くりぃーむソ~ダ

気まぐれな日記だよ。

夢の彼方に(51)

2016-04-08 06:20:22 | 「夢の彼方に」
 サトルが登ってきた山道は、一番下のブロックにぶつかると、そこでプッツリと途切れてしまった。辺りを探しても、山頂に向かう別の道は、どこにも見あたらなかった。
「ここから、どうやって進めばいいんだろう……」
 サトルが困ったように言うと、空高く飛んでいたトッピーが、サトルの目の前に降りてきて言った。
「ホントにこの山なのか? 上から見ても、どこにも道なんかありゃしないぞ。あるのは、このおかしなブロックだけだ――」
 サトルは力なくうなずくと、黙ったまま、立ちふさがるブロックに近づいた。
「それじゃ、もうひとっ飛び調べてくるか――」トッピーは言うと、水の中で小刻みにヒレを動かしながら、金魚鉢ごと山の頂上に向かって飛んでいった。
 透明なブロックは、大きさの違いこそあれ、川に流れていた氷のような粒にそっくりだった。表面に映し出されている景色は、顔を近づけてよく見ると、ブロックの中にすっぽりと閉じこめられた景色が、透明な壁を透して、見えているのだった。
「あっ」と、サトルはブロックに触れていた手をあわてて引っこめた。
 ほんのわずかしか力を加えていないにもかかわらず、大きなブロックが軽々と、滑るように動いたような気がしたからだった。
「そうか――」
 サトルは思いつくと、目の前のブロックをポンと両手で押した。
 ブロックは、思ったとおりにスッと軽く動いたが、予想していた以上に大きく動き、ストンとブロックひとつ分だけ、奥に入りこんでしまった。すると、上に載っていたブロックが、周りのブロックを巻きこみながら、ズドンと雪崩を起こすように落ちてきた。もしもすぐに離れていなければ、危うく崩れ落ちてきたブロックの下敷きになっていたかもしれなかった。
「どうした!」と、トッピーが叫びながら、血相を変えて矢のように空から降りてきた。
「わかったよ、トッピー」と、サトルがうれしそうに言った。「トミヨが言っていた意味が、なんとなくだけど、わかったような気がするんだ――」
”――ただ気をつけなきゃならないのは、上の物は上向きに、下の物は下向きに、重い物は下、軽い物は上だよ”
 と、サトルは不思議そうな顔をしているトッピーを見ながら、トミヨが別れ際に言っていた言葉を繰り返し思い出していた。
 サトルとトッピーは、ブロックが自然に崩れて、登れるようになった場所を探すことにした。山の裾に沿って歩いていくと、隣り合ったブロックよりも低く落ちこんで、サトルが手を伸ばせば登れそうなブロックが、階段のように積み上がっている場所があった。
「あそこなら、登れるかもしれないよ」と、サトルがブロックに駆け寄った。
「大丈夫なのか……」と、トッピーが心配そうに言った。「下からじゃ見えないかもしれないけど、少し登ったところから、また崩れていないブロックが、しっかり積み上がってるぞ――」
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夢の彼方に(50)

