おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

幼な子われらに生まれ 2017年 日本

2017-09-07 08:25:50 | 映画

監督:三島有紀子
出演:浅野忠信 田中麗奈 南沙良 新井美羽 鎌田らい樹
   宮藤官九郎 寺島しのぶ 水澤紳吾 池田成志

ストーリー
互いに再婚同士の田中信(浅野忠信)と妻の奈苗(田中麗奈)。
彼女の二人の連れ子にも父親として誠心誠意を尽くし、ささやかな幸せを感じながら暮らしていた。
しかし妻の妊娠により2人の連れ子とはうまく関係を築けず悩みを募らせ始める。
長女(南沙良)が本当の父親に会いたいと言い出したのだ。
一方、元妻・友佳(寺島しのぶ)の再婚相手は末期ガンで余命わずか。
友佳と暮らす実の娘(鎌田らい樹)からは、血のつながらない義父の死を前にしても悲しめないと打ち明けられてしまう。
そんな中、半ば自暴自棄の感情のままに、長女の願いを実現すべく信は奈苗の元夫・沢田(宮藤官九郎)を捜し出す。
奈苗は沢田とDVが原因で離婚しており、彼との面会に反対だった。
色んな問題に直面し、これから生まれてくる命を否定したくなるほど今の家庭を維持することに疲れる信だった……。

寸評
家族とは、夫婦とは、親子とはと問いかけ、その間に沸き起こる微妙な感情を繊細に描き出している。
それぞれは世に存在する最小の関係であり、家族は最小の社会である。
それぞれにとっては絶対的なものであるはずだが、だからと言ってすべてを理解しあっているわけではない。
血の繋がらない家族と血の繋がった他人という形で子供たちが登場するが、その子供たちの心象風景もリアルに感じることが出来る。
再婚は本人たちの理解で解決できるが、連れ子問題は大変だなあと感じさせる。

奈苗の態度は一見、能天気にも見えるが、前の結婚がいまだに手ひどい痛手となっていて、娘が前夫に会うことなど想像できない。
お互いに再婚同士である信と奈苗の家庭は、記念写真を見る限り幸せな家庭を再構築できていたはずだ。
しかし奈苗の妊娠で長女の薫は自分が疎外されるのではないかとの思いを抱くようになる。
可愛がってもらって新しい父として受け入れていたはずだが、生まれてくる子供と自分の立場の違いを感じ取る。
彼女の不安を際立させていくのが、幼さのために理解能力を持たない妹の恵理子の存在だ。
年齢による感受性の違いが上手く描かれている。
薫より少し大人びた存在が真の実子である沙織だ。
彼女の発する二つの言葉が胸に突き刺さる。
彼女は血のつながらない義父の死を前にしても悲しめないと実父の信に打ち明ける。
そして恵理子から信との関係を聞かれた沙織は友達だと答える。
実は僕も長い間叔父を「おとうちゃん」と信じていた時期があった。
自然とそうではないと理解していった頃、あれは従妹のお父ちゃんやでとからかわれたりしたのだが、僕は「仲間やねん」と答え大人達を喜ばせた。
子供心に処世術を兼ね備えていたわけで、僕は沙織の気持ちがよくわかった。

大人たちも微妙な心情を見せ、演じた役者の上手さを感じる。
奈苗は能天気そうだが、信が薫を実の父親に合わせようかと持ち掛けた時に、そんな気を使ってくれるより実子の沙織と会ってくれない方が嬉しいと漏らす。
奈苗が別れた沢田はどうしようもないぐうたら男だが、薫と会うとなった時にはたたずまいを一変させている。
信は妻の連れ子である長女に接する時の態度と、実の娘と接する時の態度に明らかな違いを見せる。
信の前妻は結婚時の信の態度への思いを吐露し、死期が近づいている現夫への微妙な感情を垣間見せる。
三島有紀子監督の演出の冴えを感じた。
単純なハッピーエンドとしていない結末にも好感が持てるし余韻を残した。
沙織が現在の父親の死を悲しむシーンに加え、未だに新しい子供の誕生を喜べない薫が病院に駆けつけるシーンを用意している。
それらのシーンをかすかな光として描き、決して問題が全部解決して万歳と思わせないところがいい。
最後にタイトルが出るが、さてこれからどうなるのかと思わせる。
もがき苦しみ、自分をさらけ出して、互いにぶつかり合った現家族と元家族たちであったが、それがけっして無駄ではなかったことだけは示唆していた。