無から有を産むという意味では、文筆業もシントロピー(共生、合成、相乗)と言え、この「農」と「文」を掛け合わせた名著、吉野せい「洟をたらした神」を前に挙げましたが、今回はこれをフィーチャー(特に紹介)したいと思います。
これは戦中、戦後の農民の苦労を語った書で、せいの夫である吉野義也は「混沌」というペンネームを持つ開拓農民でした。
せいも元教員で、平町(福島県いわき市)の牧師で詩人でもあった山村暮鳥の感化を受けて義也と結ばれました。
混沌は学生時代に反戦運動をして捕まり、釈放された後は政治とは離れて田舎の開拓農民のリーダー格に成っていた詩人ですが、虐げられた農民達が組合を作ろうとした時に、それへの参加を断ったにも関わらずしょっぴかてしまいます。(こうした反戦運動の混沌を描いた書としては「いちご白書」(アメリカ)が優れてます)
そんな時代をせいは「不条理な目つぶしをくらわされた悲しい群盲のひしめくひん曲がった時代」と表現しており、貧困故に子供を死なせたりしながらも4人の子供を逞しく育て上げます。
こうした「真の苦労」を語った書は目面しく、いわきの炭坑(映画「フラガール」で有名)で強制労働させられていた英米の虜囚との交流も描かれており、虐げられた者同士の共感は温かい感動を誘います。
戦中、戦後の食糧難の時代に、農業は国を支える大切な産業でした。
しかし農民は搾取され、夢を追って満州へ移った農民達も苦汁を舐めさせられました。
「生産者」に対する「消費者」の搾取は近代に始まった事ではありませんが、「闘争が腐敗を生み生産を失活させる」有り様は、悪玉菌に支配された川や土壌とちょうど同じように観じられます。
だいぶネガティブな面から「農業」を語り出してしまいましたが、農民の歴史は大切なのでもっと遥かに搾取された悲劇の書として、「悲しみの収穫(ソ連)」と「餓鬼(中国)」も挙げて置きます。
一転してポジティブな「農業」を語った書としては、ドクター テルヒガによる「地球を救う大変革」が優れており、より実践的な書では「超かんたん無農薬有機農業」が挙げられます。
これらは既に紹介済みなので、ここでは簡単にレビュー(総活)します。
土壌のシントロピー能力が向上すると、有機物の輪廻転生は歴史的な発展に従ってサステナビリティー(持続可能性)を持ちます。
これは「麦わら一本の革命」という書でも述べられてますが、これはたまたまラッキーだった(阿蘇盆地が土壌生態系のホットスポットだった)から出来た革命であり、それを普遍化させたのが「地球を救う大変化」です。
「超かんたん無農薬有機農業」ではその行程がつぶさに記されており、あなたがもし開拓農民(新規就農)を志望するならば、是非とも手元に置くべき書と言えるでしょう。
農業はそもそもポジティブなシントロピー産業であり、高度成長の波に押し流された二次産業や、「むだ、むり、むら」が目立つ三次産業に嫌気が差した人には特にお勧めの仕事です。