2 山
鬱蒼とした白樺の林だった。山の涼風に吹かれ、たくさんの梢がさらさらとそよいでいた。まだ細い、高さもそれほどない木ばかりだった。力のある男なら、斧で簡単に切り倒せそうなものばかりだった。
二人を乗せた馬車は、この林に来る途中、少しばかり広くなった道の最後で、引き返していった。その先は、人が一人楽に通れるほどの幅しかない、ただ、草を刈っただけの道しかなかった。
道は、かなり奥まで延びていた。山の麓にあるせいか、ゆったりとした傾斜がついていた。慣れているオモラでさえ、うっすらと額に汗を浮かべていた。
オモラの家は、白樺の林の中、突然のように光りがまぶしく射しこんでくる、大きく開けた場所にあった。レンガではなく、寄せ集めてきたような木で作られた、平屋だった。この家が建てられる以前は、それこそ立派な建物があったらしく、石造りの門柱、そして頑丈な土台が、草やコケに覆われながら残っていた。
「さあ、お入りよ」
オモラは軋むドアを開け、中に入った。薄暗い部屋は、木のいぶったような匂いがしていた。
少年は戸口のところで戸惑っているようだったが、ゆっくりと、恐る恐る様子をうかがうように入ってきた。オモラは少年を目の隅でとらえながら、そそくさとローソクに火を灯した。
「そこいらの椅子で休んどいとくれ」言いながら、窓を開けた。「山ん中は暗くてね。昼間でも明かりが必要なのさ
あんた。グレイ、とか言ってたね。馬車の中では口ごもってたけど、どっから来たんだい――」
グレイという名の少年は、黙ってうつむいたままだった。
「――なら、歳は?」
十、三です。と、話したくないことを、無理矢理言わされたように言った。
「へぇー、いいこと教えてもらったね。あんた身なりだけでなく、頭も弱ってると思ってたけど、言ってる意味はちゃんとわかってるんだね」
よしよし、とうなずいて、オモラは話を続けた。「あいにくこの家は見たとおりのぼろ屋で、ろくに部屋もないから、あんたは屋根裏を使っておくれ。
けどね、ただで泊めてやるとは、あたしは約束しちゃいない。明日から、ちゃんと働いて、その稼ぎで宿代は払ってもらうよ。
それで、いいだろうね」
少年はあの戸惑ったような仕草を見せたが、こくんとうなずいた。そして、
「ありがとうございます」
今にも泣き出しそうな顔で言った。
「お礼なんかいらないさ。あたしもちょうど、この腕の代わりが欲しくてね。歳のわりにはちびっこいあんたが、ちょうどいいのさ」
グレイは目を赤くしながら、鼻を幾度もすすった。オモラはなにも言わず抱き寄せて、優しく頭をなでてやった。
鬱蒼とした白樺の林だった。山の涼風に吹かれ、たくさんの梢がさらさらとそよいでいた。まだ細い、高さもそれほどない木ばかりだった。力のある男なら、斧で簡単に切り倒せそうなものばかりだった。
二人を乗せた馬車は、この林に来る途中、少しばかり広くなった道の最後で、引き返していった。その先は、人が一人楽に通れるほどの幅しかない、ただ、草を刈っただけの道しかなかった。
道は、かなり奥まで延びていた。山の麓にあるせいか、ゆったりとした傾斜がついていた。慣れているオモラでさえ、うっすらと額に汗を浮かべていた。
オモラの家は、白樺の林の中、突然のように光りがまぶしく射しこんでくる、大きく開けた場所にあった。レンガではなく、寄せ集めてきたような木で作られた、平屋だった。この家が建てられる以前は、それこそ立派な建物があったらしく、石造りの門柱、そして頑丈な土台が、草やコケに覆われながら残っていた。
「さあ、お入りよ」
オモラは軋むドアを開け、中に入った。薄暗い部屋は、木のいぶったような匂いがしていた。
少年は戸口のところで戸惑っているようだったが、ゆっくりと、恐る恐る様子をうかがうように入ってきた。オモラは少年を目の隅でとらえながら、そそくさとローソクに火を灯した。
「そこいらの椅子で休んどいとくれ」言いながら、窓を開けた。「山ん中は暗くてね。昼間でも明かりが必要なのさ
あんた。グレイ、とか言ってたね。馬車の中では口ごもってたけど、どっから来たんだい――」
グレイという名の少年は、黙ってうつむいたままだった。
「――なら、歳は?」
十、三です。と、話したくないことを、無理矢理言わされたように言った。
「へぇー、いいこと教えてもらったね。あんた身なりだけでなく、頭も弱ってると思ってたけど、言ってる意味はちゃんとわかってるんだね」
よしよし、とうなずいて、オモラは話を続けた。「あいにくこの家は見たとおりのぼろ屋で、ろくに部屋もないから、あんたは屋根裏を使っておくれ。
けどね、ただで泊めてやるとは、あたしは約束しちゃいない。明日から、ちゃんと働いて、その稼ぎで宿代は払ってもらうよ。
それで、いいだろうね」
少年はあの戸惑ったような仕草を見せたが、こくんとうなずいた。そして、
「ありがとうございます」
今にも泣き出しそうな顔で言った。
「お礼なんかいらないさ。あたしもちょうど、この腕の代わりが欲しくてね。歳のわりにはちびっこいあんたが、ちょうどいいのさ」
グレイは目を赤くしながら、鼻を幾度もすすった。オモラはなにも言わず抱き寄せて、優しく頭をなでてやった。