弁護士法人四谷麹町法律事務所のブログ

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辞表を提出してきた社員が引継を拒絶し,退職日までの全労働日について有休の取得申請をしてきた場合

2015-01-26 | 日記

一方的に辞表を提出して辞職する旨申し出た社員が仕事の引継ぎを拒絶し,退職日までの全労働日について年次有給休暇の取得申請をしてきました。どのように対応すればよろしいでしょうか。


 年休取得に使用者の承認は不要であり,労働者がその有する休暇日数の範囲内で,具体的な休暇の始期と終期を特定して時季指定をしたときは,適法な時季変更権の行使がない限り,年次有給休暇が成立し,当該労働日における就労義務が消滅します。
 使用者が,社員の年休取得を拒むことができるというためには,時季変更権(労基法39条5項)を行使できる場面でなければなりませんが,時季変更権の行使は,「請求された時季に有給休暇を与えることが事業の正常な運営を妨げる場合においては,他の時季にこれを与えることができる。」(労基法39条5項)とするものに過ぎず,年休を取得する権利自体を奪うことはできません。退職後に年休を与えることはできませんので,退職までの全労働日の年休取得を申請された場合,よほど信義則に反するような事情がない限り,使用者は時季変更権の行使ができず,退職日までの年休取得を拒絶することはできないものと考えられます。昭和49年1月11日基収5554号も,「年次有給休暇の権利が労働基準法に基づくものである限り,当該労働者の解雇予定日をこえての時季変更は行えないものと解する。」としています。
 引継ぎをしてもらわなければ業務に支障が生じることもあり得ますが,法的にはやむを得ないケースがほとんどと思われます。退職する社員とよく話し合って,年休買い上げの合意をするか,退職日を先に延ばす合意をするなどして,引継ぎをするよう説得するほかありませんが,合意退職の申出ではなく,一方的に辞職を申し出てきたような場合は,話し合いが難しいかもしれません。


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契約期間3年の契約社員が勤務開始1年半で辞めたいと言い出してきた場合,拒絶することはできますか?

2015-01-26 | 日記

契約期間3年の契約社員が勤務開始1年半で辞めたいと言い出し,退職届を提出してきました。退職を拒絶することはできますか。


 労基法137条は,所定の措置が講じられるまでの間は,労働者は,1年を超える契約期間を定めた場合であっても,一定の事業の完了に必要な期間を定めるもの,労基法14条1項1号2号の専門的な知識等を有する労働者等を除き,契約期間の初日から1年を経過した日以後は,いつでも退職できるものとしています。
 このFAQを執筆している時点では,所定の措置は講じられていませんので,貴社の契約社員が,一定の事業の完了に必要な期間を定めるもの,労基法14条1項1号2号の専門的な知識等を有する労働者等に該当する場合を除き,契約期間中の退職であっても,拒絶することはできないことになります。


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有期労働契約であれば,契約期間途中で労働者が一方的に辞職するのを防止することができますか。

2015-01-26 | 日記

有期労働契約であれば,契約期間途中で労働者が一方的に辞職するのを防止することができますか。


 有期労働契約においては,本来,「当事者が雇用の期間を定めた場合であっても,やむを得ない事由があるときは,各当事者は,直ちに契約の解除をすることができる。この場合において,その事由が当事者の一方の過失によって生じたものであるときは,相手方に対して損害賠償の責任を負う。」と定める民法628条に規制され,やむを得ない事由がなければ契約期間満了前には退職できないのが原則です。
 もっとも,期間の定めのある労働契約(一定の事業の完了に必要な期間を定めるものを除き,その期間が1年を超えるものに限る。)を締結した労働者(労基法14条1項各号に規定する労働者を除く。)は,民法628条の規定にかかわらず,当該労働契約の期間の初日から1年を経過した日以後は,使用者に申し出ることにより,いつでも退職することができます(労基法137条)。
 また,労基法137条が適用されない事案であっても,有期労働契約者の就業規則に一定の期間(例えば,14日前とか,30日前)に申し出れば退職できる旨就業規則に規定されていれば契約期間満了前に退職することができます。
 有期契約労働者が使用者に退職希望の意思を伝えて欠勤を続けた場合,賃金の欠勤控除をしたり,懲戒処分に処したりすることはできるかもしれませんが,強制的に働かせることはできません。損害賠償請求ができるかどうかは一概には言えませんが,仮に損害賠償請求が認められたとしても費用対効果が悪いケースが多いように思えます。


