おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

青春デンデケデケデケ

2021-04-24 13:37:13 | 映画
「青春デンデケデケデケ」 1992年 日本


監督 大林宣彦
出演 林泰文 柴山智加 大森嘉文 浅野忠信
   岸部一徳 ベンガル 永堀剛敏
   尾藤イサオ 入江若葉 水島かおり
   安田伸 尾美としのり 佐野史郎 勝野洋

ストーリー
1965年の春休み。四国・香川県の観音寺市。
高校入学を目前に控えた僕、ちっくんこと藤原竹良(林泰文)は、昼寝の最中にラジオから流れてきたベンチャーズの曲「パイプライン」の“デンデケデケデケ~”という音にまさに電撃的な衝撃を受け、高校に入ったらロックバンドを結成しようと心に誓う。
そうして浄泉寺の住職の息子・合田富士男(大森嘉文)、ギターの得意な白井清一(浅野忠信)、ブラスバンド部の岡下巧(永堀剛敏)、そして僕と4人のメンバーが揃った。
夏休みにそれぞれアルバイトでお金を稼ぎ、念願の楽器を購入、バンド名も〈ロッキング・ホースメン〉と決定、こうして本物の電気ギターの音が初めて町にこだました。
手製アンプを作ってくれた、しーさんこと谷口静夫(佐藤真一郎)という名誉メンバーも加わる。
河原での合宿もうまくいき、学内での活動も認められ、女の子たちの人気の的にもなった。
そしてスナックの開店記念パーティで念願のデビュー。
ロックバンドに明け暮れる高校生活はあっという間に過ぎていき、顧問の寺内先生(岸部一徳)が急死するという出来事もあれば、岡下の初キッス事件も起こった。
僕だって夏の終わり、クラスメイトの唐本幸代(柴山智加)に誘われて、海水浴場に2人で出かけたりする。
そして僕たちのバンドの最後の演奏となった高校3年の文化祭も、大成功の内に幕を閉じた。
卒業が近づき、東京の大学へ行こうとしているものの不安定な気持ちの僕を、バンドの仲間たちが「頑張れよ、終身バンド・リーダー」と励ましてくれる。
恋や友情の熱い思い出と、愛しい歌の数々を胸に、こうして僕は東京に向かっていくのだった。


寸評
舞台は香川県の観音寺市なのだが、観音寺と言えば僕が務めていた会社の縫製工場と流通センターが有った土地で時々出張で訪れていた町だ。
最寄りの観音寺駅は特急も止まる駅だったが、夜の8時にでもなると駅前ですら真っ暗になる田舎を感じさせる所で、仕事終わりに立ち寄る飲み屋は地元の人に案内されないと見つけることが出来なかった。
仕事に追われ市内を立ち回る余裕もなく、かろうじて本支店勤務になる新入社員を琴弾(ことひき)公園に案内し、有明浜の白砂に描かれた「寛永通宝」の砂絵を眺めたくらいである。
描かれたような風情ある町を散策しておけばよかったと映画を見ながら当時を思い起こす。

映画は絵にかいたような青春物語だが、特に僕たちの年代の者は再見するたびに青春がよみがえってくる内容で、それをもたらしているのが懐かしい当時の音楽である。
エレキブームの火付け役だったベンチャーズの「パイプライン」が流れてくるだけでウキウキしてしまう。
「ダイアモンド・ヘッド」、「10番街の殺人」、「キャラバン」などを収めたレコードも持っていた。
ベンチャーズはビートルズと共に僕の高校時代の音楽趣味に多大な影響を与えたバンドだったのだ。
男性ならば彼らの高校生活を見ると誰もが思い当たるふしのある内容だと思う。
自然光を捉えた温かみのある画面が彼らの青春を包み込み、僕たちにノスタルジーを感じさせる。
僕は音楽に造詣が深くなかったが、入学と同時に出会って親しくなった1年3組の仲間とはクラスが代わっても3年間は常に一緒だった。
中間、期末の試験が終わるたびに我が家に集まり徹夜麻雀に興じていた。
徹夜麻雀を楽しみにして試験を受けていたようなものだ。

映画は青春ど真ん中を大林監督らしいポップなシーンを挿入して面白おかしく描いているが、青春の輝きのうちに物語が終わるのではなく祭りの後も描かれている。
文化祭が終わり卒業する彼らはそれぞれの道を歩み始める。
主人公のちっくんと呼ばれる藤原竹良以外のメンバーは家業を継ぐため町に残るが、ちっくんは東京の大学を受験することになる。
周りが先へと進む中、バンド活動に対する未練、自分の進路への不安を抱えるちっくんは思い出の地を巡り、過ぎ去りし日々に思いを馳せるシーンがいい。
鍵のかかった部室の前で、「部室の鍵はもう下級生に譲り渡してしまった。したがって僕には入れない」と繰り返しつぶやき、文化祭で演奏をした体育館にひとり立ち、「みんな終わってしまったのだ」とつぶやくのは、青春は永遠ではないことを告げている。
僕が大学を卒業する時に感じた気持ちと相通じるものがあり、それがこのシーンに感情移入させたのだろう。
そんな彼の背中を押すためにメンバーは終身バンドリーダーの称号を贈る。
解散になっても、活動を続けなくなっても、「ロッキング・ホースメン」は在り続けるのだという証で、青春時代は有限でも青春時代の仲間は永遠なのだと言っているように思える。
多彩な出演者を発見するだけでも楽しいが、大森嘉文の合田富士男が大人びた挨拶をしたりして面白い。
大林映画の中でも好きな一本で、青春映画として僕の中では十指に入る作品である。