5.
天上界で、神々は大騒ぎです。アルルの女王のもとに使者が送られ、エレシュキガルはイシュタルの釈放を認めました。タムムズ(ドゥムジと同じ)は、一年に1回だけ地上に帰ることが出来ることになりました。その時には様々な祭儀が催される。今でも、ドゥムジ月(6月から7月)にニネヴェで行われるこの儀式では、ドゥムジの像が沐浴、塗油され、正装安置される。
小さなイシュタルは第七の門でロープを取り戻した。偽りと邪悪な陰謀は逃げていった。また暗闇を歩いて第6の門で手足の腕輪を受け取った。物質的な蓄財と富裕は消え、イシュタルは元々の万物の所有者となった。第5の門では腰帯を受け取った。彼女は分別と繊細な優しさを取り戻した。
第4の門で胸飾りを受け取り、野心は砂糖菓子のように溶けていった。再び歩きつづけ第3の門で、深い海の底で生まれた真珠のネックレスを受け取った。心に居座った情欲という感情は、正しい理性に変わった。
第2の門、そこでイシュタルは太陽と月のイヤリングを取り戻した。策謀、欺き、奸計を及ぼす知力は、正しい智慧と変わった。最後の門では、偉大な王冠を取り戻した。種々の花や果実で出来た王冠は、枯れて死んでいたように見えたが、イシュタルが手にすると花は咲き、見事な果実がたわわに実って現れた。実在界は地上に反映し、その瞬間神々も地上のすべてが、イシュタルが復活したことを知った。
今や、深淵を抜けんとする天と地の境界で、彼女は首飾りを手にするとそれをバラバラにし、天と深淵にむかって投げつけた。
天にむかったイシュタルの珠は、元々の元素である水となった。蒸気に満ちた空気から水滴が生じ、水滴は雨となって大地に落ちた。天と地は2つに分かれ、空に初めて虹がかかった。
深淵にむかった珠は、イシュタルの分身となった。珠の一つ一つに光の性質と、自然と混じり合って得た万物を生み出す力を持っていた。イシュタルの珠は、深淵に散らばり、アルルの女王エレシュキガルがイシュタルの子らを受け止めた。
「イシュタル、わが妹よ。お前からの贈り物をいただこう。お前は王冠を取り戻し、太陽と月の耳飾りを取り戻し、首飾りを取り戻し、胸飾りを取り戻し、腰帯を取り戻し、手足の腕輪を取り戻し、その身を覆うマントを取り戻したが、この界がお前を染めたものをお前は持ち続けることになるだろう。お前はわがアルルで自由という果実を手に入れたのだ。お前は善なるものにも悪なるものにもなれる自由を手に入れた。お前は今から両極のバランスの上を歩まねばならない。神々でさえ、肉体を持ったときには危険と隣り合わせになるだろう」
エレシュキガルの声が低く、アルルの界を流れてゆきました。