「TATTOO[刺青]あり」 1982年 日本
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監督 高橋伴明
出演 宇崎竜童 関根恵子 渡辺美佐子
太田あや子 忍海よし子 矢吹二朗
下元史朗 島貫晃 山路和弘
ポール牧 垂水悟郎 青木和子
泉谷しげる 荻島真一 原田芳雄
植木等 西川のりお 上方よしお
趙方豪 大杉漣 北野誠
ストーリー
検死官が運ばれた死体を調べ、“体の特徴 刺青あり”と報告した。
竹田明夫の死体だった。
15歳の時、遊興費欲しさに強盗殺人事件を引き起こした明夫は保護監察処分取り消しになった20歳の時“30歳になるまでにドデカイ事をやったる!”と誓った。
それまでの生活を一変させるためにパーマをかけ、胸にボタンの刺青を入れキャバレーのボーイになった。
同じ店で働くナンバーワンのホステス、三千代を強引にくどき、同棲生活を始める。
しかし三千代は明夫の性格についていけなくなり、別の男・鳴海のもとへ逃げてしまう。
三千代を連れもどそうとするが、鳴海の気魄に負け、雨の降る中を帰って行った。
明夫にはなぜ三千代が逃げたのか分からず、また四国の田舎町でひっそり暮らす母親のためにも男をあげなければならないと思った。
ボーイから転進した雇われ店長をやめ、贈答品会社とは名ばかりの取り立て屋を始めた。
再会した幼なじみのタクシー運転手・島田を相棒に銀行襲撃計画を練り、参考になりそうな本を読みあさり、クレー銃の練習を始めた。
尻込みする島田に車の用意をさせ、30歳を過ぎようとする昭和54年1月26日、大阪市内の銀行に銃声とともに押し入った。
篭城する明夫を説得する母親、そして……。
深夜の列車から白い骨箱をかかえ駅に降りた母親は、明夫のかぶっていた帽子を頭にのせ、人のいなくなったベンチに座っていた。
寸評
1979年1月に起きた三菱銀行人質事件をモデルにしていて、主人公竹田明夫を演じた宇崎竜童の風貌は犯人の梅川昭美によく似ている。
三菱銀行人質事件は1月26日に発生した。
大阪市住吉区にある三菱銀行北畠支店に猟銃を持った男が押し入り、客と行員30人以上を人質に立てこもった事件で、犯人の梅川昭美は警察官2名、行員2名(うち1名は支店長)の計4名を射殺している。
梅川は女性行員を全裸にして盾代わりに並ばせたり、男子行員に別の男子行員の耳を切り取らせたりするなど非道の限りを尽くしたが、事件発生から42時間後に立てこもった梅川は、警察の特殊部隊により射殺された。
映画は人質事件そのものを描いているわけではないので、銀行内の様子や犯人の行動を全く描いていない。
唯一、母親を説得役として連れてきた警察に「母親の姿を見せたら殺すぞ」と凄む竹田明夫が登場するだけなのだが、僕は三菱銀行のさる支店長から報道されている以上の行内のひどい状況を聞いたことがある。
何よりも射殺された支店長は栄転で北畠支店長となられる少し前まで、僕が務めていた会社の取引銀行支店長としてお目にかかっていた方だったのである。
栄転のお祝いを渡した直後の事件だけに、運命の皮肉さを感じずにはいられなかった。
そんなこともあって「TATTOO[刺青]あり」は僕にとっては特別な映画となっている。
凶悪な犯罪へと主人公を駆り立てたものは何だったのかに的を絞った西岡琢也の脚本が素晴らしい。
特に、息子を盲目的に愛する母親の期待に応えようとして背伸びする主人公の姿、世間から迫害されるようにして生きてきた二人の関係の異常さと、そこに端を発した「世間を見返してやろう」という異常なまでの執念が君が悪いぐらいに迫ってきて、胸部に彫られた刺青によって自分を強者と錯覚して堕ちていく姿は痛々しい。
明夫は時として優しく、時として暴力的になる二重人格者のような男でもある。
三千代を散々痛めつけておいて、優しく湿布薬を貼ってやるようなアンバランスな行動を疑いもなくやる。
明夫は短略的に30歳までに大きなことをやることに固執しているのは一人前になった姿を見せたいと言う母への背伸びだ。
明夫は脅し取った電化製品を母親に送っているが、母親はそれを息子と思い疑いもせず大切にしている。
盲目的に息子を愛する母とマザコン的に母を慕う息子なのだが、彼等の精神構造はいびつだ。
この映画は三菱銀行人質事件を髣髴させるが、もう一つ鳴海清による山口組三代目襲撃事件も描かれている。
三千代は鳴海清とも関係を持っているから、とんでもない男二人と関係していたことになり、彼女こそ踏みにじられた人生を送っていると言ってもよい。
彼女は男をダメにすると言われているが、二人の男とやっと切れることが出来た、この映画では唯一救われることを想像させる人物に思えた。
この映画に欠点があるとすれば、主人公の明夫にまったく共感する点がないことだ。
息子の遺骨を抱き暗闇の駅舎に浮かぶ母親の姿を見ると、この母親の不幸な人生に同情する。
ラストは切ないが映画としてはいい終わり方だ。
宇崎竜童はシンガーとしても作曲家としても成功を収めていたが、役者としてもすでに「曽根崎心中」などで存在感を見せていたが、僕はこの作品の明夫役が一番だと思っている。