2016-04-08 06:19:13 | 「夢の彼方に」
 サトルとトッピーは、物語をかなえる本をじっと見据えたまま、固まったようにしばらく動かなかった。川を流れる水音と、風に揺れる梢の音だけが、しんとした空気の中に止むことなく聞こえていた。
 二人とも無言のまま、いつまで待っても、はっきりと目に見える変化は起こらなかった。
「うまく、いったんだよな――」と、トッピーが確認するように言った。
 本を見たまま、こくりとうなずいたサトルは、ごくりと喉を鳴らしてつばを飲みこむと、立ち上がってぴょん、とその場に飛び跳ねた。
 トッピーが、地面にストンと降りたサトルを見て、ため息混じりに言った。
「やっぱり、ダメだったか――」
 サトルはあきらめきれず、何度も高く飛び跳ねたが、息を切らせて、立ったまま膝に手をついた。と、顔を上げたサトルが指を差して、急に大きな声を上げた。
「トッピー!」
「なんだ? どうした?」と、トッピーがあわてたように言いながら、金魚鉢の中を暴れるように泳ぎ回った。
「トッピー――」と、サトルがつぶやくように言った。「飛んでるよ……」
「は?」と、目線の高さがサトルと同じなのに気づいたトッピーが、水の中に浮かびながら、金魚鉢の底を探るようにうかがった。
「ほんとだ――」と、金魚鉢ごと宙に浮かんだトッピーが、サトルを見ながら、信じられないというように言った。
 夜が明けると、空を飛べるようになったトッピーは、上り坂で悪戦苦闘しているサトルを軽々と追い越して、一人でどんどん先に進んでいった。
「待ってよ、トッピー……」と、立ち止まったサトルが、ぜえぜえと息を切らせながら言った。「そんなに早く……登れないよ……」
「なんだ、もう休憩か? 積木の山はもう目の前なんだぜ」と、空に浮かんだトッピーが、困ったように言った。「ほら、弱気なことばかり言ってないで、元気出せよ」
「こんな事になるんだったら、空なんて飛ぼうとしなけりゃ良かったよ――」と、サトルがぼそりとつぶやいた。
「ん、なんか言ったか?」トッピーが、サトルの回りをぐるぐると8の字に飛びながら、怒ったように言った。
「ううん。なんでもないよ、なんでもない……」と、サトルはあわてて首を振った。
 とうとうと流れていた川は、山に近づくにつれて川幅が次第に狭くなり、流れも急になってきた。川面には、いまだ途切れることなく、四角い氷のような粒がたくさん浮かんでいた。大きな岩が目立つようになり、川に沿って歩き続けるのが難しくなると、サトルはやむを得ず、川のそばを離れることにした。トッピーが、林の中を飛んで川と平行に延びる山道を見つけると、サトルはトッピーが見つけた細い山道を、川の上流に向かって進んでいった。
 山道の先が急に開けると、目の前に積木の山が現れた。積木の山は、一見するとまるでピラミッドのようだった。四角く切りそろえられたような透明なブロックが、見上げるほど高く積み上げられていた。サトルの背の二倍は優にある透明なブロックは、それぞれの面に風景を切り取ったような画像を映し出していた。わずかなすき間もなく、びっしりと並んだブロックは、一段二段と重なり合って、山頂まで続くひとつの大きな斜面となっていた。映し出された風景が、一枚の画像のように繋がって、緑の木々が生い茂る豊かな山の姿を描き出していた。ブロックに映った木々は風を受け、地面から生えた木と同じようにゆらゆらと枝を揺らしていた。気が遠くなるほど多くのブロックが、山頂までびっしりと積み上げられていた。自然が作り出したものとは、にわかには信じられなかった。
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夢の彼方に(49)

