退職後団体交渉申入れまでに経過した期間の長短は,当該団体交渉が正当な理由がなくて拒否されたものかを判断するに当たって考慮すべき一つの要素となるというべきである。」と結論づけています。
 争点③と同じ項目で検討されている争点②の義務的団体交渉事項については,「使用者が労働組合との間で団体交渉を義務づけられるのは,原則として当該労働組合の組合員に係る労働条件等についてだけであり,これを超えて組合員以外の労働者の労働条件等の問題の解決にまでは及び得ない(労組法第6条,第17条,第18条参照)のであるから,会社が団体交渉に応じる義務のある事項は,所属する退職者のみに係る権利主張としての補償要求に限られることになる。」「会社に分会との団体交渉において義務づけられるのは,原則として所属する退職者に関する補償等の要求を検討するに必要な資料の提供等に限られる。」とされています。
 そして,胸膜プラーク出現者に関し,健康管理手帳交付支援による重篤な疾病の早期発見及び疾病が判明した段階での独自の補償等による救済措置が既に講じられているなどの点,会社が本件団交を拒否するに至った経緯,会社の代理人である弁護士を介した話し合いの方とを設けていたことなどが認定されています。
 その上で,以下のような規範を定立しています。
 「本件が,『雇用する労働者』という要件について例外的に認める余地のある労働者の退職後に顕在化した個別労働紛争解決に係る団体交渉義務に関する事案であることにかんがみれば,会社が当該紛争解決のための交渉の方途を外に用意するに至った経緯や,その方途が確実に用意されているか,更にはその方途が個別労働紛争の解決に適したものかなどといった点も,団体交渉が正当な理由がなくて拒否されたものかを判断する際に考慮できる事情というべきである。」
 つまり,本件において「雇用する労働者」と認定する余地があるとしてもそれは例外的な扱いなのだから,様々な事情を考慮して判断することができると言っているわけです。
 「雇用する労働者」と例外的に認められる範囲が広がると,使用者は予測が立たなくなりますから,仮にこのような扱いを認めるとしても,極めて例外的な場面に限るべきであることは当然でしょう。
 その上で,争点③に関する結論が続きます。
 「法的安定性・明確性の側面にかんがみると,団体交渉を義務づけることに疑問を抱かざるを得ないほど退職後長期間が経過していることに加え,会社は胸膜プラークが出現した者について健康管理手帳交付支援による重篤な疾病の早期発見及び疾病が判明した段階での独自の補償等による救済措置を既に講じていること,会社に対し建設的な団体交渉の実施につき重大な疑念を抱かせるような言動が分会らにあったことなどを総合的に判断すれば,会社が代理人弁護士を介した交渉の方途を用意しつつ,分会らの本件団交の申入れを拒否したことには,労組法第7条第2号の『正当な理由』がないとまではいえないというべきである。」
 これまで認定した事実をまとめて述べ,争点③の結論を述べたものです。
 文末の「労組法第7条第2号の『正当な理由』がないとまではいえない」という表現も二重否定となっており,「『正当な理由』がある」と断言しているわけではありません。
 このような遠回しというか,控えめというか,断言しない言い回しが本命令には多い印象です。

 本命令は,結論として,本件団交拒否は労組法第7条第2号の不当労働行為とは認められないとした上で,初審救済命令を取り消し,本件救済申立てを棄却しています。 
 妥当な結論といえるでしょう。

弁護士 藤田 進太郎

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コーセーアールイー事件福岡地裁平成22年6月2日判決(労経速2077-7)

2010-10-11 | 日記
 本件は,被告から採用についての内々定を得ていた原告が,被告から内々定の取消しを受けたことは違法であるとして,債務不履行又は不法行為に基づいて,被告に対し,損害賠償を請求した事案です。
 本件内々定による労働契約の成立については否定されていますが,本件内定取消は,労働契約締結過程における信義則に反し,原告の期待利益を侵害するものとして不法行為を構成するとされ,慰謝料100万円,弁護士費用10万円,合計110万円の支払が命じられています。

 本件内々定による労働契約の不成立については,通常の内定手続において行われることが行われていなかったことなどが理由とされています。
 不法行為成立の理由としては,本件内々定取消しの直前まで新卒採用を断念しなかったこと,内々定取消しの具体的理由の説明が不十分だったこと,誠実な態度で対応しなかったことなどが挙げられています。
 損害額については,①賃金相当の逸失利益については否定,②慰謝料については100万円を肯定,③就職活動費については否定,④弁護士費用は10万円を肯定,という内訳で,合計110万円が認められています。

