5.
やっと父を説き伏せたイシュタルは、天の牛の手綱を手にウルクへ入った。ウルクの街は大騒ぎだ。ギルガメシュとエンキドゥに使いが飛び、二人の勇者は駆けつけた。
ユーフラテス川のほとりで天の牛が鼻息を吹き出すと、地面に深い割れ目ができ、ウルクの若者が百人、ついで2百人、そして3百人と落ちていった。天の牛がふたたび鼻息を吹き出すと、もうひとつの割れ目が口を開け、またもウルクの若者が、百人、2百人、3百人と落ちていった。
天の牛が3度目の鼻息を吹き出すと、こんどもひとつの割れ目が口を開け、エンキドゥが腰まで落ちた。けれどもエンキドゥは飛び上がり、天の牛の角をしっかとつかまえる。
天の牛はエンキドゥの顔に向かって涎を吐きかけ、その太い尾で自分の糞をはね飛ばした。
エンキドゥは、天牛を追い回す。そしてその太い尾をつかんだ。
「友よ、さあ、天の牛の首筋、角、眉間にあなたの剣を突き刺すのだ」
ギルガメシュは、家畜を屠る人のように力強く、首筋、角、眉間に彼の剣を刺し通した。
天牛は地響きをあげて大地に倒れ、その騒音が天にまで届いた。
彼らは天牛を撃ち殺した後に、その心臓をつかみだしシャマシュの前にそれを置いた。
彼らは遠く離れ、シャマシュの前にひれ伏した。二人は兄弟として腰を下ろした。
イシュタルは、羊を囲う街ウルクの城壁に駆け上り、くぼみに跳び入り、呪詛を投げかけた。イシュタルの歌は、諸界を通り抜け父アヌに届くだろう。
「ああ、わたしを侮辱したギルガメシュが天の牛を殺した!」
エンキドゥはイシュタルのこの歌を聞き、天の牛の腿を引き裂いて彼女の肩に投げつけた。
天なる女神の言葉は、この実在界に実現せざるを得ないだろう。
かえす言葉でエンキドゥが言う。
「お前も征伐してやろう。これと同じように、お前にもしてやろう。そのはらわたをお前の脇にぶら下げてやろう」
イシュタルは髷女たちを集めた。娼婦たち、聖娼たちを。
彼女たちは天牛の腿の前で嘆きの儀式を行った。
天の父アヌとイギギの神々が、この有様をご覧になれるように・・・と。
女たちの嘆きの声は、たしかに届いた。
エンキドゥは、その夜不吉な夢をみる。