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使用者が退職を承認(受理)しなかった場合,労働契約は存続しますか。

2015-01-26 | 日記

正社員が一方的に退職を宣言して出社しなくなったのに対し,使用者が退職を承認(受理)しなかった場合,労働契約は存続しますか。


 期間の定めのない労働契約の場合,労働者から使用者に対し辞職の意思表示が到達すれば,使用者が労働者の退職を承認(受理)しなくても,民法627条所定の期間が経過することにより退職の効力が生じます。

(期間の定めのない雇用の解約の申入れ)

第627条 当事者が雇用の期間を定めなかったときは,各当事者は,いつでも解約の申入れをすることができる。この場合において,雇用は,解約の申入れの日から2週間を経過することによって終了する。

2 期間によって報酬を定めた場合には,解約の申入れは,次期以後についてすることができる。ただし,その解約の申入れは,当期の前半にしなければならない。

3 6か月以上の期間によって報酬を定めた場合には,前項の解約の申入れは,3か月前にしなければならない。


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社員が口頭で会社を辞めると言って出て行ってしまった場合,どのように対応すればよろしいでしょうか?

2015-01-26 | 日記

社員が口頭で会社を辞めると言って出て行ってしまったような場合,どのように対応すればよろしいでしょうか。


 社員が口頭で会社を辞めると言って出て行ってしまったような場合,退職届等の客観的証拠がないと口頭での合意退職が成立したと会社が主張しても認められず,解雇 したと認定されたり,合意退職も成立しておらず解雇もされていないから労働契約は存続していると認定されたりすることがあります。
 退職の申出があった場合は口頭で退職を承諾するだけでなく,退職届を提出させて退職の申出があったことの証拠を残しておいて下さい。印鑑を持ち合わせていない場合は,退職届に署名したものを提出させれば足ります。後から印鑑を持参させて面前で押印もさせることができればベターです。
 出社しなくなった社員が退職届を提出しない場合には,電話,電子メール,郵便等を用いて,
 ① 退職する意思があるのであれば退職届を提出すること
 ② 退職する意思がないのであれば出勤すること
を要求して下さい。放置したままにしておくのはリスクが高いです。特に,解雇通知書や解雇理由証明書を交付するよう要求してきたら要注意です。


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解雇していないのに解雇されたという話に持って行きたがる労働者側の意図を教えて下さい。

2015-01-23 | 日記

解雇していないのに解雇されたという話に持って行きたがる労働者側の意図を教えて下さい。


 解雇 していないのに解雇されたという話に持って行きたがる労働者側の意図は,主に以下のものが考えられます。
 ① 失業手当の受給条件を良くしたい。
 ② 解雇予告手当を請求したい。
 ③ 解雇無効を主張して,働かずにバックペイ又は解決金を取得したい。


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ソーシャルメディアに問題映像を投稿した社員を懲戒解雇する際の注意点を教えて下さい。

2015-01-23 | 日記

ソーシャルメディアに問題映像を投稿した社員を懲戒解雇する際の注意点を教えて下さい。


 懲戒処分は,問題映像投稿の悪質性の程度に応じて行う必要があります。労契法15条では「使用者が労働者を懲戒することができる場合において,当該懲戒が,当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして,客観的に合理的な理由を欠き,社会通念上相当であると認められない場合は,その権利を濫用したものとして,無効とする。」と定められており,懲戒事由に該当する場合であっても,懲戒処分が有効となるとは限らないことに注意が必要です。
 懲戒処分が有効となるかどうかを判断するに当たっては,投稿した問題映像の内容のほか,問題映像の投稿を禁止する企業秩序がどれだけ厳格に形成されていたかも重視されます。同じような問題映像を投稿したとしても,ソーシャルメディアへの利用に関するガイドラインが存在するか,ガイドラインを遵守する旨の誓約書が存在するか,ガイドラインの遵守義務が就業規則で規定されているか,ガイドラインに違反したことが懲戒事由となる旨特に明記されているか,ガイドライン遵守の重要性について研修などで教育しているか,ソーシャルメディアの利用に関し普段から注意指導しているか等により,結論が別れる可能性があります。
 軽度の懲戒処分であれば使用者の裁量の幅が広く,有効と判断されるケースが多いですし,訴訟等で争われるリスクも低いですが,退職の効果を伴う懲戒解雇 ・諭旨解雇・諭旨退職等の処分については,訴訟等で争われて無効と判断されるリスクが高まりますので,慎重に検討する必要があります。本人が自主退職を求めてきた場合には,敢えて懲戒解雇等の処分まではせずに,自主退職を認めるべきケースもあるのではないかと思います。


