あなたから一番遠いブログ

自分が生きている世界に違和感を感じている。誰にも言えない本音を、世界の片隅になすりつけるように書きつけよう。

医薬品を規制緩和してよいのか

2013年11月09日 23時41分49秒 | Weblog
 市販薬に関する新たな政府の方針。医療用から一般用に転用された「スイッチ直後品目」については副作用の評価が定まっていないとして、ネット販売は3年間の禁止とした。また劇薬に指定された薬は永久にネットでの販売を禁止になる。
 これに対して楽天の三木谷社長は猛反発し、法案が成立したら行政訴訟を起こすと息巻いた。
 いわく
「ネット販売は安全性について十分担保できる」
「医薬品のネット販売を規制する、科学的かつ客観的な事実は一切ない」
「ITの活用を推進していく上では『対面・書面の原則』を撤廃することがどの分野でも必要」で、これは「我々は非常に重要なポイントだと思っている。ここを突破できなければ前に進めない」
 つまり安倍政権は大胆な規制緩和を行うと言ったのに全くそうなっていないと怒っているのだ。医薬品のネット販売を行う関係者は店頭販売よりネット販売の方がむしろ安全だと主張する人たちもいる。

 そんな中で今度はネット販売サイトである「楽天市場」で、プロ野球の日本シリーズ優勝記念セールに出品された商品の中に、価格を本来の価格より高く表示して大幅値引きをしたように偽装したケースが多数見つかった。
 この問題について三木谷社長は「正式な日本一セールは厳正なる審査を経て実施していた。便乗して勝手にセールをやっている店舗があった」と述べた。
 しかしネット上の論評などを見ると、一般の利用者には正式な出品と勝手セールの区別はつけづらい、楽天には責任があるという批判も多かった。

 さて、薬のネット販売だが、確かにネットで買えるのはとても便利だ。実を言うとぼくも先ほどネットで買った薬を受け取ったところだったりする。第三類医薬品(リスクが比較的低い)に指定されている傷薬で、かなり昔からある銘柄なのだが、最近良く売られているものとは違う特別な特徴を持った薬で、あまり代わりになるものがない。近くの薬屋を回ったのだがどこも扱っておらず、しかたなくアマゾン経由でケンコーコムから購入した。
 ぼくに限らず、たとえば特殊な漢方薬などを服用している人が、以前から通信販売の形で専門店から薬を取り寄せるケースも多いと聞く。こうしたあまり一般的でない薬が欲しい人にとっては、通信販売は単に便利というだけでなく、ひょっとしたら命に関わるくらい重要であるかもしれない。
 しかしそれでもやはり医薬品のネット販売を全面的に解禁するべきかと聞かれれば、そこは疑問が残る。

 楽天の優勝記念セールでの価格偽装、価格の不当表示事件がそのことを如実に示した。やはりネット販売が対面販売より安全だなどというのは詭弁でしかない。ネットには大きなリスクがあるということを前提にして、制度設計をするのが当然だと思う。
 楽天は正規のセールではちゃんとチェックをしていた、そもそも出店業者は登録時に厳しく審査をしていると言っているが、もしそうだとしたら、それでもこうした事件が起きてしまったということになる。いわばどんなに厳正にやろうとしても、そこは管理しきれないということが逆に明らかになったのだ。

 ぼくはネット通販も使うし、ネットオークションにも参加する。入札もするし時々出品もする。だからよく感じることだが、やはりネットはリスキーだ。写真が貼ってあってもそれが実物かどうかわからない。と言うより一般的な商品ではほとんど見本の写真だろう。一般の店の店頭で直接品物を手に取って、それを直接レジに持っていってお金を払い、まさに実際にそのものを持って帰ってくるのとは全く違うのだ。
 しかも今回の楽天の件では、生産発売をしている業者と消費者の間に、通販会社、接続業者、サイト運営業者=楽天など、多くの業者が間に入っている。直接的に不当表示をしたのは通販会社とされているが、こうした仕組みは利用者・消費者には見えづらいし、結局のところ圧倒的多数の人は「楽天」というブランドを信じるしかない。
 おそらく楽天も問題を野放しにしているわけではないだろう。以前、楽天ではないがアマゾンのマーケットプレイスの業者から商品を購入しようとしたところ、アマゾンから「この業者は悪質な詐欺をやっている疑いがあるので販売手続きを中止・破棄します」みたいなメールが来たことがあった。そうやってチェックして被害を未然に防いでくれるのはありがたい。しかし当然だがそれはぼくの前に誰か被害者が出ているから、その業者が悪質業者だとわかっただろう。やはり完全に問題を無くすことは出来ないのだ。

 それにしても三木谷社長がネット販売があたかも日本経済の救世主になるかのごとく言うのには違和感を感じる。
 たしかにインターネットを利用すると安くて早くて便利にモノが買える。しかし当然その裏側にそれなりの理由も存在しているはずだ。それはたとえばWWWサイトの裏側にいる人たちが低賃金であることかもしれない。それは単にサイト運営会社とか通販会社にとどまらず、生産者や運送会社もそうなのかもしれない。それは我々には見えないところだ。
 だいたい今回の事件では「77%OFF」などとうたったセールが問題になったが、常識的に言って商品を77%値引きして販売することなど、まず不可能である。普通なら何かのからくりがあると考えざるを得ない。
 これはネットだから成立する話だ。普通の一般の店ではそこを利用する人たちには通常価格はよく知られているわけだから、まず価格偽装は不可能だ。もし77%引きの商品が出ていたとしたら、その理由もだいたいわかるはずだ。消費期限が迫っているとか、閉店のための在庫一掃セールだとかという風に。
 しかしネット通販では、その店の事情はほとんどわからない。何か理由が書かれていたとしてもその真偽を確かめるすべは無い。だから逆に何をやってもよいのだ、それがネット業者のアドバンテージだと思われているのだとしたら、それはあまりにも歪んでいる。歪みの隙間に日本経済活性化の特効薬があるのだとしたら、そんな経済は先に行ってどんなことになるかしれたものではない。

 医薬品販売の問題としては、もちろん消費者の側のリスクの問題が最重要だが、しかしもしかしたら逆のリスクも考えておかなくてはならない。つまりお客の側が悪意を持っている可能性もあるということだ。
 たとえば直接店に行って薬を買う場合、必要以上に大量に買うのは大変だ。一軒の店で大量購入したら怪しまれるし、多くの店を回って買うのも時間と体力がいる。その点、ネットでは比較的身元を隠しやすいし、また多くの店で買うのも簡単だ。いくら毒性の低い市販薬であっても大量に使えば危険な使い方もできるようになるかもしれない。だから具体的にどんな問題が起こるのかと聞かれても困るが、原発事故がそうであったように、我々が想定していない思いがけない事件・事故が起こされる危険性もあるのだ。

 小泉改革の時に、我々は「規制緩和」というものがどれほど社会を破壊するかを目の当たりにしたはずだ。「経済成長、経済発展」という言葉は甘美な響きを持っているのかもしれないが、それこそがまさに強い副作用を持った危険な劇薬である。そのことは忘れてはならない。
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