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注意するとパワハラだなどと言って,上司の指導を聞こうとしない。

2012-01-31 | 日記
Q4 注意するとパワハラだなどと言って,上司の指導を聞こうとしない。

 「パワーハラスメント」とは,一般に,「同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為」をいいます(『職場のいじめ・嫌がらせ問題に関する円卓会議ワーキング・グループ報告』)。

 『職場のいじめ・嫌がらせ問題に関する円卓会議ワーキング・グループ報告』では,パワハラの行為類型として,以下のようなものが挙げられています。
① 暴行・傷害(身体的な攻撃)
② 脅迫・名誉毀損・侮辱・ひどい暴言(精神的な攻撃)
③ 隔離・仲間外し・無視(人間関係からの切り離し)
④ 業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制、仕事の妨害(過大な要求)
⑤ 業務上の合理性なく、能力や経験とかけ離れた仕事を命じることや仕事を与えないこと(過小な要求)
⑥ 私的なことに過度に立ち入ること(個の侵害)
 まず、①については、業務の遂行に関係するものであっても、「業務の適正な範囲」に含まれるとすることはできない。
 次に、②と③については、業務の遂行に必要な行為であるとは通常想定できないことから、原則として「業務の適正な範囲」を超えるものと考えられる。
 一方、④から⑥までについては、業務上の適正な指導との線引きが必ずしも容易でない場合があると考えられる。こうした行為について何が「業務の適正な範囲を超える」かについては、業種や企業文化の影響を受け、また、具体的な判断については、行為が行われた状況や行為が継続的であるかどうかによっても左右される部分もあると考えられるため、各企業・職場で認識をそろえ、その範囲を明確にする取組を行うことが望ましい。

 近年では,上司の言動が気にくわないと,何でも「パワハラ」だと言い出す社員が増えているように思えます。
 そのような社員は,勤務態度等に問題があることが多く,むしろ,注意,指導,教育の必要性が高いことが多いという印象です。
 『職場のいじめ・嫌がらせ問題に関する円卓会議ワーキング・グループ報告』でも,「個人の受け取り方によっては、業務上必要な指示や注意・指導を不満に感じたりする場合でも、これらが業務上の適正な範囲で行われている場合には、パワーハラスメントには当たらないものとなる。」とされていることからも分かるように,部下にとって不快な上司の言動が何でもパワハラに該当するわけではありません。

 上司の部下に対する注意,指導,教育は必要不可欠なものであり,上司に部会の人材育成を放棄されても困りますから,パワハラにならないよう神経質になるあまり,上司が部下に対して何も指導できないようなことがあってはなりません。
 『職場のいじめ・嫌がらせ問題に関する円卓会議ワーキング・グループ報告』でも,「なお、取組を始めるにあたって留意すべきことは、職場のパワーハラスメント対策が上司の適正な指導を妨げるものにならないようにするということである。上司は自らの職位・職能に応じて権限を発揮し、上司としての役割を遂行することが求められる。」とされています。

 違法なパワハラに該当するかどうかは,行為のなされた状況,行為者の意図・目的,行為の態様,侵害された権利・利益の内容,程度,行為者の職務上の地位,権限,両者のそれまでの関係,反復・継続性の有無,程度等の要素を総合考慮し,社会通念上,許容される範囲を超えているかどうかにより判断されることになります。
 部下に問題がある場合であっても,やり過ぎは良くありません。
 指導教育目的であっても,やり過ぎると違法と判断されることがあります。
 皆の前で叱責することや,大勢の社員が読むことができる電子メールで叱責することは,裁判所受けが良くありません。
 パワハラでなくても,名誉毀損となることもあります。
 電子メールにより部下を叱責する場合は,主に,メール送信の目的,表現方法,送信範囲等の要素をチェックする必要があります。
 最近では,訴訟で電子メールが証拠として提出されることが多くなっています。

 パワハラにより精神障害を発症した場合,労災となり,会社が安全配慮義務違反又は使用者責任を問われて,損害賠償請求されることになりかねません。
 パワハラを行う原因が上司のマネジメント能力の不足にある場合は,上司の懲戒処分だけ行うよりも,研修,降職,配置転換等により対処した方が有効な場合もあります。

 パワハラの状況は,部下により無断録音されて,証拠として提出されることが多く,訴訟では,無断録音したものが証拠として認められてしまいます。
 部下が上司をわざと挑発して,不相当な発言を引き出そうとすることもあります。
 無断録音されていても問題が生じないよう指導の仕方に気をつける必要があります。

弁護士 藤田 進太郎

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