2016-04-08 06:18:16 | 「夢の彼方に」
 はじめから、うまく火をつけられたわけではなかった。砂漠を歩き続けた最初の夜は、拾った石を打ち合わせて、たきぎに火をつけようとした。集めてきた枯れ草を下に敷いて、なんとか火の粉を飛び移らせようと、何度も石を打ち合わせたが、すっかり日が暮れても、一向に火がつく気配はなかった。見かねたトッピーが、物語をかなえる本を使ってみれば、と歯を食いしばってがんばるサトルに言った。
 サトルは、目から鱗が落ちたように手を止めると、物語をかなえる本を取り出して、火をつけてみることにした。簡単に思えたが、なかなかうまくいかなかった。一度はたきぎが一瞬で燃え尽きてしまい、すぐに辺りが暗くなってしまった。残り少なくなったたきぎを組み直すと、今度はたきぎに火をつけることはできたが、赤々と燃える炎の映像を、空間に浮かび上がらせていただけだった。結局その夜は、ほとんど深夜になるまで時間をかけて、やっと暖かな火をたくことができた。
 ランドセルに物語をかなえる本をしまうと、サトルはトミヨとおそろいのサボテンの帽子を脱いで、パチパチとはぜる火のそばに腰を下ろした。トミヨからもらったパンは、砂漠の町を出た日にすっかり平らげてしまった。その後、空腹を癒してくれたのは、風博士がランドセルの中にそっと入れておいてくれた干しイモだった。軽く火にあぶって焦げ目をつけると、ホクホクしているうちにかじりついた。満腹とはいかなかったが、お腹を十分に満たすことができた。同じ食事ばかりが続いて、トッピーはぶつくさと文句を言ったが、小さくちぎって金魚鉢の水に浮かべた干しイモは、いつもきれいになくなっていた。
「そうだ、トッピー」と、サトルが思い出したように言った。「物語をかなえる本で、また飛行船を出してみようか。そうすれば山なんて、あっという間に越えられちゃうよ」
「そう言えば、そんな手もあったな……」と、トッピーは一瞬考えるようにヒレを頬に当てたが、すぐに目が覚めたように言った。「ダメダメ、もう二度とあんな物になるのはゴメンだね。それにいくら山を越えるためだからって、もしも魔法をかけるのに失敗したら、どうなっちまうんだよ。また世界の果てまで飛んでいったら、今度こそ戻ってこられなくなっちゃうぜ」
 サトルは、ふくれたようにしかめっ面をしたが、すぐにうれしそうに言った。
「じゃあ、こういうのはどう?」と、両手を肘を折るように横に持ち上げて、小さく羽ばたく真似をした。「二人とも、空が飛べるようにすればいいんじゃない」
 トッピーは首をかしげながら、不安そうに言った。
「……空が飛べるようにするだけなら、世界の果てまで飛んでいくことはないかもな――だけど空なんて飛んだこともないくせに、うまくいくのかなぁ……」
「大丈夫。失敗なんてしないさ――」と、サトルは自信ありげに言いながら、物語をかなえる本を取り出した。
「本当に心配ないんだろうな……」と、トッピーが念を押すように言った。
 サトルは緊張した面持ちで本を手に持つと、目を伏せて深く息をついた。暗唱するように何度も小さく口を動かすと、顔を上げて大きな声で言った。
「トッピーとサトルは、翼を持った鳥のように、自由に空を飛ぶことができるようになる」
 と、物語をかなえる本が、まぶしく光り始めた。
「ほら、うまくいったじゃないか……」と、サトルがトッピーを見ながら言った。
 まぶしく迸り出ていた金色の光が、次第に勢いを失い、ゆらゆらと細い線のようになると、本の中に吸いこまれるようにプッツリと消え去った。まぶしい光りが消えてしまうと、夕焼け色に燃えるたきぎの火だけが、柔らかく辺りを照らしていた。
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夢の彼方に(48)

