健康長寿の窓口 (タロー8の脳腫瘍闘病記改め)

2009年に乏突起神経膠腫の手術を受け15年が経過したことを機にブログをリニューアル、健康長寿の情報を発信していきます。

改造T細胞、注射一発で一生老けない?

2024-05-09 17:42:17 | 日記

改造T細胞

 一昨日(2024年5月7日)に放映された、あるバラエティー番組で、CAR-T細胞(改造T細胞)で不老不死という研究成果が紹介されました。健康長寿の窓口としては触れないわけには行きません。ということで、視聴しての感想です。

 番組内容をザックリまとめると、「老化細胞は身体を守る働きがある一方で、炎症を引き起こして老化を進めるので除去した方が良いという考え方があり、白血病や悪性リンパ腫(血液のがん)治療に使われているCAR-T細胞(キメラ抗原受容体遺伝子改変T細胞※)療法を応用した抗老化CAR-T細胞(番組では改造細胞と呼んでいた)を不老不死に使える可能性を示す論文がアメリカの研究機関から発表された。問題点は高額な費用(現在のCAR-T治療は約3,000万円)と副作用(サイトカインによる発熱、痛みなど)の2点」というものです。

※ キメラは、ギリシア神話に出てくるライオンの頭とヤギの胴体などを持つ生物「キマイラ」に由来します。

 確かに、Nature aging(世界的な科学雑誌表Natureの姉妹誌で老化をテーマにしたオンライン限定)で発表された「Prophylactic and long-lasting efficacy of senolytic CAR T cells against age-related  metabolic dysfunction」というタイトルの論文です。早速読んでみましたが、ナルホド、論文内容を短い時間で分かりやく説明したなぁと感心しました。

 一方で、免疫細胞(T細胞)の説明で、「あらゆる病原体に対応できる一千億ものT細胞が予め(適当に)作られていて、見たこともないどんなウイルスが入ってきてもやっつけてくれる」といった説明があり、MCが「ワクチンの仕組みですよね」といったやり取りがあり、エッ?それって自然免疫(NK細胞)と獲得免疫(T細胞)がゴッチャになってるやないか〜い!、とか、なんや高脂肪食マウス実験のことやないか~い!とツッコミたくなる場面がありましたが、間違ったことは言ってないものの(偉い先生の言うことだから当たり前か)、一般向けの分かりやすい表現とは言え、倫理的に問題があると思ったのは私だけでしょうか。

 釈然としないのは、CAR-Tの問題点としてまず費用を採り上げ、MCが、「副作用はどうでも良い」的な 発言をしたことです。

 CAR-T療法は、抗がん剤、放射線などの標準的な治療で効果がなかった場合や再発した場合などに限定されて使われます。患者さんの中には、最新の治療法を受けたいと思っても、重篤な副作用と高額な治療費を考えてCAR-Tを断念した方がいるかも知れません(副作用については朗報があり、後で書きます)。

クスリはリスク

 そもそもクスリは病気を治療するものです。”クスリはリスク”、大学の講義で最初に聞いた言葉です(最初ではないかも知れませんが、印象に残る私の薬学の原点です)。

 老化は病気ではありません。CAR-Tを抗老化に使うという発想は老化(老化細胞)が原因の病気を治療すると言うことから来ています。今回紹介されたNature Agingの論文も「ameliorate various age-related pathologies , including metabolic dysfunction and decreased physical fitness(代謝機能障害や体力の低下など、加齢に伴うさまざまな病状を改善する)」と言ってます。それなのに、しわ、たるみといった老化現象を病気のように治療できると勘違いしそうなことを煽るから、勘違いした人達がクスリを美容目的で使うことになるんだと思います。

 マスコミが煽って問題となった例として、元々糖尿病の治療薬として開発されたGLP-1受容体作動薬というものが美容目的の痩せ薬として処方されたことがあります。現在、GLP-1受容体作動薬は新しい肥満症の治療薬として承認されましたが、決して(美容目的の)痩せ薬ではなく、病気としての肥満症の治療薬としてです。問題は、低血糖や下痢、吐き気などの副作用、医療費の圧迫もありますが、本当に必要な患者さんにクスリを処方できない供給問題もあります。これは処方する医師の問題でありますが、受診する患者(患者ではない?)も、メディアでの記事を読んで「それ下さ~い」と言ったことも問題だと思っています。

 美容目的と言えば、ヒルドイドもそうです。こちらは一般用医薬品も多く出回るようになり(最近では目薬のリスク区分が1類から2類に下がりました)、処方箋なしで買えるので医療費圧迫には繋がりませんが、出血を伴っている場合は使えないので(添付文書にも記載されています。)、荒れて出血したようなキズがあると悪化するおそれがあるので注意が必要です。

副作用についての朗報

慶應義塾大学医学部が2024 年 4 月 26 日プレスリリースで、「CAR-T 療法の効果と安全性を同時に高める人工遺伝子を開発した」と発表しています。プレスの内容の詳細は論文「Development of a chimeric cytokine receptor that captures IL-6 and enhances the antitumor response of CAR-T cells」(Cell Reports Medicine DOI:10.1016/j.xcrm.2024.101526)に載っています。

 IL-6というサイトカインを吸収するCAR-T細胞なるものを作って安全性と長期間に効果があるという報告です(といってもマウス実験段階ですが)。つい先月末のプレスリリースなので、TV収録に間に合わなかったのでしょう。でも間に合っていたら、副作用問題は大丈夫、なんて発言していたかも。それはそれで問題。

 と長々と感想を書いてみたものの、みんな元気で長生きしたいもの。私は加齢による膝痛を早く治してフレイルにならないようにしたいです。安全に安価に使える治療薬が早く開発されることに期待しています(決して不老不死を願うものではありません)。