残業代(割増賃金)算定の基礎賃金をどのように考えればいいのか教えて下さい。
労基法は,原則として全ての賃金を残業代(割増賃金)算定の基礎となる賃金とした上で,労基法37条5項及び労基則21条において,残業代(割増賃金)の基礎に算入しない賃金(除外賃金)を制限列挙するという態度を取っており,「(月給額-除外賃金)」が残業代(割増賃金)算定の基礎となる賃金となります。
労基法37条5項,労基則21条で除外賃金とされているのは,
① 家族手当
② 通勤手当
③ 別居手当
④ 子女教育手当
⑤ 住宅手当
⑥ 臨時に支払われた賃金
⑦ 一か月を超える期間ごとに支払われる賃金
です。
条文には規定されていませんが,残業代(割増賃金)それ自体を残業代算定の基礎賃金とするのは背理ですから,
⑧ 残業代(割増賃金)の趣旨で支給される賃金
についても,残業代算定の基礎賃金から除外することになります。
除外賃金に該当するかどうかは,名称にかかわらず実質によって判断されますので(昭和22年9月13日発基17号),名称が「家族手当」や「住宅手当」であったとしても,除外賃金ではないと判断されることも珍しくありません。
「家族手当」は,扶養家族数又はこれを基礎とする家族手当額を基準として算出した手当のことをいいますので,独身社員についてまで支払われていたり,扶養家族数に関係なく一律に支給されていたりする場合は,除外賃金としての性質を有する「家族手当」とは認められず,残業代(割増賃金)算定の基礎賃金に入れるべきこととなります(昭和22年11月5日基発231号)。
また,「住宅手当」は,住宅に要する費用に応じて算定される手当をいいますので,全社員に一律に定額で支給することとされているようなものは,除外賃金としての性質を有する「住宅手当」には該当せず,残業代(割増賃金)算定の基礎賃金に入れるべきこととなります(平成11年3月31日基発170号)。
労基法で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約はその部分については無効となり,無効となった部分は労基法で定める基準によることになります(労基法13条)。
したがって,例えば,除外賃金に当たらない手当が存在するにもかかわらず,基本給のみを残業代(割増賃金)算定の基礎賃金とする旨合意し,合意書に署名押印させたとしても当該合意は無効となり,労基法所定の計算方法が適用されることになります。
また,就業規則は労基法に違反してはならず(労基法92条1項),労基法違反の就業規則はその部分に関しては無効となりますので,例えば,除外賃金に当たらない手当が存在するにもかかわらず,賃金規程において,基本給のみを残業代(割増賃金)算定の基礎賃金とする旨規定して周知したとしても当該規定は無効となり,労基法所定の計算方法が適用されることになります。