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解雇した社員が合同労組に加入して団体交渉を申し入れてきた場合は応じなければなりませんか?

2015-01-23 | 日記

解雇した社員が合同労組に加入してその合同労組が団体交渉を申し入れてきた場合は,団体交渉に応じなければなりませんか。


 解雇 した社員であっても,解雇そのものまたはそれに関連する退職条件等が団体交渉 の対象となっている場合には,労働組合法第7条第2号の「雇用する労働者」に含まれるため,解雇した社員が加入した労働組合からの団体交渉を正当な理由なく拒絶した場合,団交拒否の不当労働行為となります(労組法7条2号)。
 したがって,解雇した社員が合同労組に加入してその合同労組が団体交渉を申し入れてきた場合は,団体交渉に応じなければなりません。


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精神疾患を発症した社員を直ちに普通解雇してはいけないでしょうか。

2015-01-23 | 日記

精神疾患を発症した社員について私傷病に関する休職制度を適用せず,直ちに普通解雇してはいけないでしょうか。


 私傷病に関する休職制度があるにもかかわらず,精神疾患 を発症したため債務の本旨に従った労務提供ができないことを理由としていきなり普通解雇 するのは,休職させても回復の見込みが客観的に乏しいといった内容の専門医の診断又は意見があるような場合でない限り,解雇権を濫用したものとして解雇 が無効(労契法16条)と判断されるリスクが高いものと思われますので,お勧めできません。


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管理職としての能力が低い社員を解雇する場合の注意点を教えて下さい。

2015-01-23 | 日記

管理職としての能力が低い社員を解雇する場合の注意点を教えて下さい。


 管理職 としての能力が低いことが原因で部下を管理できない場合であっても直ちに退職勧奨 したり解雇 したりせず,当該社員の能力でも対応できるレベルの管理職に降格させるか,管理職から外して対応するのが原則です。
 ただし,地位を特定して高給で採用された社員に労働契約で予定された能力がなかった場合には,降格ではなく退職勧奨や解雇を検討することになります。地位特定者を解雇するにあたっては,地位を特定して採用された事実を主張立証する必要がありますので,労働契約書等の書面に明示しておくべきです。
 管理職として不適格であることを理由とした解雇が有効と判断されるようにするためには,何月何日に管理職として不適格であることを示す事実があったのかを,当該事実があった当時の証拠により説明できるようにしておく必要があります。抽象的に「管理職として不適格である。」と言ってみてもあまり意味はありませんし,「彼が管理職として不適格であることは,周りの社員も,取引先もみんな知っている。」というだけでは足りません。
 会社関係者の陳述書や法廷での証言は,証拠価値があまり高くないため,紛争が表面化する前の書面等の客観的証拠がないと,何月何日にどのような管理職として不適格であることを示す事実があったのかを主張立証するのには困難を伴うことが多いというのが実情です。


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刑事事件を起こした社員を懲戒解雇する際の注意点を教えてください。