2016-04-08 06:17:09 | 「夢の彼方に」
         8
 トミヨからもらった地図に従って、サトルは黄色いカレー粉の砂漠を抜けると、宝石をちりばめたように光り輝く大きな川に出た。
 砂漠の乾きが信じられないほど、とうとうと豊かに水をたたえた川は、じっと見ていると目が痛くなるほど、砂漠に照りつける強い日差しを、キラキラと反射させていた。瞬く光は、火傷しそうなほど熱い火花を、四方に飛び散らしているようだった。川床の石に弾んだ流れが、ピシャリと跳ねあがり、小さな白波のしぶきを涼しげに上げていた。
 サトルは地図に従って、さらに上流へと、ひたすら川に沿って歩き続けた。
「なんだあれ、波が光ってるわけじゃないぞ――」と、トッピーが金魚鉢から顔を出して、サトルに言った。
「えっ?」と、サトルは目を細めながら、まぶしく光る川を見た。よく見ると、四角い氷のような粒が、ぷかぷかと川面を埋め尽くすほど浮かんでいた。さわさわと、小さな波に浮き沈みする立方体は、上流から途切れることなく流れ続け、波に乗って互いにぶつかり合いながら、まぶしい光を反射させて踊るように下流へ流れていった。
「おい、なにすんだよ」と、トッピーが怒ったように言った。
 サトルは、脇に抱えていた金魚鉢を足下に置くと、急ぎ足で川に近づいた。靴の中に水が入らないよう、そっと川の縁に足を踏み出すと、手を伸ばして近くに流れてきた立方体を拾った。
「トッピー、こんなの見た事ある?」と、サトルは透きとおった立方体を指でつまむと、金魚鉢の方に腕を伸ばした。
「――生きてる、のか……」と、トッピーは出目金のように目を見開いたまま、ぷくりと泡をひとつ、言葉を失った。
 サトルが拾った立方体は、軽いガラスのようだった。透き通っているせいで、一見すると型に入れて作った氷のようだったが、けして冷たくはなく、手で持っていても溶けることはなかった。不思議なのは、その中身だった。緑とも青ともつかない、淡い色の煙を閉じこめたようだった。見ていると、ゆらりゆらりと流れるように形を変える煙は、トッピーが目を丸くしたとおり、まるで生きているかのようだった。
「どこから流れてきたんだろう……」と、サトルは首をかしげた。
 行く先には、緑に溢れる山々が連なっていた。積木の山までは、あともう少しだった。後ろを振り返ると、黄色い砂漠が、自分でも驚くほど遠くに見えていた。ゴツゴツと聳えていた岩山の頂上が、しっかりと見下ろせた。
「ずいぶん歩いてきたんだなぁ」と、トッピーがしみじみと言った。
「ちぇ、歩いてきたのは、ぼくじゃないか」と、サトルは額の汗を拭きながら、不機嫌そうに言った。
 日が暮れると、サトルは川のそばの高台で休むことにした。目の前の林でたきぎを拾ってくると、サトルはランドセルから物語をかなえる本を取り出して、火をつけた。手にした本が、金色の光をまぶしく迸らせると、互い違いに組んだ細いたきぎが、金粉を振りかけたようにチラチラと輝き、赤々とした炎が、一気に燃え上がった。
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よもよも

2016-04-07 06:23:17 | Weblog
なんとも、

この前航空会社がシステムのトラブルで

大混乱したけど、

人ごとじゃなく、

仕事で使ってるシステムがどうも調子が悪くって

小難しい伝票に限って自動作成されなくなっちゃった・・・。

もう一回打ち直したらって午後から二時間半かけて打ちこんだんだけど

砂時計マークのロード状態が延々続くだけ。。

こう言っちゃなんだけどさ、

オリジナルのシステム使うのもいいんだけど

ちゃんとお金かけてさ、

ワードだとかエクセルとかまで完成されたモン作ってくれよな。。

じゃないと手間と時間がかかるだけで

不要な仕事が増えるだけなんだよね。。

トホホ・・・。
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夢の彼方に(47)

