「ほっほっ……この絵に描かれておる人物はな、ねむり王様の亡くなられたお父上、前ねむり王様じゃよ」と、パフル大臣が笑いながら言った。「わしも若い時分は、王様になにかとご心配をおかけしたもんじゃ。当時のことを思い出すと、この歳になってもまだ、恥ずかしさで顔が赤らんできてしまう。いつか恩返しをしなければと思っていたが、亡き王様に代わって、この私がねむり王様のお世話をまかされるとは、身に余る光栄であり、なんとも奇妙なご縁じゃ――」
大臣は、ふと言葉を途切ると、申し訳なさそうに言った。
「サトル君と同じように、異世界からこの国に人が訪れるのは、そうめずらしいことではない。我々にはとうてい知るよしもないが、条件さえそろえば、双方の夢の通路がつながって、たやすく行き来ができるらしい。正式な記録が残っていないものも含めれば、かなりの人々が訪れておるだろう。君がどうしてドリーブランドに来ることになったのか、詳しい事情は、風博士の便りに記されておった。せっかく来たのだから、城の中だけではなく、にぎやかな城下町もぐるりと案内して、すぐにでも元の世界に戻してあげたいところじゃが、知ってのとおり、城も、ねむり王様がいまだに行方不明で、大騒ぎしておるのだよ」
「なんだよ、大臣」と、トッピーが生えていない牙を剥き出すように言った。「苦労してここまで来たってのに、元の世界に戻せないって言うのかよ」
「そうは言っておらん――」と、大臣は首を振った。「本来なら、すぐにでも元の世界に帰してさしあげるところだが、事情が事情なだけに、しばらく待っていてほしいのじゃ」
こちらへ……、と先導する大臣の後ろを、サトルは小走りについていった。腹の虫がおさまらないといったトッピーは、宙に浮かんだまま、カンカンになってさんざん悪態をつくと、いつの間にか姿の見えなくなった二人の後を追いかけて、あわてて飛んでいった。
「我がねむり王様は、夢を見るのがお仕事でのう、起こして差し上げなければ、何日でも何年でも、目覚めることなく、深い眠りについておられるのだ。その時に見た夢が、そのままの形で外に現れて、この世界の平穏な生活を守っておるのだよ」
「夢って? ねむり王様が夢を見ると、それが本当になるんですか」
「そうなんじゃ。それが代々のねむり王様に伝わるお力でのう、わしの唯一の悩みでもあるのじゃ。国を思う夢なら良いのだが、いたずら好きのねむり王様は、なにかとあれば夢の中で自由にお遊びになられる。起きている間は、私のように口うるさいお目付役も、夢の中までは、そう簡単に手が出せないからのう。時には、別の夢につながるトンネルを安易に掘ってしまわれて、迷いに迷ったあげく、帰り道がわからなくなって、行方不明になってしまう騒ぎもたびたび起こされるのじゃ。ねむり王様がいなくなれば、この世界の均衡が崩れ、人々の勝手な夢があちらこちらで実体を持ち、国中が混乱してしまうだろう。歴代の王様には、これまで必要なかったのじゃが、ねむり王様が夢に迷わないよう、いつでも起こして差し上げられるように、大きな目覚まし時計を枕元に置き、さらに起床の曲を演奏する楽団も結成したのだが、いずれも力不足で、ねむり王様を目覚めさせることはできなかった。そこで、城の識者達と改めて知恵を絞り出し、夢の中まで大音声を轟かす特別な銅鑼を作らせて、その音で、ねむり王様を起こして差し上げることにしたのじゃ――」
大臣がサトルを連れてきたのは、地下の大きな広間だった。
壁も床も、白い大理石に覆われた広間のまん中には、古ぼけた木の扉がぽつんと建てられていた。扉の周りには、やはり白い大理石でできた太い円筒形の柱が、扉を中心にして、互い違いに輪を描きながら、放射状に建っていた。
大臣は、ふと言葉を途切ると、申し訳なさそうに言った。
「サトル君と同じように、異世界からこの国に人が訪れるのは、そうめずらしいことではない。我々にはとうてい知るよしもないが、条件さえそろえば、双方の夢の通路がつながって、たやすく行き来ができるらしい。正式な記録が残っていないものも含めれば、かなりの人々が訪れておるだろう。君がどうしてドリーブランドに来ることになったのか、詳しい事情は、風博士の便りに記されておった。せっかく来たのだから、城の中だけではなく、にぎやかな城下町もぐるりと案内して、すぐにでも元の世界に戻してあげたいところじゃが、知ってのとおり、城も、ねむり王様がいまだに行方不明で、大騒ぎしておるのだよ」
「なんだよ、大臣」と、トッピーが生えていない牙を剥き出すように言った。「苦労してここまで来たってのに、元の世界に戻せないって言うのかよ」
「そうは言っておらん――」と、大臣は首を振った。「本来なら、すぐにでも元の世界に帰してさしあげるところだが、事情が事情なだけに、しばらく待っていてほしいのじゃ」
こちらへ……、と先導する大臣の後ろを、サトルは小走りについていった。腹の虫がおさまらないといったトッピーは、宙に浮かんだまま、カンカンになってさんざん悪態をつくと、いつの間にか姿の見えなくなった二人の後を追いかけて、あわてて飛んでいった。
「我がねむり王様は、夢を見るのがお仕事でのう、起こして差し上げなければ、何日でも何年でも、目覚めることなく、深い眠りについておられるのだ。その時に見た夢が、そのままの形で外に現れて、この世界の平穏な生活を守っておるのだよ」
「夢って? ねむり王様が夢を見ると、それが本当になるんですか」
「そうなんじゃ。それが代々のねむり王様に伝わるお力でのう、わしの唯一の悩みでもあるのじゃ。国を思う夢なら良いのだが、いたずら好きのねむり王様は、なにかとあれば夢の中で自由にお遊びになられる。起きている間は、私のように口うるさいお目付役も、夢の中までは、そう簡単に手が出せないからのう。時には、別の夢につながるトンネルを安易に掘ってしまわれて、迷いに迷ったあげく、帰り道がわからなくなって、行方不明になってしまう騒ぎもたびたび起こされるのじゃ。ねむり王様がいなくなれば、この世界の均衡が崩れ、人々の勝手な夢があちらこちらで実体を持ち、国中が混乱してしまうだろう。歴代の王様には、これまで必要なかったのじゃが、ねむり王様が夢に迷わないよう、いつでも起こして差し上げられるように、大きな目覚まし時計を枕元に置き、さらに起床の曲を演奏する楽団も結成したのだが、いずれも力不足で、ねむり王様を目覚めさせることはできなかった。そこで、城の識者達と改めて知恵を絞り出し、夢の中まで大音声を轟かす特別な銅鑼を作らせて、その音で、ねむり王様を起こして差し上げることにしたのじゃ――」
大臣がサトルを連れてきたのは、地下の大きな広間だった。
壁も床も、白い大理石に覆われた広間のまん中には、古ぼけた木の扉がぽつんと建てられていた。扉の周りには、やはり白い大理石でできた太い円筒形の柱が、扉を中心にして、互い違いに輪を描きながら、放射状に建っていた。