2015-01-23 | 日記

就業時間外に社外で飲酒運転・痴漢・傷害事件等の刑事事件を起こした社員を懲戒解雇する際の注意点を教えて下さい。


 そもそも,私生活上の行為を理由として懲戒処分に処することができるかが問題となりますが,「営利を目的とする会社がその名誉,信用その他相当の社会的評価を維持することは,会社の存立ないし事業の運営にとって不可欠であるから,会社の社会的評価に重大な悪影響を与えるような従業員の行為については,それが職務遂行と直接関係のない私生活上で行われたものであっても,これに対して会社の規制を及ぼしうることは当然認められなければならない。」(日本鋼管事件最高裁昭和49年3月15日第二小法廷判決)と考えられています。
 もっとも,就業時間外に社外で社員が刑事事件を起こしただけで直ちに懲戒処分に処することができるわけではなく,
① 社員の言動が懲戒事由に該当すること
② 当該懲戒が,当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして,客観的に合理的な理由があり,社会通念上相当であると認められること(労契法15条)
等が必要となります。
 本人が犯行を否認しており,犯罪が行われたかどうかが明らかではない場合は,犯行があったことを前提に懲戒処分をすることはリスクが高くなります。懲戒処分は証拠から認定できる事実に基づいて行うようにして下さい。
 懲戒解雇 ・諭旨解雇・諭旨退職のような退職の効果を伴う懲戒処分は紛争になりやすく,その効力は厳格に判断される傾向にあります。会社の社会的評価を若干低下させたというだけでは,懲戒解雇・諭旨解雇・諭旨退職のような退職の効果を伴う懲戒処分の理由としては不十分であり,会社の社会的評価に及ぼす悪影響が相当重大であると客観的に評価することができるような事実を証拠により認定できる必要があります。
 日本鋼管事件最高裁昭和49年3月15日第二小法廷判決は,「就業時間外に社外で行われた刑事事件が会社の社会的評価に重大な悪影響を与えたこと」を理由とする懲戒解雇・諭旨解雇の可否の判断にあたり,「当該行為の性質,情状のほか,会社の事業の種類・態様・規模,会社の経済界に占める地位,経営方針及びその従業員の会社における地位・職種等諸般の事情から綜合的に判断して,右行為により会社の社会的評価に及ぼす悪影響が相当重大であると客観的に評価される場合」に該当するかどうかを検討しています。
 タクシーやバスの運転業務に従事している社員が飲酒運転した場合や,電鉄会社社員等,痴漢を防止すべき立場にある者が痴漢した場合は,一般的には懲戒解雇が有効とされやすい傾向にあります。
 懲戒解雇が無効とされるリスクがある事案については,より軽い懲戒処分にとどめた方が無難なことも多いところです。結果として,社員が自主退職することもあります。
 最初に刑事事件を起こした際に,懲戒解雇を回避してより軽い懲戒処分をする場合は,書面で,次に痴漢等の刑事事件を起こしたら懲戒解雇する旨の警告をするか,次に痴漢等の刑事事件を起こしたら懲戒解雇されても異存ない旨記載された始末書を取っておくとよいでしょう。これがあれば万全というわけではありませんが,同種事犯を犯した場合の懲戒解雇が有効となりやすくなります。
 懲戒解雇事由に該当する場合を退職金の不支給・減額・返還事由として規定しておけば,懲戒解雇事由がある場合で,当該個別事案において,退職金不支給・減額の合理性がある場合には,退職金を不支給または減額したり,支給した退職金の全部または一部の返還を請求したりすることができます。
 退職金の不支給・減額事由の合理性の有無は,労働者のそれまでの勤続の功を抹消(全額不支給の場合)又は減殺(一部不支給の場合)するほどの著しい背信行為があるかどうかにより判断されます。懲戒解雇が有効な場合であっても,労働者のそれまでの勤続の功を抹消するほどの著しい背信行為がない場合は,本来の退職金の支給額の一部の支払が命じられることがあります。例えば,小田急電鉄(退職金請求)事件東京高裁平成15年12月11日判決は,鉄道会社の従業員が私生活上で行った電車内の痴漢行為を理由とする懲戒解雇は有効と判断されましたが,それまでの勤続の労を抹消するほどの強度の背信性を持つ行為であるとまではいえないとして,本来の退職金の支給額の30%の支払を命じています。


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会社に無断でアルバイトした社員を解雇することができますか。

2015-01-23 | 日記

会社に無断でアルバイトした社員を解雇することができますか。


 就業時間外の行動は自由なのが原則のため,社員の兼業を禁止するためには,就業規則に兼業禁止を定めて,兼業禁止を労働契約の内容にしておく必要があります。
 何らかの処分をするためには,兼業により十分な休養が取れないなどして本来の業務遂行に支障を来すとか,会社の名誉信用等を害するとか,競業他社での兼業であるとかいった事情が必要となります。企業秩序を乱すようなアルバイトを辞めるよう注意指導しても辞めようとしない場合は,書面で注意指導し,それでも改善しない場合は懲戒処分を検討することになります。
 解雇 までは難しい事案が多く,紛争になりやすいので,解雇に踏み切る場合は,その有効性について慎重に検討する必要があります。