2016-04-06 22:31:48 | 「夢の彼方に」
「そりゃ大変だったな」と、父親は言った。「希望の町って言えば、ねむり王様の城のそばじゃないか。若い頃に一度行ったきりだが、今度はトミヨ達も連れて、一緒に行ってみたいもんだなぁ」
 サトルは、おいしい食事を腹一杯ご馳走になると、その夜はトミヨの部屋に泊めてもらった。
 二人とも、ベッドに潜るなり、すぐにぐっすりと深い眠りについてしまった。
 ………
「サトル、起きて、サトル……」
 うっすらと目を開いたサトルは、体を揺すられながら、寝ぼけ眼のまま言った。
「うるさいなぁ……いま何時」サトルは言うと、ハッとして上体を起こした。
「ごめん、トミヨ」と、サトルは言った。「母さんが起こしに来たと思ったんだ……」
 まだ、外は朝日が昇ったばかりで、薄暗かった。けれどサトルを起こしたトミヨは、もうちゃんと服に着替えていた。
「おはよう、サトル」と、トミヨはあわてたように言った。「早く起きてよ、牛の世話をしていたら、空からこっちに向かって何か飛んできたんだ――」
「えっ」と、サトルは言うと、いそいでベッドから飛び起きた。きちんとたたんで脱いだ服に着替えると、トミヨと一緒に家の外に出た。
「ほら、こっちに向かって飛んでくる――」
 トミヨが指さす方を見ると、大きな赤い風船が、ゆったりと上下しながらこちらに飛んで来るのが見えた。風船は、近づきながら、次第に高度を下げていった。見ると、風船の先には、サトルのランドセルと、トッピーが泳ぐ金魚鉢が結わえられていた。低い所を吹く横風を受け、フラフラとトミヨの家を過ぎていった風船を、二人は懸命に追いかけた。
 トミヨが、地面に落ちそうになった風船を、右手をうんと伸ばして捕まえた。
「ありがとう、トミヨ――」と、サトルは息を切らせながらお礼を言った。
 トミヨは、風船に結わえてあった荷物を降ろすと、サトルに手渡した。
 トッピーが、金魚鉢の縁に飛びあがって言った。
「サトル、大丈夫か? 心配したんだぞ」
「ごめんよ、トッピー」と、サトルは言った。
 トミヨは、言葉を話す金魚を見て、目を丸くしていた。
 トッピーが、風博士からの伝言を伝えてくれた。博士によると、青騎士は、サトルを追いかけて、砂漠の町に向かっているという。一刻も早く町を離れて、積木の山のふもとにある町へ向かえ、とのことだった。
 サトルは、積木の山がどこにあるのか、トミヨに聞いた。トミヨは、
「あそこに行くの?」
 と驚きながらも、詳しい行き方を教えてくれた。
「――ただ気をつけなきゃならないのは、上の物は上向きに、下の物は下向きに、重い物は下、軽い物は上だよ」
「ありがとう、トミヨ」と、サトルは言った。「もう、行かなきゃ――」
「もう、行っちゃうの――」と、トミヨが言った。「朝ぐらい、一緒に食べてから行けばいいのに」
「うん。でも、一刻も早く町を出なきゃ、みんなに迷惑がかかるから……」と、サトルがさびしそうに言った。
「楽しかったよ」と、トミヨは名残惜しそうに言った。「いつでもいいから、また、遊びにおいでよ。待ってる」
 サトルは、「うん」と大きくうなずいた。
「ちょっと待って……」と、トミヨは背を向けて歩きはじめたサトルに言った。「ちょっと待って、サトル」
 トミヨは玄関のドアを開けっ放しで家に戻ると、手に何かを持って戻ってきた。
「これ、持って行きなよ」
 トミヨが差し出したのは、布に包まれたパンと水筒。おそろいのサボテンの帽子と、小さなナイフ、それと、丸められた絵だった。
「これは、ぼく達の地図さ」と、トミヨは言った。「ぼく達がいる町は、この辺だよ。昨日行った人形サボテンの森がこの丸印で、緑色をした三角模様が、積木の山さ。地図を見ても、ここをまっすぐに行くだけだって、わかるだろ」
「ありがとう」と、サトルは言って、トミヨと握手をした。
「あと――」と、トミヨは言った。「この風船、もらっていいかな。コリナが起きたら、きっと喜ぶと思うんだ」
 サトルは、「いいよ」と笑顔を見せると、トミヨに手を振って、歩きはじめた。
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夢の彼方に(46)

