「グレイと言います。よろしくお願いします。昨日雇われました。がんばります。よろしくお願いします」
グレイはおずおずと、つっかかりながら、これだけをしゃべった。しんと耳をすませている雰囲気が、胸に重くのしかかるようだった。
「まあ座んなよ、グレイ」
オモラが太く断たれた薪を指し示した。グレイはぺこりと頭を下げて座ったが、バランスが悪くて転げ、もう一度座り直さなければならなかった。
「グレイ、これが山頭のカッカ。ここにいる中じゃ一番のベテランだよ。ちゃんということを聞いて、しっかり働きな。もしさぼったりしたら、カッカに生皮を剥がされちゃうかもしれないよ」――それじゃあね。
そう言ってポンと肩を叩くと、オモラはそそくさと小屋を出て行った。
しばらくは、誰も口をきこうとしなかった。グレイは、何度も唾を飲みこんだ。こわごわ顔をあげたが、射すくめられるような目と視線があうと、それっきり顔をあげられなくなった。
カッカが、ぽつりと口を開いた。
「おかみさんの考えどおり、今日は三つめの沢の上を見てこようと思う。いまかかっているところの木を倒したあとは、そっちへ移るつもりだ。町のやつらはうるさく言うだろうが、おれはもうあれ以上木を切りたくない。これ以上切れば、切った以上の時間をかけて、山を育てなければならない。ただ燃やすことしか知らない町の連中のいうことなど、聞く気もない。
それじゃ、班を分ける。ノーマン。ニック。……」カッカは、次々と名前を呼びあげ、それぞれの作業の班に振り分けていった。グレイの名前は、一番最後に呼ばれた。
「……最後、グレイ」
「はい」と、グレイは短く返事をした。
「おまえはおれと一緒だ。――さあ、みんな始めてくれ」
おいさ、というような掛け声とともに、男達はどやどやと外へ出て行った。狭い小屋だったが、カッカとグレイだけが残ったあとは、がらんとしてしまい、タバコ臭い静けさも、どこか寂しげに感じられた。
「おいちび、そんな靴じゃ仕事はできねぇぜ。そこにある靴に履き替えな。どれでもいい、足に合うのを探しな」
グレイは言われるまま、戸棚に置かれてある靴の中から、自分にあうやつを探した。硬い革で作られた無骨な靴は頑丈で、くるぶしの上までを保護するように作られていた。靴の入っていた同じ戸棚の奥には手袋があり、これもまた薄くはあったが、革製だった。
「おい、これもつけろ」と、カッカは立ちあがると、長いナイフをベルトごと差しだした。
「はい――」と、グレイは言うと、自分のズボンにベルトを通し、右手でナイフが使えるよう、左側に鞘を持ってきた。