雲上楼閣 砂造宮殿

気ままに自分勝手なブログ。徒然に書いたり、暇潰してみたり、創作してみたり・・・

カワラヌオモイ2

2011-12-02 23:28:57 | 宮 カワラヌオモイ
「こんな風に二人だけで酒を飲むのは、いつ以来だろうなぁ」
目をすがめたままにそう言うシンに、チェギョンは覗きこむように視線を合わせた。
「ん~、5年、6年?もっとかしら?いつも家族みんなで一緒だったからね~」
そう言いながら、チェギョンの笑みが深くなった。
「なんだ、どうした?」
そう言うシンの笑顔は至極、優しげだ。
「ねぇ、覚えている?」
チェギョンが視線を月に向けた。
「たった一度、家族で過ごした夏の日を」
「あぁ」
シンも懐かし気に、月を見上げた。
「あの日は、暑かったな…」
「でも、楽しかった」
「あぁ」
二人が見るのは遠い夏の日。まだシンが皇帝になる前、愛娘のソヨンが4歳、愛息のオンが2歳の時だ。
秋に譲位を決めた女王の計らいで、家族旅行が出来た最後の夏だった。
「ふふ、オンは初めての海に恐がって、ソヨンは大はしゃぎ、シン君は二人に手を焼いてたっけ」
チェギョンはシンを流し見た。シンは杯を傾けた。
「そしてチェギョンはヌンを身籠っていたな」
シンが空になった杯をチェギョンに差し出す。チェギョンは無言で杯を満たした。
「シン君はとぉ~っても優しかった」
満面のチェギョンにシンは不満気に呟いた。
「僕はいつも優しかった」と。