2016-04-06 22:30:54 | 「夢の彼方に」
「ぼくって、そんなに変かな……」と、サトルはトミヨに聞いた。
「いいや、そんなことないよ」
 と、二人は笑った。
 夜は扉が閉まるという門をくぐると、コリナが人形サボテンを模した像の陰に隠れていた。
「コリナ! 一緒に帰ろう」と、トミヨが言うと、ひょっこりと像の陰から姿を出したコリナが、ぐるりと大回りをしながら駆け寄ってきた。
 砂漠の町に入ると、それまで鳴らなかったラジオが、雑音混じりながら、また聞こえ始めた。
「それ、なに――」と、トミヨは興味ありげにラジオを覗きこんだ。トミヨは、ラジオを見るのが初めてだった。
 サトルは、ラジオのことをうまく説明することができなかった。しかしトミヨは、不思議な機械のことを熱心に話すサトルを見て、サトルが本当に別の世界からやって来たのかもしれない、と今度は真剣に話を聞いてくれた。
 と、雑音混じりだった曲が途切れ、サトルの名前が呼ばれた。
「元気か、サトル――。
 風博士から、新しいメッセージが届いたぜ。
『君がいる場所は、届いた風の便りを読んで確認した。さっそく、風船郵便で君あてに荷物を届けることにする。君が持ってきたバッグと、本、それにトッピー君もだ。私も飛んでいきたいところだが、ねむり王様の捜索に力を貸してくれるよう、お城から緊急の便りが届いた。迎えに行く事はできなくなってしまったが、荷物はエクスプレス風に乗って、明日にも君の手元に届くはずだ。詳しいことは、トッピー君に伝えておいた。気をつけて、無事を祈っている』
 さあ、風博士からのメッセージだ。しっかり受け止めてくれよ――」
 メッセージが読まれると、早いリズムの曲が流れたが、すぐに音が小さくなって、雑音にかき消されてしまった。聞こえはじめた放送が、またうそのように聞こえなくなった。
 サトルは風博士が送ったという荷物が届くまで、トミヨにお願いして、砂漠の町にいることにした。
 トミヨの家は、にぎやかな町の中心部から離れ、砂漠と同じ、何もない平地を進んだ所にあった。レンガを積んだ平屋の家で、小さな窓から暖かな明かりが漏れていた。屋根から空に延びる煙突からは、ゆるゆると細い煙が上がっていた。もしも石積みの壁が遠くに見えなければ、ここが町の中だとは思えないほど広々としていた。家の隣には、延々と続く木の柵で囲いが作られていた。
 たくさんの牛達をすべて囲いの中に入れると、三人は家の中に入った。家の中では、トミヨの母親が、アツアツのご馳走を作って待っていた。
「ただいま」と、コリナが母親に抱きついた。
「お帰りなさい――」と、母親は笑顔で言った。「あら、お友達」
 トミヨは、人形サボテンの森でサトルに出会ったことを話した。母親は、食事の支度をしながら、トミヨの話に熱心に耳を傾けていた。すぐにトミヨの父親も仕事から戻り、サトルが挨拶をすると、トミヨが母親に聞かせたのと同じように父親にもサトルのことを話した。
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夢の彼方に(45)

2016-04-06 22:29:59 | 「夢の彼方に」
「ごめんね」と、サトルは言いながら、申し訳なさそうに頭をかいた。「ここって、どこなの……」
 サトルは、砂漠で迷子になってしまったことを、戸惑っているトミヨに短く説明した。
「危なかったね」と、トミヨは言った。「この辺は食べ物が少ないから、弱々しい生き物でも、食べられそうな物を見ると、とたんに目の色を変えて襲ってくるんだ。人形サボテンの森に逃げこまなかったら、本当に食べられていたかもしれないよ」
 サトルは聞くと、ぞくっと肩をすくめた。
「”人形サボテン”って、ここのサボテンの名前?」
「ああ」と、トミヨはうなずいた。「よその町から来たんなら、知らないかもしれないね。このサボテンは、形も人間そっくりだけど、とっても頭がいいんだ。きっと、サトルがやってきた時、放牧にやってきた人間だと思ったんだね。それで守ってくれたのさ。もしも危害を加えるような動物が近づいてきたら、サボテンはトゲで撃退しちゃうんだもの」
「けど、牛に食べられても、サボテンはトゲを刺さなかったね」と、サトルは聞いた。
 トミヨは、急にきょとんとした表情を浮かべたが、すぐに思いついたように言った。
「ああ、牛は、人形サボテンをエサにしてるからね。その代わりに牛は、サボテンに必要な物を残していくんだ」
「必要な物って?」と、サトルは不思議に思って聞いた。
「サボテンを食べるかわりに、牛はたくさんのフンを落としていくんだ」と、トミヨは言うと、そばにいた牛を指さした。
「砂漠は土が少ないから、サボテンは食べられるかわりに、牛から養分をもらっているんだよ」
 サトルは、トミヨの水筒から水を分けてもらってノドを潤すと、自分がドリーブランドにいる訳や、青騎士に追いかけられていることを詳しく話した。しかしトミヨは、真剣な話を聞いても、面白がってクスクス笑うばかりで、サトルの話をまるで信じていないようだった。
「迷子になったんなら、しょうがないさ」と、すっかり仲良くなったトミヨは、笑いながら言った。「迎えに来てくれるまで、家においでよ。この辺で町はひとつしかないから、サトルを捜している人だって、きっと町を訪ねてくるはずだよ」
 トミヨの後について、カレー粉の砂漠を進むと、ぐるりを石積みの壁で囲まれた町が、広い砂漠の平地に現れた。すでに日は暮れはじめ、日中の暑さがウソのように気温が下がっていた。
「ほら、見えた」と、トミヨは手に持っていた杖で町を指した。「あれが、ぼくの町さ」
 牛を追いながら町に近づくと、トミヨと同じサボテンの帽子を被った女の子が、門の扉を抜けてこちらに駆けてきた。
「お兄ちゃん、おかえりなさい!」と、女の子は言うと、見知らぬサトルに目を止め、不安そうな表情を浮かべて、ピタリと立ち止まった。
「ただいま、コリナ」と、トミヨは言った。
 女の子は指をくわえながら、こくんとうなずいた。しかし、それ以上トミヨに近づこうとはせず、くるりと踵をかえすと、走って町に戻って行ってしまった。
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夢の彼方に(44)

