――ダン、ダン、ダン。
と、表のドアを叩く音が聞こえた。とっさに、ケントの顔が曇った。ついつい、
「またあのガキか」
という怒りが、口をついて出た。
「なんの用だ!」
ケントが大声とともにドアを開け放つと、そこには浮浪児の少年ではなく、学校から帰ってきた娘のアリエナが立っていた。
「――どうしたっていうの」
わけがわからないといったアリエナは、抗議の色をありありと目に浮かべていた。通りを行き来している人々も、何事かという面持ちでこちらをうかがっていた。
「ああ、おまえか」と、言いよどむ父親の横を、アリエナはするりと抜けて中へ入った。
「なんなのよ。こんなのはじめてだわ。ドアに鍵がかかっていたから、ノックをしただけなのに」
ごめん、と謝る間もなく、娘は自室へ駆けこんだ。いまさら遅いとは思いつつも、ケントはアリエナの部屋の前に立ち、軽くドアをノックすると、中の様子をうかがいながら、たどたどしい口調でわけを話した。
静まり返ったままで、なんの返事もないのにあきらめ、ケントが部屋に戻ろうとすると、ゆっくりとドアが開いて、アリエナが出てきた。
「許してあげるわ、お父さん」と、言いながら、アリエナは勢いよく父親に抱きついた。そっと頬にキスをすると、飛び降りて走り出した。
「おい、どこへ行くんだ」
「ダイアナの所よ。夕飯には帰ってくるわ――」
気をつけるんだぞ、と言ったケントの声が聞こえていたかどうか、アリエナは駆け足のまま、大急ぎで外へ出て行った。
ダイアナの家は、町で鍛冶屋を営んでいた。アリエナの家ほど裕福ではなかったが、数少ない町の鍛冶屋の中でも、特に腕がいいというので、ひっきりなしに仕事が舞いこんできた。父親も面倒見がよく、誰からも好かれていた。同じ学校に通っているアリエナも、その血筋を受け継いだようなダイアナと気が合い、よく二人で遊んでいた。
「ねぇアリエナ、あの話聞いた?」と、ダイアナが言った。