北海道大学を休学中の学生がイスラム国に参加するために出国を計画し摘発された。今のところ逮捕はされていないようだが。
まだ謎が多い話だ。この学生は北大だから普通の感覚ではエリートである。しかし休学して上京し、ツイッターで知り合った都内の30代の男性のところで同居生活をしていた。ここには全部で四人が住んでいるという。
ぼくの感覚で言うと何らかの組織に加盟して、その組織の指令で東京に移動してアジトに入ったようにも見えるのだが、今のところそうした背景については何も明らかになっていない。マスコミの情報は基本的に公安警察の情報を元にしているのだが、それによると「勧誘」されたのは秋葉原の古書店であるとされている。
この店は秋葉原駅直近のPCやパーツショップが入る雑居ビルの中に今年できたばかりの古書店で、地域柄というか、まさにサブカル専門店のように見える。ただいわゆるアニメオタクとは少し違った感じで、自ら「秋葉の怪しい古書店」を名乗り、SF小説を中心に、コミックや学術書、医療器具、人体解剖図、ハンディングアクションゲームなども販売しているそうだ。
問題の店内に張り出されていた「求人広告」には次のように書かれている。
─以下引用──
求人
1.
勤務地:シリア
詳細:店番まで
2.
勤務地:新疆ウイグル自治区
職種:警備員
資格:日本国籍
給与:月額15000元
備考:中国語不要
暴力に耐性のある方
面接思想チェックあり
詳細:店番まで
※当店とは関係ありません
─引用終わり──
問題となっているのは「1」なのだが、不思議なのは「2」の方だ。これはイスラム勢力を排除するための実力部隊の隊員募集と読める。現地に進出している日系企業の警備要員なのかもしれない。下との関連で読めば「1」の方も、普通はイスラム国、もしくは自由シリア軍などの脅威に対抗するための人員募集と考える方が自然だろう。
はてしてこれを見て、取り調べを受けている学生はイスラム国の兵士の募集だと思ったのだろうか。うがって考えればむしろ逆なのではないのか。たとえば学生はもっと別のところでイスラム国への参加を考え、そのための渡航の手立てとしてこの募集を利用したのかもしれない。実はイスラム国のリクルート組織など存在していない可能性がある。
そもそも公安警察の発表をどこまで信じてよいのか。そこに何らかの別の意図が隠されているのではないのか。ほとんど情報がない中で推察を重ねても妄想にしかならないから止めておくが、とにかく腑に落ちない話なのである。
ただイスラム国や自由シリア軍に、すでに複数の日本人男女が参加しているという話は何度か出ている。いてもおかしくはないが、言語の壁があり、それなりに渡航が難しい地域だから、本当に何も考えておらず何の能力も無い人がそこまでたどり着くのは大変だろう。そうするとやはり日本からそこに参加できるのはエリート・インテリなのかもしれない。
西欧においてもその傾向があると、次のような記事が伝えている。
IS加入の白人インテリ層 母国で居場所なく自分探しがきっかけ
エリート・インテリがテロに関わるというと、どうしてもオウム真理教を思い出す。そしてさらには60年代から70年代の新左翼運動での爆弾闘争やテロル、内ゲバにもつながってくる。
ぼく自身は「遅れてきた左翼」で、本格的に活動し始めたのは80年代になってからだが、爆弾はともかく、デモの先頭で機動隊に突っ込み公務執行妨害、凶器準備集合で逮捕され有罪になったことがある。ぼくが新左翼運動と初めて直接関わったのも大学の中のことだった。
かつて日本赤軍はパレスチナに飛び、イスラム系の解放運動とも連携して戦闘に参加した。世代が違うから直接知っているわけではないが、ぼくが参加した組織は旧赤軍派と比較的近く、組織の中では、現在収監中で闘病されている重信房子氏の話などよく聞かされた。