2016-04-06 22:28:57 | 「夢の彼方に」
 空から様子を見守っていたワシの群れは、サトルがサボテンの森に向かった時から、襲ってくる様子もなく、トカゲの群れが帰って行くのを確認すると、空の向こうへ飛び去って行った。
 岩山の影から逃げ出して、どのくらいたったのか。雲ひとつない空から降り注いでいる暑い日差しが、少し傾き始めていた。
 サトルは、地面から顔を出した平らな岩の上に腰を下ろした。風の流れが悪いのか、ラジオからは雑音ばかりが聞こえてきた。強い日差しは弱まったものの、葉の茂らないサボテンの森は、人の姿に似た細い影が、幾筋も地面に延びるばかりで、体を休められるほどの広い木陰は、どこにもなかった。サトルはやむを得ず、日が落ちて涼しくなるまで、サボテンの細い影の下で窮屈なのを我慢しながら、体を小さくして隠れていることにした。
 そこへ、ドドド……と、地響きのような音が聞こえてきた。テロリンテロリン、という鈴の音が、時おり地響きの音に重なって聞こえてきた。また、新しい追っ手なのだろうか――。サトルは立ち上がると、サボテンの陰に身を潜めながら、恐る恐る様子をうかがった。
 近づいてきたのは、たくさんの黒い牛の群れだった。大きな牛の頭には、螺旋を描く二本の鋭い角が、左右から天を突くように生えていた。ガッチリと太い体躯は、ぼろぼろになった黒い毛布を、何枚も肩から羽織ったような毛に覆われていた。ちょろちょろと、群れの外を無邪気に駆け回っている子牛の首からは、テロリンテロリンと音を立てる、口の広い鈴がぶら下がっていた。
 襲われる心配はないのか、サトルは不安だった。しかしサボテンは、こちらに牛が近づいてきても、トカゲを撃退した鋭いトゲを吹き出さなかった。それどころか、牛がそばに寄ってくると、森の中へ招待するように体を曲げ、通りやすいように道を開けた。鋭い角で体を引っ掻かれても、そのままじっとしていた。剥き出しになった赤い幹を、ムシャムシャと囓られても、決して抵抗しようとしなかった。
(どうして――?)と、サトルは首をかしげた。
「きみ、誰?」と、後ろから不意に声をかけられて、サトルは驚いて振り返った。
 サボテンのような、とげとげのある帽子を被った同い年ぐらいの少年が、後ろに立っていた。長い木の杖を持った少年は、不思議そうな顔でサトルを見ていた。
「ぼくは――」と、サトルは小さな声で言った。「サトル」
「ふーん」と、帽子を被った少年は、小さくうなずきながら言った。「ぼくは、トミヨ。君の牛はどこにいるの……」
「えっ」と、サトルは聞き返した。「牛って……」
「――そう言えば、見ない格好だよね」と、少年はサトルを見ながら言った。「放牧に来たんじゃないの?」
 サトルはこくりとうなずくと、言った。
「これは、みんな君の牛なの」
「ううん、ぼくの牛は一頭だけ。ほかは、全部ぼくのお父さんの牛さ。放牧してたっぷりエサを食べさせるのが、ぼくの仕事なんだ」と、少年は牛を指さしながら言った。「サトルは、どこから来たの?」
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夢の彼方に(43)