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業務上のミスの程度・頻度が甚だしく改善の見込みが乏しい社員を解雇する際の注意点を教えて下さい。

2015-01-23 | 日記

業務上のミスの程度・頻度が甚だしく改善の見込みが乏しい社員を解雇する際の注意点を教えて下さい。


 業務上のミスの程度・頻度が甚だしく改善の見込みが乏しい場合には,退職勧奨 と平行して普通解雇 を検討します。普通解雇が有効となるかどうかを判断するにあたっては,
 ① 就業規則の普通解雇事由に該当するか
 ② 解雇権濫用(労契法16条)に当たらないか
 ③ 解雇予告義務(労基法20条)を遵守しているか
 ④ 解雇が法律上制限されている場合に該当しないか
等を検討する必要があります。
 解雇が有効となるためには,単に①就業規則の普通解雇事由に該当するだけでなく,②解雇権濫用に当たらないことも必要となります。②解雇権濫用に当たらないというためには,解雇 に客観的に合理的な理由があり,社会通念上相当なものである必要があります。
 解雇に「客観的に」合理的な理由があるというためには,「裁判官」が,労働契約を終了させなければならないほど当該社員の業務上のミスの程度・頻度が甚だしく,業務の遂行や企業秩序の維持に重大な支障が生じているため,労働契約で求められている能力が欠如していると判断するに値する「証拠」が必要です。会社経営者,上司,同僚,部下,取引先などが,主観的に解雇に値すると考えただけでは足りず,単に思ったよりもミスが多く,見込み違いであったというだけでは,解雇は認められません。
 長期雇用を予定した新卒採用者については,社内教育等により社員の能力を向上させていくことが予定されているため,業務上のミスを繰り返して会社に損害を与えたとしても直ちに労働契約で求められている能力が欠如していることにはならず,解雇は例外的な場合でない限り認められません。一般的には,勤続年数が長い社員,賃金が低い社員は,業務上のミスを繰り返して会社に損害を与えることを理由とした解雇が認められにくい傾向にあります。採用募集広告に「経験不問」と記載して採用した場合は,一定の経験がなければ有していないような能力を採用当初から有していることを要求することはできません。
 地位や職種が特定されて採用された社員については,当該地位や職種で要求される能力を欠く場合は,労働契約で求められている能力が欠如しているものとして,普通解雇が認められやすくなります。ただし,解雇が比較的緩やかに認められる前提として,地位や職種が特定されて採用された事実や,当該地位や職種に要求される能力を主張立証する必要がありますので,できる限り労働契約書に明示しておくようにしておいて下さい。
 業務上のミスを繰り返して会社に損害を与えることを理由とした解雇が有効と判断されるようにするためには,何月何日にどのような業務ミスがあり,会社にどのような損害を与えたのかを,業務ミスがあった当時の証拠により説明できるようにしておく必要があります。抽象的に「業務上のミスを繰り返して会社に損害を与えた。」と言ってみてもあまり意味はありませんし,「彼(女)が業務上のミスを繰り返して会社に損害を与えたことは,周りの社員も,取引先もみんな知っている。」というだけでは足りません。会社関係者の陳述書や法廷での証言は,証拠価値があまり高くないため,紛争が表面化する前の書面等の客観的証拠がないと,何月何日にどのような業務ミスがあり,会社にどのような損害を与えたのかを主張立証するのには困難を伴うことが多くなります。


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勤務態度が悪い問題社員を解雇する際に考慮すべき点を教えて下さい。

