その日の夕食は、どこか家庭的な温かさに満ちていた。燭台は少ない食物を豪華に飾り立て、暖炉の火は部屋いっぱいに影絵を演じた。先ほどまで身を固くしていた少年も、次第に心の窓を開き、わずかずつではあったが、口をきき始めた。見知らぬ土地を渡り歩き、物乞いをすることで生きながらえてきた孤独な日々を、オモラはじっと耳を澄まして聞いていた。やくざな生活には似合わず生真面目で、どこか隠れた一面を持つグレイという少年の本当の姿が、オモラにははっきりと感じられた。しかし、ただひとつだけ、グレイが決して口にしないことがあった。どうして、自分はこんな境遇に陥ったのか。それまではどこで、どんな生活をしていたのか――。口を閉ざして、答えようとはしなかった。ぐっと唇を噛み、言いたいことを我慢するため、力ずくでその声を押し戻しているようだった。
朝、グレイはいつものように目を覚ました。
さえずる小鳥の声が、騒がしく聞こえてきた。しかし、目を覚ましたそこには壁があり、屋根があり、暖かい毛布を敷いた床があった。もう忘れかけていた、心地よい、すっきりとした目覚めだった。
梯子段を下りていくと、テーブルの上に朝食が載せてあった。シャツのボタンをとめながら、台所をのぞいてみたが、オモラの姿は見えなかった。
グレイは席に着くと、がつがつとパンにかじりつき、少し生ぬるくなってしまったスープを飲んだ。皿に残ったスープをパン切れでぬぐい取っているとき、オモラが外から戻ってきた。
「グレイ、食事が済んだら、この裏の小屋まで来ておくれ」
それだけ言うと、オモラはすぐ外へ引き返していった。昨夜の柔和な雰囲気は消え、どこか男勝りな強さを漂わせていた。
予感めいた緊張を覚え、グレイの心臓はせわしく鼓動した。
裏に建っている小屋は、オモラの家と同じく平屋だった。大きさは半分ほどで、どこか物置のようにも見えた。窓はやはり小さなもの以外まったくなく、後から作り足したような煙突から、薄白い煙が風にたなびいていた。
重い扉を開けると、複数の人の目が一斉にこちらを向いた。
「これが新入りのグレイだ。よろしく頼んだよ」
扉の正面に座っているオモラが、グレイを指差しながら言った。しかし、言われた男達はなにも言わず、ただ、品定めするようにグレイを眺めていた。
「カッカ、山頭のあんたが口をきかなきゃ、中に入ってこられないじゃないか」
カッカと呼ばれた男は、睨むようにオモラを見ると、うつむきながら言った。
「――おかみさん、新入りから挨拶すんのが、礼儀ってもんですぜ」
オモラがグレイをちらっと見た。グレイは力なくうなずくと、いそいそと中へ入った。
扉を閉めると、部屋は夜に近いほど暗くなった。グレイは手探りするように歩くと、中央にでんと据えられたストーヴの横、低くしつらえられた戸棚の前に立った。
朝、グレイはいつものように目を覚ました。
さえずる小鳥の声が、騒がしく聞こえてきた。しかし、目を覚ましたそこには壁があり、屋根があり、暖かい毛布を敷いた床があった。もう忘れかけていた、心地よい、すっきりとした目覚めだった。
梯子段を下りていくと、テーブルの上に朝食が載せてあった。シャツのボタンをとめながら、台所をのぞいてみたが、オモラの姿は見えなかった。
グレイは席に着くと、がつがつとパンにかじりつき、少し生ぬるくなってしまったスープを飲んだ。皿に残ったスープをパン切れでぬぐい取っているとき、オモラが外から戻ってきた。
「グレイ、食事が済んだら、この裏の小屋まで来ておくれ」
それだけ言うと、オモラはすぐ外へ引き返していった。昨夜の柔和な雰囲気は消え、どこか男勝りな強さを漂わせていた。
予感めいた緊張を覚え、グレイの心臓はせわしく鼓動した。
裏に建っている小屋は、オモラの家と同じく平屋だった。大きさは半分ほどで、どこか物置のようにも見えた。窓はやはり小さなもの以外まったくなく、後から作り足したような煙突から、薄白い煙が風にたなびいていた。
重い扉を開けると、複数の人の目が一斉にこちらを向いた。
「これが新入りのグレイだ。よろしく頼んだよ」
扉の正面に座っているオモラが、グレイを指差しながら言った。しかし、言われた男達はなにも言わず、ただ、品定めするようにグレイを眺めていた。
「カッカ、山頭のあんたが口をきかなきゃ、中に入ってこられないじゃないか」
カッカと呼ばれた男は、睨むようにオモラを見ると、うつむきながら言った。
「――おかみさん、新入りから挨拶すんのが、礼儀ってもんですぜ」
オモラがグレイをちらっと見た。グレイは力なくうなずくと、いそいそと中へ入った。
扉を閉めると、部屋は夜に近いほど暗くなった。グレイは手探りするように歩くと、中央にでんと据えられたストーヴの横、低くしつらえられた戸棚の前に立った。