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監督 高橋伴明
出演 宇崎竜童 関根恵子 渡辺美佐子
太田あや子 忍海よし子 矢吹二朗
下元史朗 島貫晃 山路和弘
ポール牧 垂水悟郎 青木和子
泉谷しげる 荻島真一 原田芳雄
植木等 西川のりお 上方よしお
趙方豪 大杉漣 北野誠
ストーリー
検死官が運ばれた死体を調べ、“体の特徴 刺青あり”と報告した。
竹田明夫の死体だった。
15歳の時、遊興費欲しさに強盗殺人事件を引き起こした明夫は保護監察処分取り消しになった20歳の時“30歳になるまでにドデカイ事をやったる!”と誓った。
それまでの生活を一変させるためにパーマをかけ、胸にボタンの刺青を入れキャバレーのボーイになった。
同じ店で働くナンバーワンのホステス、三千代を強引にくどき、同棲生活を始める。
しかし三千代は明夫の性格についていけなくなり、別の男・鳴海のもとへ逃げてしまう。
三千代を連れもどそうとするが、鳴海の気魄に負け、雨の降る中を帰って行った。
明夫にはなぜ三千代が逃げたのか分からず、また四国の田舎町でひっそり暮らす母親のためにも男をあげなければならないと思った。
ボーイから転進した雇われ店長をやめ、贈答品会社とは名ばかりの取り立て屋を始めた。
再会した幼なじみのタクシー運転手・島田を相棒に銀行襲撃計画を練り、参考になりそうな本を読みあさり、クレー銃の練習を始めた。
尻込みする島田に車の用意をさせ、30歳を過ぎようとする昭和54年1月26日、大阪市内の銀行に銃声とともに押し入った。
篭城する明夫を説得する母親、そして……。
深夜の列車から白い骨箱をかかえ駅に降りた母親は、明夫のかぶっていた帽子を頭にのせ、人のいなくなったベンチに座っていた。
寸評
1979年1月に起きた三菱銀行人質事件をモデルにしていて、主人公竹田明夫を演じた宇崎竜童の風貌は犯人の梅川昭美によく似ている。
三菱銀行人質事件は1月26日に発生した。
大阪市住吉区にある三菱銀行北畠支店に猟銃を持った男が押し入り、客と行員30人以上を人質に立てこもった事件で、犯人の梅川昭美は警察官2名、行員2名(うち1名は支店長)の計4名を射殺している。
梅川は女性行員を全裸にして盾代わりに並ばせたり、男子行員に別の男子行員の耳を切り取らせたりするなど非道の限りを尽くしたが、事件発生から42時間後に立てこもった梅川は、警察の特殊部隊により射殺された。
映画は人質事件そのものを描いているわけではないので、銀行内の様子や犯人の行動を全く描いていない。
唯一、母親を説得役として連れてきた警察に「母親の姿を見せたら殺すぞ」と凄む竹田明夫が登場するだけなのだが、僕は三菱銀行のさる支店長から報道されている以上の行内のひどい状況を聞いたことがある。
何よりも射殺された支店長は栄転で北畠支店長となられる少し前まで、僕が務めていた会社の取引銀行支店長としてお目にかかっていた方だったのである。
栄転のお祝いを渡した直後の事件だけに、運命の皮肉さを感じずにはいられなかった。
そんなこともあって「TATTOO[刺青]あり」は僕にとっては特別な映画となっている。
凶悪な犯罪へと主人公を駆り立てたものは何だったのかに的を絞った西岡琢也の脚本が素晴らしい。
特に、息子を盲目的に愛する母親の期待に応えようとして背伸びする主人公の姿、世間から迫害されるようにして生きてきた二人の関係の異常さと、そこに端を発した「世間を見返してやろう」という異常なまでの執念が君が悪いぐらいに迫ってきて、胸部に彫られた刺青によって自分を強者と錯覚して堕ちていく姿は痛々しい。
明夫は時として優しく、時として暴力的になる二重人格者のような男でもある。
三千代を散々痛めつけておいて、優しく湿布薬を貼ってやるようなアンバランスな行動を疑いもなくやる。
明夫は短略的に30歳までに大きなことをやることに固執しているのは一人前になった姿を見せたいと言う母への背伸びだ。
明夫は脅し取った電化製品を母親に送っているが、母親はそれを息子と思い疑いもせず大切にしている。
盲目的に息子を愛する母とマザコン的に母を慕う息子なのだが、彼等の精神構造はいびつだ。
この映画は三菱銀行人質事件を髣髴させるが、もう一つ鳴海清による山口組三代目襲撃事件も描かれている。
三千代は鳴海清とも関係を持っているから、とんでもない男二人と関係していたことになり、彼女こそ踏みにじられた人生を送っていると言ってもよい。
彼女は男をダメにすると言われているが、二人の男とやっと切れることが出来た、この映画では唯一救われることを想像させる人物に思えた。
この映画に欠点があるとすれば、主人公の明夫にまったく共感する点がないことだ。
息子の遺骨を抱き暗闇の駅舎に浮かぶ母親の姿を見ると、この母親の不幸な人生に同情する。
ラストは切ないが映画としてはいい終わり方だ。
宇崎竜童はシンガーとしても作曲家としても成功を収めていたが、役者としてもすでに「曽根崎心中」などで存在感を見せていたが、僕はこの作品の明夫役が一番だと思っている。