2015-01-23 | 日記

勤務態度が悪い問題社員を解雇する際に考慮すべき点を教えて下さい。


 勤務態度の悪さの程度が甚だしく,十分に注意指導し,懲戒処分に処しても勤務態度の悪さが改まらず,改善の見込みが低い場合には,退職勧奨 と平行して普通解雇 懲戒解雇 を検討することになります。
 普通解雇や懲戒解雇が有効となるかどうかを判断するにあたっては,
 ① 就業規則の普通解雇事由,懲戒解雇事由に該当するか
 ② 解雇権濫用(労契法16条)や懲戒権濫用(労契法15条)に当たらないか
 ③ 解雇予告義務(労基法20条)を遵守しているか
 ④ 解雇 が法律上制限されている場合に該当しないか
等を検討する必要があります。
 普通解雇や懲戒解雇が有効となるためには,単に①就業規則の普通解雇事由や懲戒解雇事由に該当するだけでなく,②解雇権濫用や懲戒権濫用に当たらないことも必要となります。②解雇権濫用や懲戒権濫用に当たらないというためには,普通解雇や懲戒解雇に客観的に合理的な理由があり,社会通念上相当なものである必要があります。
 普通解雇や懲戒解雇に「客観的に」合理的な理由があるというためには,「裁判官」が,労働契約を終了させなければならないほど社員の勤務態度の悪さの程度が甚だしく,業務の遂行や企業秩序の維持に重大な支障が生じていると判断するに値する「証拠」が必要です。会社経営者,上司,同僚,部下,取引先などが,主観的に普通解雇や懲戒解雇に値すると考えただけでは足りません。
 勤務態度が悪い社員の普通解雇や懲戒解雇が②解雇権濫用や懲戒権濫用に当たらないかを判断するにあたっては,勤務態度の悪さが業務に与える悪影響の程度,態様,頻度,過失によるものか悪意・故意によるものか,勤務態度が悪い理由,謝罪・反省の有無,勤務態度の悪さを是正するために会社が講じていた措置の有無・内容,平素の勤務成績,他の社員に対する処分内容・過去の事例との均衡等が考慮されます。


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労働者代理人から,解雇の撤回は認めず,賃金請求権も失われないと主張された場合の法律関係は?

2015-01-23 | 日記

問題社員を解雇したところ,労働者側から不当解雇との主張がなされたので,解雇を撤回して就労を命じたところ,労働者代理人から,東京高裁平成21年11月16日決定(判タ1323号267頁)を引用の上,解雇の撤回は認められないと主張され,しかも,民法536条2項により賃金請求権も失われないから賃金を払え,とも言われています。この場合の法律関係をどのように考えればよろしいでしょうか?


 問題社員 解雇 したところ,労働者側から不当解雇との主張がなされたので,解雇を撤回して就労を命じた場合に,労働者代理人から,東京高裁平成21年11月16日決定(判タ1323号267頁)を引用の上,解雇の撤回は認められないと主張され,しかも,民法536条2項により賃金請求権も失われないから賃金を払え,といった請求がなされることがあります。
 使用者が職場復帰して仕事して下さいと言っているのに,解雇の撤回は認められないと主張して就労を拒絶した挙げ句,民法536条2項により賃金請求権も失われないなどと主張してくるのですから,開いた口がふさがらない話ですが,この場合の法律関係はどう考えればいいのでしょうか。
 まず,「解雇の撤回は認められない。」という主張は,労働者の職場復帰を要求すべき立場にある労働者代理人の主張すべきことではないと思いますが,純粋に理屈だけで考えれば,間違いとは言えません。
 解雇は使用者による一方的な意思表示ですから,解雇の意思表示が労働者に到達した時点で効力が発生しています。
 効力が既に発生している以上,一方的な「撤回」を行うことはできず,その法的効力を遡及的に失わせるためには労働者の同意が必要となるというのが,論理的帰結です。
 では,民法536条2項により賃金請求権が失われないという主張はどうでしょうか?
 解雇が無効と判断された場合に民法536条2項により賃金請求権が失われないのは,労働者の就労義務が使用者の就労拒絶によって履行不能となっているからです。
 使用者が,解雇は撤回して就労を命じた場合は,使用者による就労拒絶がなく,いわば労働者の都合で欠勤したのと同じ状況にありますから,民法536条2項の適用場面ではありません。
 したがって,使用者が就労を命じているにもかかわらず,労働者がこれを拒絶して就労しない場合には,特段の事情がない限り民法536条2項は適用されず,対応する期間に対する賃金請求権は発生しないことになります。

 

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