2016-04-06 22:28:01 | 「夢の彼方に」
 サトルは、障害物の少ない走りやすそうな方角へ、クルリと素早く回れ右をすると、脱兎のごとく走り始めた。それが合図になったのか、トカゲの大群が砂の中から一斉に姿を現し、大波がうねり上がるように踊り出した。
 ザザッ、ザザザッ―― と、トカゲはカレー粉の砂を煙のように舞い上げ、目を見張るほどの早さで追いかけてきた。サトルは岩を飛び越え、灌木を縫うように走って、無我夢中で逃げていった。
 トカゲだけではなかった。灌木と灌木の間の距離が開いて、ぽっかりと広い空間ができると、大きな黒い影が、その隙を待っていたかのように空から迫ってきた。鋭い両足の爪を立て、バサリッと翼を翻しながら、ワシが襲いかかってきた。
「アッ……」と、サトルは頭を押さえた。とっさに背を屈めたたものの、髪の毛をひとつかみ、むしり取られてしまった。
 痛さで涙をにじませながら、サトルは息せき切って走り続けた。
 だんだんと、トカゲとの距離が縮まってきた。
(あんなに手足が短いのに、どうしてこんなに速く走れるんだろう……)
 頭上からワシに襲われないため、なるべく灌木のそばに近づきながら走っているせいもあった。追いかけてくるトカゲは、いくらか数を減らしたものの、あきらめずに追いかけてくるトカゲは、鋭い歯をむき出して、サトルとの距離を少しずつ縮めてきた。
 サトルの目に、こちらを向いて大きく手を挙げている人の姿が見えた。
(助かった――)と、サトルの足にどこからか新しい力がみなぎってきた。
 見知らぬ人が、こっちに来いと言っているように思い、サトルは一目散に砂の坂を駆け上がった。
 坂を登り切ると、そこに人の姿はなかった。かわって人の姿にそっくりなサボテンが、丘の上に広く群生していた。まるで、サボテンの森のようだった。
 ガックリと、肩を落としている暇はなかった。腹を空かせて、我を忘れているトカゲを振り切るには、サボテンのチクチクするトゲの中へ、意を決して進むしかなかった。トゲが突き刺さって、怪我をするかもしれなかったが、しつこく追いかけてくるトカゲを少しでもひるませて、まんまと逃げおおせるには、それしか方法がなかった。
 サトルは、あとわずかな距離でトカゲに追いつかれそうになりながら、足を止めることなく、覚悟を決めて、一気にサボテンの林の中へ駆けこんだ。
 ギャッとトカゲが悲鳴を上げた。
 ギャッ、ギャッと続けて、トカゲの悲鳴が後ろから聞こえてきた。
 サトルは両腕で頭をかばいながら、痛みをこらえて、サボテンの中をまっしぐらに突き進んだ。トカゲは、しかしなぜかサトルの後を追いかけてこなかった。
 ギャッ、と途切れる事のない悲鳴を不審に思い、サトルはチクチクと痛いトゲをよけながら、立ち止まった。恐る恐る後ろを振り返ると、森の中に入ろうとするトカゲが、次々と白い腹を見せて、もんどり打って倒れているのが目に入った。
 トカゲがサボテンの森に近づくと、ゆるゆると身を振るわせたサボテンが、ヒュンと吹き矢のように何かを飛ばした。串のように長く鋭いトゲが、硬いウロコに覆われたトカゲの背に突き刺さった。トカゲは、弾かれたようにポンと飛びあがると、白い腹を見せて砂の上に倒れ、クネクネと長い体をよじらせた。苦しそうに身もだえしながら、砂に背中をこすりつけてトゲを抜き取ると、トカゲは二度とサボテンに近づくことなく、あきらめてサボテンが群生する丘から遠ざかっていった。
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