「離せ! 町の働き盛りが戦争に行っているからって、あんな無責任なやつにわし達の運命をまかせてたまるものか」
離せ、懲らしめてやる、と叫び暴れるじいさんを横目に、町長が手首を押さえながら立ち上がった。
「大丈夫ですか、ケントさん」と、鍛冶屋で見習いをしているバードが訊いた。
「ああ、ほんの打撲だよ。ちょっと手首が痺れたがね――」
こりゃ話になんねぇな、と誰かがつぶやいた。ぜいぜいと息を切らせたフランクじいさんは、両腕を取られながら連れて行かれた。
集まっていた男達もそれぞれに別れ、最後に残ったバードも、ちょこんとお辞儀をして走り去った。
「無責任なやつか」と、ケントは困ったようにつぶやくと、宿屋のドアを開けた。
その時、
「すみません」
と、か細い声が聞こえた。
なんだろうと振り返ると、みすぼらしい身なりの少年が立っていた。
「なにか用かね」と、ケントは眉をひそめながら訊いた。
「すみません。宿に、泊めてもらえないでしょうか」
「――なぜだね」
「……」
少年は、色のあせた帽子を取ると、胸の前でもどかしそうに握りながら、自信なさげに目をきょろきょろさせていた。
「きみのほかに、誰かいるのかね」と、ケントは言った。
「いいえ、ぼく一人だけです」
少年の声は弱々しく、最後の部分はよく聞こえなかった。帽子を持つ手はかすかに震え、怯えの色がありありと見えていた。
「泊めるわけにはいかん。うちは、まっとうな宿屋なんでね」と、ケントは首を振った。
「お金なら、持ってます――」
閉まりかかったドアを必死でつかみながら、少年は食い下がるように言った。
再びドアを開けたケントは、驚いたような目で見上げる少年を、力まかせに突き飛ばした。
ごろりと後ろへ仰向けに倒れた少年の姿を、ケントは勢いよく閉めたドアで断ち切り、終わりまで見届けることをしなかった。
開店前で、がらんとした食堂兼酒場のカウンターに腰をおろすと、ケントは思い出したようにまた立ち上がり、水を一杯ぐびりと飲み干した。
はぁ――と、ケントは満足のいった息をつくと、先ほど突き飛ばした少年のことが気にかかった。年の頃なら、娘と同じくらいか。と、そんなことを考えた。
離せ、懲らしめてやる、と叫び暴れるじいさんを横目に、町長が手首を押さえながら立ち上がった。
「大丈夫ですか、ケントさん」と、鍛冶屋で見習いをしているバードが訊いた。
「ああ、ほんの打撲だよ。ちょっと手首が痺れたがね――」
こりゃ話になんねぇな、と誰かがつぶやいた。ぜいぜいと息を切らせたフランクじいさんは、両腕を取られながら連れて行かれた。
集まっていた男達もそれぞれに別れ、最後に残ったバードも、ちょこんとお辞儀をして走り去った。
「無責任なやつか」と、ケントは困ったようにつぶやくと、宿屋のドアを開けた。
その時、
「すみません」
と、か細い声が聞こえた。
なんだろうと振り返ると、みすぼらしい身なりの少年が立っていた。
「なにか用かね」と、ケントは眉をひそめながら訊いた。
「すみません。宿に、泊めてもらえないでしょうか」
「――なぜだね」
「……」
少年は、色のあせた帽子を取ると、胸の前でもどかしそうに握りながら、自信なさげに目をきょろきょろさせていた。
「きみのほかに、誰かいるのかね」と、ケントは言った。
「いいえ、ぼく一人だけです」
少年の声は弱々しく、最後の部分はよく聞こえなかった。帽子を持つ手はかすかに震え、怯えの色がありありと見えていた。
「泊めるわけにはいかん。うちは、まっとうな宿屋なんでね」と、ケントは首を振った。
「お金なら、持ってます――」
閉まりかかったドアを必死でつかみながら、少年は食い下がるように言った。
再びドアを開けたケントは、驚いたような目で見上げる少年を、力まかせに突き飛ばした。
ごろりと後ろへ仰向けに倒れた少年の姿を、ケントは勢いよく閉めたドアで断ち切り、終わりまで見届けることをしなかった。
開店前で、がらんとした食堂兼酒場のカウンターに腰をおろすと、ケントは思い出したようにまた立ち上がり、水を一杯ぐびりと飲み干した。
はぁ――と、ケントは満足のいった息をつくと、先ほど突き飛ばした少年のことが気にかかった。年の頃なら、娘と同じくらいか。と、そんなことを考えた。