「化身」 1986年 日本
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監督 東陽一
出演 黒木瞳 藤竜也 阿木燿子 淡島千景
三田佳子 青田浩子 梅宮辰夫
ストーリー
京都から帰京した文芸評論家の秋葉大三郎(藤竜也)は、東京駅に降りた時、「鯖の味噌煮が食べたい」と珍しいことを言っていた銀座のホステスを想いだした。
里美(黒木瞳)というそのホステスのいるバー「魔呑」へ友人の能村(梅宮辰夫)と出かけた秋葉は彼女をデートに誘い、その日、泥臭さが抜けきらないが素朴なところに魅かれた秋葉は、里美を抱いた。
里美は本名を八島霧子といい、不思議な魅力を持っていた。
髪形やファッションを変えると見違えるように変身した。
秋葉には編集者で38歳の田部史子(阿木燿子)という愛人がいたが、霧子と付合うようになって仲が遠のいていたのだが、「魔呑」の売れっ子となった霧子を別荘に連れて行った秋葉は、そこで史子と出くわす。
史子は秋葉の心変わりを知った。
霧子は「魔呑」を辞め、秋葉は彼女のために高級マンションを与えた。
彼は日毎に容姿も肉体もいい女になっていく霧子に充足感を覚えていた。
霧子が代官山に洋服のリサイクルの店を出したいと言ってきたので、二千万近い資金は秋葉が都合した。
新しい情報と品物の仕入れの為に霧子がニューヨークに発った。
秋葉も同行するはずだったが、母の久子(淡島千景)が脳血栓で倒れたため、仕方なくニューヨーク在住の商社員、室井達彦(永井秀和)に霧子の世話を頼む。
ある日、秋葉は「阿木」から出て来た史子と会った。
彼女とは一年近くも会っていなかったが、昔のことにはふれず逆にサバサバした様子だった。
帰国した霧子をで出迎えた秋葉は別人のように美しくなった霧子を見て呆然とする。
霧子の身辺は急に多忙になり、マスコミの付合いなどで秋葉が介入する余地がないほどだ。
霧子は自立する女に変りかけていた・・・。
寸評
黒木瞳は宝塚歌劇入団2年目で大地真央の相手役として史上最速となる男役・娘役通じて娘役トップになり、娘役ながら大地に迫るほどの人気を博していたのだが、大地と共に退団し映画主演第1作となったのがこの「化身」である(在団中の1982年に東宝映画「南十字星」に出演している)。
黒木瞳の為に企画されたような作品で、全裸になることが条件だったのかもしれない。
実際にこの作品での黒木の脱ぎっぷりは見事で、宝塚出身女優でヌードシーンを見せたのは黒木瞳以外にはいないのではないかと思う。
原作者の渡辺淳一は総理大臣寺内正毅をモデルとしたとされる「光と影」で直木賞作家となったが、一つのジャンルとして恋愛ものも手掛けており「化身」、「失楽園」、「愛の流刑地」などでは大胆な性描写が話題になった。
本作でも冒頭から一方の主人公である秋葉大三郎と愛人の田部史子とのベッドシーンから始まる。
田部史子を演じているのはミュージシャンで俳優でもある宇崎竜童夫人で自身も作詞家でもある阿木燿子であり、彼女も裸身をさらしている。
黒木はホステスとしてすぐに登場し、初対面の秋葉と深い仲になるのだが、なぜ黒木演じる霧子が中年の秋葉に初対面で関係を持ち恋愛感情をいだいたのかの説明がなく、極めて唐突感がある。
渡辺淳一の恋愛ものは大抵が、中年男が魅惑的な女性と出会ってその女性にのめり込んでいくというパターンなのだが、ここでも秋葉が霧子にマンションをあてがい、家を担保に金を借り店を持たせている。
田部という愛人がいながら霧子に乗り換えるのは若くて美貌を有しているからかもしれないが、兎に角強引に命令調で関係を結んでいる。
霧子は初対面の秋葉をどうして拒まなかったのだろう。
彼女も秋葉に一目ぼれしたということだろうか。
その後は逢瀬を重ねる二人がこれでもかと描かれていくのだが、どうも僕にはきわもの映画にしか思えないもので、イマイチ二人の心情に入り込む事が出来なかった。
秋葉は自分の思い通りに霧子を支配しようとするが、逆に霧子は一人の女として自立するようになり、今度は秋葉が霧子に支配されていくようになってくる。
離れていく霧子を何とかつなぎとめようとする姿は惨めにさえ見えてくる。
この逆転現象が面白いと思うし、物語の上では見せ場となる展開なのだが、その変化は通り一辺倒な描き方で物足りない。
男の見苦しさに比べて女達が強いのは男女の本質なのかもしれない。
霧子は自分の出現で見捨てられたはずの田部と仲良くなり、まるで共闘を組んでいるような関係になる。
田部史子という女性は本当に納得していたのだろうか。
東陽一作品として、どろどろとした三角関係を想像した僕の予想は見事に裏切られる展開となっている。
その為に乗り切れない作品だったのだが、ラストシーンで秋葉が掛ける電話のシーンだけはよかった。
見事な変身を遂げた女二人が乗るシースルーのエレベーターは女の強さを決定づけている。