イスラム国の話題になるとよく日本赤軍と比較されるのだが、しかしおそらく現在のイスラム国とかつての日本赤軍とでは決定的に違うところがある。それは誰のため、何のために戦うのかという目的である。
大雑把に「正義、大義のため」とか「信念のため」などと言ってしまったら、それはそうかもしれない。しかしそれならアメリカ軍でも中国軍でも同じことになる。そうではなくて、もう少し卑近な話だ。
たとえばイスラム国の兵士には給料や住宅が提供されるという。つまりこれはひとつの就職活動になる。さらに言えばイスラム原理主義者は殉教によって天国に行くことができるされる。現世利益でこそ無いが、これは来世の自分にとっての利益となる。またそれによって家族も救われるという。これはつまり自分のためではないか。オウム真理教の信者にも少し似たところがある。彼らは自分が救われるための修行をし、与えられた教義に従って行動した。
しかしマルクス主義者は自分で答えを出さねばならなかった。(ぼくはマルクス主義もまた広義の意味での宗教だと考えているが、煩雑になるのでその議論は今回は置いておくことにする。)論理の果てに実践があった。マルクス主義には天国も来世もない。奇跡も安寧すらない。確かに社会主義国(ぼくらはスターリン主義国家と呼んだが)にいたら、共産党党員として認められ出世したら特権階層になれるかもしれないが、我々のような反体制の少数派に待っているのは弾圧だけだ。
それでも戦ったのは人類の未来のためだった。自分は滅びるしかないが、捨て石となって時代を先に進めなければならないという近代人(もしくは脱近代人)としての義務感で、何の利益もない戦いに身を投じたのである。
しかし残念ながらマルクス主義は敗北した。社会から排斥された。もちろん一番悪いのはマルクス主義者自身である。しっかりした思想を鍛え上げることができず、逆風の中で自ら瓦解したのである。
とは言え、ポスト冷戦世界が近代と、その継承者であろうとしたマルクス主義を排斥した結果、論理ではなく教義によって存立する勢力の台頭を導き、さらに今回のイスラム国参加希望者のように、イスラムの教義すらおそらく関係なく、ただ感情のおもむくまま既存世界を破壊することだけで集合するような勢力の拡大を許しているのである。
近代社会が近代の根幹である論理性と理性を排除してしまった。それは近代の劣化であり、我々はもう一度、論理と理性を取り戻さなくてはならないのではないのだろうか。
まだ謎が多い話だ。この学生は北大だから普通の感覚ではエリートである。しかし休学して上京し、ツイッターで知り合った都内の30代の男性のところで同居生活をしていた。ここには全部で四人が住んでいるという。
ぼくの感覚で言うと何らかの組織に加盟して、その組織の指令で東京に移動してアジトに入ったようにも見えるのだが、今のところそうした背景については何も明らかになっていない。マスコミの情報は基本的に公安警察の情報を元にしているのだが、それによると「勧誘」されたのは秋葉原の古書店であるとされている。
この店は秋葉原駅直近のPCやパーツショップが入る雑居ビルの中に今年できたばかりの古書店で、地域柄というか、まさにサブカル専門店のように見える。ただいわゆるアニメオタクとは少し違った感じで、自ら「秋葉の怪しい古書店」を名乗り、SF小説を中心に、コミックや学術書、医療器具、人体解剖図、ハンディングアクションゲームなども販売しているそうだ。
問題の店内に張り出されていた「求人広告」には次のように書かれている。
─以下引用──
求人
1.
勤務地:シリア
詳細:店番まで
2.
