おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

すばらしき世界

2024-05-27 05:47:38 | 映画
「すばらしき世界」 2020年 日本


監督 西川美和
出演 役所広司 仲野太賀 橋爪功 梶芽衣子 六角精児
   北村有起哉 長澤まさみ 安田成美 白竜 キムラ緑子 

ストーリー
殺人を犯し13年の刑期を終えた三上は、目まぐるしく変化する社会からすっかり取り残され、保護司・庄司夫妻の助けを借りながら自立を目指していた。
下町の片隅で暮らす元殺人犯の三上のもとに、テレビマンの津乃田と吉澤が現れる。
生き別れた母を探すという企画で近づいてきたのだが、彼らの狙いは一度は社会のレールを外れたが再生したいと悪戦苦闘する三上の姿を面白おかしくテレビ番組にしようというものだった。
そのまっすぐすぎる性格がゆえに三上はトラブルばかり引き起こすが、いつしかそんな三上との交流が津乃田と吉澤をはじめとする周囲の人々に影響を与えていく。
彼の周囲にはその無垢な心に感化された人々が集まってくる。


寸評
三上と言う男は人生の大半を刑務所で過ごしてきた男である。
すぐに凶暴化する男だが生き方が不器用なところがあり、場面に応じて複雑に変わる男の性格を役所広司が演じ分けていてさすがと思わせる。
三上は検事の挑発に乗って過失致死で済みそうな犯罪を殺人罪とされて13年の刑を受けている。
出所してからも夜中に騒ぐ若者を注意しに行くが、「ヤクザに脅かされている」と叫ばれ、近所から非難を受ける。
ヤクザに絡まれているサラリーマンを助けた時も、相手を半殺しにあわせてしまい過剰防衛気味である。
辛らつな言葉をだれかれ構わず浴びせ、その相手は刑務所の看守であろうが、生活保護担当の公務員であろうが相手を選ばない。
それなのに彼の周りには、彼を理解しまっとうな生活をさせようという人たちが集まってくる。
両親の愛に恵まれなかった三上に、母に代わって愛を注ぐ人々だ。
橋爪功と梶芽衣子の身元保証人夫婦は献身的だが、たんなる聖人としてではなく、孫の相手をしている時はそっけない態度もみせるし、世間い巻かれろと諭す言葉は現実過ぎて偽善者を感じさせる。
六角精児のスーパー経営者は、三上の前歴を知っており万引きを疑うってしまうのだが、生まれが隣村だったこともあり、親身になって三上を心配してやるようになる。
生活保護を担当する北村有起哉は役所のお堅い決まりに縛られながらも、彼も親身になってアドバイスを与えてやるようになる。
三上はそんな彼らに対しても時々キレる時がある。
素直に感謝を述べ、子供のような笑顔を見せる一方で、元ヤクザの凶暴さを突如表す。
しかし彼の行動の動機は彼の正義感からくるものだったりするし、必死に堅気として生きようとしていることからくるものなので観客の僕は彼に同情を寄せてしまう。
哀しいことに、彼の正義感はいつも空回りだ。

仲野太賀のテレビマン津乃田が風呂場で三上の背中を流してやり、まっとうに生きることを諭すシーンには涙が出そうになった。
そう言えば兄弟分の妻であるキムラ緑子が巻き添えを恐れて逃がしてやる場面も親身な部分を感じてしまい、ヤクザ同士の固い契りを称賛してしまいそうになった。
そんな哀れな男を役所が切ないまでに演じ分け、役所は上手いなあと感心してしまう。

刑期を終えた三上が社会の中でまともに生きていくことの大変さが描かれる。
世の中の仕組みから見れば当然の対応なのだが、三上から見れば自分を冷たく扱う世の中なのだ。
長澤まさみのテレビプロデューサーは、三上を利用して面白い番組を作ろうとしている。
面白ければいいというマスメディアへの批判でもある。
しかし三上の暴力現場から逃げ出したカメラマンの津乃田に彼女が言う「カメラを回さないんだったら割って入れ、割って入らないのならカメラを回して伝えろ」にはプロデューサーの根性のようなものを感じた。
豊田商事事件でも殺人現場をカメラは追い続けていたことを思い出す。
彼女のその後は追ってほしかったがなあ。

三上はやっと介護の仕事に就くが、そこでもしかしたらという出来事に出会う。
必死でこらえる姿、迎合する姿が悲しく見える。
残された者たちの上には青空が広がっていたが、ここにきて「すばらしき世界」というタイトルが逆説的に見えた。
13年の刑期を終えてシャバに出てきた男にとって、シャバは素晴らしい世界だったのだろうか。
やはり警察のお世話になるようなことはやってはならないのだ。
オリジナル脚本で撮ってきた西川美和監督だが、今回は原作の時代を変えて撮っている。
原作を読んでいない僕は、彼女のオリジナリティがどこにあったのかは分からないが、相変わらず映像は美しい。
時々可笑しくなるような場面を挿入しながら描いていく西川演出は相変わらず冴えている。
介護施設での描き方は上手い!
僕は西川美和作品と言うだけで映画館へ足を運んでしまう。