労働者を懲戒解雇にした場合,当然に退職金を不支給にしても問題はありませんよね?
第1 回答
有効に懲戒解雇 ができる事案でも退職金を不支給とすることまではできない場合があります。
懲戒解雇の有効性についてはFAQ536 を参照してください。
第2 説明
1 前提として,就業規則(退職金規程)等に退職金を支給する条項が定められているかを確認する必要があります。使用者が専ら退職金支給の有無などの裁量を有している限りは,それは任意的な給付であって賃金ではなく,労働者には権利として退職金請求権が認められないことになるからです。
そこで以下では,就業規則等で退職金を支給する旨の定めがあることを前提に説明を加えます。
想定されるケースは,懲戒解雇をした労働者が退職金請求をしてきたのに対して,使用者として退職金不支給(減額)を抗弁として主張(反論)するものが考えられます。この場合,以下の3点を主張(反論)していきます。
(1) 就業規則に退職金不支給・減額条項があること
例えば,「懲戒解雇された者,又は懲戒解雇に相当する背信行為を行った者には,退職金の全額を支給しない。ただし,情状により一部減額して支給することがある。」というものです。
懲戒解雇の際に気をつけるべきことは,使用者が懲戒解雇をする前に労働者が退職をしてしまえばには該当しなくなるということです。
そこで,退職直後に懲戒解雇に相当する行為が判明した場合にも対応できるようにするためにはの規定も設けておいた方が良いとされています。
既に退職金を支払ってしまった場合でも返還請求が可能です。
(2) 労働者に退職金不支給・減額事由に該当する行為があったこと
(3) 労働者のこれまでの功労を抹消・減殺するほどの背信行為があること
懲戒解雇の場合には,非違行為の内容・大きさ,会社の損害の程度,過去の処分との比較などから総合的に判断していくことになります。
2 裁判例
(1) 事例1
ア 事案
鉄道会社の職員が電車内で3度の痴漢行為の後,昇給停止及び降職の懲戒処分を受け,その6か月後さらに痴漢行為で逮捕(懲役4月執行猶予3年)された結果,懲戒解雇になった事案(退職金全額不支給)。
イ 結論
裁判所は,退職金の30%を支払うべきとしました。
なお,刑事事件で有罪になった他のケースで全額不支給を認めた裁判例もあります。
(2) 事例2
ア 事案
運送会社の運転手が飲酒運転をし,懲戒解雇になった事案(退職金全額不支給)。
イ 結論
裁判所は,退職金の30%を支払うべきとしました。
理由:他に懲戒処分歴がないこと,事故は起こしていないことから長年の勤続の功労を全く失わせる程度の著しい背信的な事由とまでいえないと判断しました。
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