勤務地:新疆ウイグル自治区
職種:警備員
資格:日本国籍
給与:月額15000元
備考:中国語不要
暴力に耐性のある方
面接思想チェックあり
詳細:店番まで
※当店とは関係ありません
─引用終わり──
問題となっているのは「1」なのだが、不思議なのは「2」の方だ。これはイスラム勢力を排除するための実力部隊の隊員募集と読める。現地に進出している日系企業の警備要員なのかもしれない。下との関連で読めば「1」の方も、普通はイスラム国、もしくは自由シリア軍などの脅威に対抗するための人員募集と考える方が自然だろう。
はてしてこれを見て、取り調べを受けている学生はイスラム国の兵士の募集だと思ったのだろうか。うがって考えればむしろ逆なのではないのか。たとえば学生はもっと別のところでイスラム国への参加を考え、そのための渡航の手立てとしてこの募集を利用したのかもしれない。実はイスラム国のリクルート組織など存在していない可能性がある。
そもそも公安警察の発表をどこまで信じてよいのか。そこに何らかの別の意図が隠されているのではないのか。ほとんど情報がない中で推察を重ねても妄想にしかならないから止めておくが、とにかく腑に落ちない話なのである。
ただイスラム国や自由シリア軍に、すでに複数の日本人男女が参加しているという話は何度か出ている。いてもおかしくはないが、言語の壁があり、それなりに渡航が難しい地域だから、本当に何も考えておらず何の能力も無い人がそこまでたどり着くのは大変だろう。そうするとやはり日本からそこに参加できるのはエリート・インテリなのかもしれない。
西欧においてもその傾向があると、次のような記事が伝えている。
IS加入の白人インテリ層 母国で居場所なく自分探しがきっかけ
エリート・インテリがテロに関わるというと、どうしてもオウム真理教を思い出す。そしてさらには60年代から70年代の新左翼運動での爆弾闘争やテロル、内ゲバにもつながってくる。
ぼく自身は「遅れてきた左翼」で、本格的に活動し始めたのは80年代になってからだが、爆弾はともかく、デモの先頭で機動隊に突っ込み公務執行妨害、凶器準備集合で逮捕され有罪になったことがある。ぼくが新左翼運動と初めて直接関わったのも大学の中のことだった。
かつて日本赤軍はパレスチナに飛び、イスラム系の解放運動とも連携して戦闘に参加した。世代が違うから直接知っているわけではないが、ぼくが参加した組織は旧赤軍派と比較的近く、組織の中では、現在収監中で闘病されている重信房子氏の話などよく聞かされた。
イスラム国の話題になるとよく日本赤軍と比較されるのだが、しかしおそらく現在のイスラム国とかつての日本赤軍とでは決定的に違うところがある。それは誰のため、何のために戦うのかという目的である。
大雑把に「正義、大義のため」とか「信念のため」などと言ってしまったら、それはそうかもしれない。しかしそれならアメリカ軍でも中国軍でも同じことになる。そうではなくて、もう少し卑近な話だ。
たとえばイスラム国の兵士には給料や住宅が提供されるという。つまりこれはひとつの就職活動になる。さらに言えばイスラム原理主義者は殉教によって天国に行くことができるされる。現世利益でこそ無いが、これは来世の自分にとっての利益となる。またそれによって家族も救われるという。これはつまり自分のためではないか。オウム真理教の信者にも少し似たところがある。彼らは自分が救われるための修行をし、与えられた教義に従って行動した。
しかしマルクス主義者は自分で答えを出さねばならなかった。(ぼくはマルクス主義もまた広義の意味での宗教だと考えているが、煩雑になるのでその議論は今回は置いておくことにする。)論理の果てに実践があった。マルクス主義には天国も来世もない。奇跡も安寧すらない。確かに社会主義国(ぼくらはスターリン主義国家と呼んだが)にいたら、共産党党員として認められ出世したら特権階層になれるかもしれないが、我々のような反体制の少数派に待っているのは弾圧だけだ。
それでも戦ったのは人類の未来のためだった。自分は滅びるしかないが、捨て石となって時代を先に進めなければならないという近代人(もしくは脱近代人)としての義務感で、何の利益もない戦いに身を投じたのである。
しかし残念ながらマルクス主義は敗北した。社会から排斥された。もちろん一番悪いのはマルクス主義者自身である。しっかりした思想を鍛え上げることができず、逆風の中で自ら瓦解したのである。
とは言え、ポスト冷戦世界が近代と、その継承者であろうとしたマルクス主義を排斥した結果、論理ではなく教義によって存立する勢力の台頭を導き、さらに今回のイスラム国参加希望者のように、イスラムの教義すらおそらく関係なく、ただ感情のおもむくまま既存世界を破壊することだけで集合するような勢力の拡大を許しているのである。
近代社会が近代の根幹である論理性と理性を排除してしまった。それは近代の劣化であり、我々はもう一度、論理と理性を取り戻さなくてはならないのではないのだろうか。
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