おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

地下室のメロディー

2019-10-28 09:24:26 | 映画
「地下室のメロディー」 1963年 フランス


監督 アンリ・ヴェルヌイユ
出演 ジャン・ギャバン
   アラン・ドロン
   ヴィヴィアーヌ・ロマンス
   モーリス・ビロー
   ジャン・カルメ

ストーリー
ジャン・ギャバンとアラン・ドロンの2大スターが共演した犯罪アクション。
洗練されたモノクロの映像、モダンジャズの音楽、そして何より主人公2人の卓越した心理描写が光る、フランス映画史に残る名作。

五年の刑を終って娑婆に出た老ギャングのシャルル(ジャン・ギャバン)は足を洗ってくれと縋る妻ジャネット(ヴィヴィアーヌ・ロマンス)をふりすてて、昔の仲間マリオ(アンリ・ヴァルロジュー)を訪ねた。
シャルルはある計画をうち明け、マリオからホテルの建築図を手に入れた。
計画はカンヌのパルム・ビーチにあるカジノの賭金をごっそり頂こうという大仕事だ。
マリオが健康上で参加できないことが分かり、相棒が必要なのでシャルルは刑務所で目をつけていたフランシス(アラン・ドロン)と彼の義兄ルイ(モーリス・ビロー)を仲間に入れた。
賭金がどのように金庫に運ばれるのかをたしかめると、シャルルは現場での仕事の段取りをつけた。
各自の役割がきまり、フランシスはホテルの踊子ブリギッタ(カルラ・マルリエ)に近づき、自由に楽屋に出入りできるようになる。
決行の夜、フランシスは楽屋裏から空気穴を通ってエレベーターの屋根にかじりついた。
金勘定に気をとられている会計係とカジノの支配人の前にマシンガンを手に持った覆面のフランシスがエレベーターの天井から飛び降りてきた。
彼は会計係から、鍵を奪ってシャルルを表から入れた。
札束を鞄に詰めると、シャルルとフランシスは、ルイの運転するロールス・ロイスを飛ばした。
金はフランシスが借りた脱衣所にかくした。
警察が乗り出したころ、シャルルとフランシスは何食わぬ顔で別なホテルに納まっていた。
完全犯罪は成功したのだ。
しかし朝食をとりながら、眺めていた新聞のある記事と写真が一瞬シャルルの眼を釘づけにした。
無表情な彼の顔に、かすかな動揺が起った。

寸評
第一級のサスペンス映画だ。
タイトルバックと共に流れ出るテーマソングがいい。
同じフレーズを繰り返すミシェル・マーニュのモダンジャズの響きは犯罪映画のムードたっぷりであり、一度聴いたら忘れることが出来ないメロディーで、映画史上屈指のテーマ音楽の一つだと思う。

オープニングから圧倒されるのはジャン・ギャバンの圧倒的な存在感と渋さだ。
5年の刑期を終えて出所したシャルルが、トレンチコートに身を包み仏頂面で歩いている。
タクシー、列車を乗り継いで自分の家へ向かうのだが、早朝の電車の中ではサラリーマンたちがローンを組んでギリシャ旅行に行ったという会話をしている。
その会話を聞きながら、シャルルは「そんなローンのためにあくせく働くのなんかごめんだ」と呟く。
このつぶやきは大詰めとなったところで、フランシスの義兄で本来真面目な小市民であるルイが金の受け取りを拒否する理由と対比されることになり、我々はルイの論理に納得することとなる。
かつて彼が住んでいた街は再開発で高層住宅が立ち並び、通りも変わってしまい自分の家の所在すら分からなくなっていて、ようやくたどり着いた彼の家だけがポツンとその中にある。
感情を殺した妻との会話が次のシーンにかぶさっていき、シャルルを追い続ける流麗なカメラワークが展開されていくという独特のテンポと、フィルム・ノワールともいうべき光と影の織りなすモノクロ映像の世界は、現在の僕たちが観ても全く色褪せていない。
この冒頭シーンで、シャルルが5年の刑に服していたこと、また彼がまじめにコツコツ働くタイプではないことが要領よく示されていて、この映画の持つテンポを生み出している。

犯罪映画の常として、成功するように思えながらも、結局は成功しないことは見る前から分かっていることなので、どのように破たんを迎えるのかに興味は自然の流れで移っていく。
完全犯罪成功!と思ったら些細なミスから破綻する、というのは犯罪映画の定石だ。
ラストシーンはどのようなオチなのか、計画が失敗するのは何故なのか、そこに犯罪映画の醍醐味がある。
フランシスは楽屋裏に出入りするためにホテルに出演中の踊子に近づいていく。
最初はその劇団のピアニストから取り入っていくという短い話を付け加えていて、観客を納得させるに十分な行き届いた演出となっている。
手段なのか、本気なのか分からないフランシス、ブリギッタ二人の関係とやり取りも、サスペンスを盛り上げる。
踊り子の男に嫉妬心を燃やすシーンの何とも心憎い処理の仕方だ。
そして伝説のラストシーンだ。
ここでのギャバンとドロンの表情がいい。
二人とも言葉を発しないで、その心理を見事に表現している。
アラン・ドロンは二枚目俳優の代名詞のような俳優だが、決してルックスだけの役者ではない。
無言のうちに見せる表情にしびれてしまう。
フレンチ・ノワールは、スリリングでありながらキメの細かい人間描写や、生活の細かいディティールに凝っているところが魅力なのだが、この作品はその魅力をいかんなく発揮していて名作の名にふさわしい出来栄えだ。