 内々定を出しただけでは労働契約が成立したとは言えない事案が多いと思いますが,採用応募者の就職が困難となる遅い時期に内々定を取り消した場合,紛争が生じる可能性が高くなります。
 どうせ,内々定を取り消さなければならないのであれば,応募者が他の企業に就職しやすいような早い時期に取り消す必要があります。
 内々定取消しの具体的理由の説明がないことが問題とされていますが,取消し時期が遅れれば遅れるほど,応募者のダメージは大きくなりますから,より具体的な説明(+何らかの金銭補償)が必要となると思います。
 慰謝料の金額の根拠の中で,「原告の就職活動の状況及び現在も就職先が決まっていないこと」が挙げられていますが,まさにこの点が重要だと思います。
 同日出された同地裁の判決で,他社の内定を得て就労できている応募者に対する慰謝料額は75万円であり,25万円の開きがあります。
 実際問題としても,就職が決まった応募者から訴えられるケースは,余程内々定取消しのやり方がに問題があって恨みを買わない限り,それ程多くはないのではないでしょうか。
 現実には,25万円という見かけ上の金額の開き以上に,大きな差が生じると思います。
 応募者の内々定取消し後の他社への就職を,単なる結果論であるとして軽視するのではなく,「内々定を取り消さざるを得ないのであれば,せめて,他社に就職しやくなるようできるだけ配慮しよう,迷惑を少しでも少なくしよう。」と考える発想が重要となります。


藤田進太郎

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賃金の支払を命じる判決と使用者の源泉徴収義務

2010-10-11 | 日記
賃金の支払を命じる判決が出た場合,任意に賃金の支払を行う際,使用者は税金等の源泉徴収義務を負うのでしょうか?
判決が出た場合,使用者は,労働者側から,「債務名義があるのだから,使用者は源泉徴収しないで,全額支払う義務がある。」などと主張されて対応に苦慮することがあります。

この問題に関し,高松高裁昭和44年9月4日判決(判タ241-247)は,以下のように述べています。
「使用者が判決に従い任意に賃金支払義務を履行する場合においては,賃金より税金の源泉徴収を行い又は諸保険料の控除をなし得ることは当然である。」
これは,使用者は,税金の源泉徴収義務を負うことを前提として,源泉徴収できると述べているものと評価することができます。

いずれにせよ,税金の問題は,顧問税理士に相談しながら対応を検討するのが一番です。
税金で疑問に思うことがあったら,すぐに顧問税理士に連絡を取る癖を付けておくと良いでしょう。

藤田進太郎

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有効な配転命令に従わないことを理由とする懲戒解雇が無効とされた事例

2010-10-11 | 日記
 有効な配転命令に従わないことを理由とする懲戒解雇は有効と判断されることが多いですが,有効な配転命令に従わないことを理由とする懲戒解雇が無効とされた事例も存在するので注意が必要です。
 そのような事案では,懲戒解雇が性急に過ぎることが問題とされることが多く,適切な手続を踏んでさえいれば有効に懲戒解雇できたのではないかとも考えられます。
 したがって,使用者としては,配転命令に従わない社員がいたからといって,「待ってました!」と言わんばかりに性急に懲戒解雇してはならず,社員が配転命令に従うかどうかを考えるための適切な手続を踏んだ上で懲戒解雇に踏み切るべきと考えます。
 
 メレスグリオ事件東京高裁平成12年11月29日判決(労判799-17)は,配転命令を有効と判断し,懲戒解雇事由該当性を肯定しながら,解雇権を濫用したものとして,懲戒解雇を無効と判断しています。
 「被控訴人は,控訴人に対し,職務内容に変更を生じないことを説明したにとどまり,本件配転後の通勤所要時間,経路等,控訴人において本件配転に伴う利害得失を考慮して合理的な決断をするのに必要な情報を提供しておらず,必要な手順を尽くしていないと評することができる。このように,生じる利害得失について控訴人が判断するのに必要な情報を提供することなくしてされた本件配転命令に従わなかったことを理由とする懲戒解雇は,性急に過ぎ,生活の糧を職場に依存しながらも,職場を離れればそれぞれ尊重されるべき私的な生活を営む労働者が配転により受ける影響等に対する配慮を著しく欠くもので,権利の濫用として無効と評価すべきである。」

 三和事件東京地裁平成12年2月18日判決(労判783-102)は,配転命令を有効と判断し,懲戒解雇事由該当性を肯定しながら,解雇権を濫用したものとして,懲戒解雇を無効と判断しています。
「原告らは本件配転命令を拒否していたとはいえ,話し合い等により納得すれば配置転換に応ずる旨述べていたこと,原告らの採用の経緯にかんがみれば,原告らが本件配転命令に難色を示すのも無理からぬものがあること,仮に三和労組が本件配転命令後に結成されたものであるとしても,本件配転命令は原告らの労働条件に関わるものであるから,被告にはこの問題に関し団体交渉に応ずる義務があったにもかかわらず,これを拒否したものであって,労働組合法7条2号に該当する不当労働行為であるといわざるを得ないことからすれば,被告は,少なくとも,団体交渉の継続を約束した上で,就労開始日以降の業務での就労を認めるべきであって,右のような手続を経ることなく,就労開始日を待たずにされた本件懲戒解雇は,その余の手続の適正について論じるまでもなく,手続の適正を欠き,解雇権を濫用するものとして無効であるというべきである。」

弁護士 藤田 進太郎

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配置転換の心理的負荷

2010-10-11 | 日記
 「心理的負荷による精神障害等に係る業務上外の判断指針」の「職場における心理的負荷評価表」では,配置転換の平均的な心理的負荷の強度は中程度とされており,心理的負荷の強度を修正する視点として,「職種,職務の変化の程度,合理性の有無等」が挙げられています。
 社員が仕事のストレスでうつ病になりかけたような場合,社員の精神的負荷を軽減させるために配置転換を検討することがありますが,配置転換の平均的な心理的負荷の強度は中程度とそれなりに高いので,逆効果にならないよう,「職種,職務の変化の程度,合理性の有無等」をよく検討する必要があると思います。

藤田進太郎

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労働基準法施行規則 別表第1の2に掲げる疾病

2010-10-11 | 日記
 労災保険の対象となる業務上の疾病に関して,労災保険法では,労基法に規定する災害補償の事由が生じた場合に保険給付を行うと定め(同法12条の8第2項),労働基準法では,「業務上の疾病の範囲は命令で定める」と規定しています(同法75条2項)。
 これに基づき同法施行規則35条は「法第75条第2項の規定による業務上の疾病は,別表第1の2に掲げる疾病とする」と規定しています。
 同別表は,以下の①~⑪に分けて具体的な業務上疾病を列挙しています。
 ①~⑪のうち,⑧⑨は,平成22年5月に追加されたばかりの条項です。
① 業務上の負傷に起因する疾病(1号)
② 紫外線,赤外線,レーザー光線等の物理的因子による疾病(2号)
③ 身体に過度の負担のかかる作業態様に起因する疾病(3号)
④ 化学物質等による疾病(4号)
⑤ 粉じんを飛散する場所における業務によるじん肺症又はじん肺法に規定するじん肺と合併したじん肺法施行規則1条に掲げる疾病(5号)
⑥ 細菌,ウイルス等の病原体による疾病(6号)
⑦ がん原性物質若しくはがん原性因子又はがん原性工程における業務による疾病(7号)
⑧ 長期間にわたる長時間の業務その他血管病変等を著しく増悪させる業務による脳出血,くも膜下出血,脳梗塞,高血圧性脳症,心筋梗塞,狭心症,心停止(心臓性突然死を含む。)若しくは解離性大動脈瘤又はこれらの疾病に付随する疾病(8号)
⑨ 人の生命にかかわる事故への遭遇その他心理的に過度の負担を与える事象を伴う業務による精神及び行動の障害又はこれに付随する疾病(9号)
⑩ 厚生労働大臣の指定する疾病(10号)
⑪ その他業務に起因することの明らかな疾病(11号)

 なお,施行規則35条別表1の2に具体的に明示されている疾病及び厚生労働大臣の指定する疾病は,業務との因果関係が医学的に確立した疾病を定型化して例示したものですから,これらについては,業務と疾病との因果関係が推定されます。
 したがって,一定の業務に従事する労働者に当該種類の職業性の疾病が発生した場合,業務との因果関係が推定され,特段の反証のない限り,その疾病は業務に起因するものとして取り扱われます。
 他方,施行規則35条別表1の2に具体的に明示されていない疾病については,業務に起因することの明らかな疾病に限り,業務上の疾病とされることになります。

藤田進太郎

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