渡部昇一さん著「皇室はなぜ尊いのか」
渡部昇一氏がドイツに留学されていた頃の事、対日感情が良かったのでしょっちゅう向こうの家庭に呼ばれたそうです。
以下抜粋
そのうちの一軒で、ある日、「君の国には戦争中、テノー(天皇)というのがいたな。あの人はどうしているんだ?」と聞かれた。
「戦前も戦中も、いまも同じです」 と答えたら、先方はたいへんに驚いた。負けた国で一番上にいた君主が敗戦後も同じ地位にあることなど考えられなかったのだ。
第一次大戦中に革命が起こったロシアでは、皇帝が殺された。戦争に負けたドイツは、皇帝がオランダに亡命し、同じく敗戦国のオーストリーは皇帝が廃された。第二次大戦でも、ルーマニア、イタリアで王様がいなくなった。
ところが、あれだけの大きな戦争をやって負けた日本で、君主が同じだというのは尋常ではないと、そのドイツ人は感じたらしい。
ドイツで最後の皇帝となったヴィルヘルム二世は、第一次大戦の敗戦後、オランダに逃げた。当時は戦争犯罪裁判がなかったので死刑台に吊されはしなかったが、国内にいれば革命勢力のドイツ人に殺されたかもしれない・・
くだんのドイツ人は、「日本はトロイな国民だ」と表現した。「トロイな国民」 とは「忠実な国民」・・この「忠実」には「忠誠を忘れなかった」というニュアンスがある。彼は「忠実な日本人を尊敬する」と言った。
・・・ドイツ留学中のわたしは、このときひらめいた。
「皇室がお国自慢の種になるのではないか」
トロイ遺跡をドイツ人のシュリーマンが発見した・・ドイツで一番有名なギリシア神話はトロイ戦争だ。
トロイ戦争の英雄であるアガメムノンはミケーネの王様で、ギリシア軍を率いた総大将、王のなかの王であることは知られている。
そのアガメムノンの父親はプリステネス、その親がアトレウス、その親がペロプス、その親がタンタウルス。タンタウルスぐらいになると神話の時代になり、タンタウルスの親がギリシア神話の最高神、ゼウスである・・
日本もまた、初代神武天皇の上は神話につながっている。
・・神武天皇から五代さかのぼると皇室の先祖として崇められている伊勢神宮の神様に辿り着くことを伝え、「アガメムノンの子孫がいまもギリシア国王だったらどうであろうか」と問うた。
誰もがアガメムノンを知っているし、いまのギリシアの状況も知っているから「ああっ」という表情になる。
・・・・じつに効果的だった。・・ドイツに続いてイギリスへ留学したが、イギリス人のほうがもっとピンと来るところがあった。まだ王様がいるからだ。現在のイギリス王家は、1714年にドイツから来た人に始まる。
日本の皇室と比べたら、昨日できた王家のようなものである。
1960年代の高度成長を経て世界第2位のGDPを有するようになった日本に対して、ヨーロッパ人の受け取り方は、「急に金持ちになった新参者め」という感じだった。ところが、このレトリックを出すと、「ああ、旧家だったのか」というふうに変わった。旧家というものはそれだけで尊敬を受ける。
「日本は旧家」というイメージを外務省も使うべきだと思うのだが、有効に使った例を知らない。
第2次大戦に負けても、日本では天皇が変わらなかった。・・世界の歴史において「奇跡」といってもいい・・さらに「奇跡」と呼ぶべきは、天皇が終戦直後、日本人を守る事ができたこと、ご巡幸の先ではどこでも歓迎を受けたこと、ご巡幸でほとんどSPがつかなかったのに危害が加えられなかった。
「日本はすべて困難のなかにあるけれども、ただ一つ動かない安定点は天皇である」と当時のイギリスの新聞が書いた。
・・・
天皇陛下は敗戦後だけでなく、戦争中も動かれなかった。このことを、戦後しばらく経ってから、「インディペンデント」というイギリスの高級な新聞が「日本の天皇は自分が征服したところに出かけなかった」とわざわざ書いていた。
「日本の天皇陛下が軽々しく動かれない事は大きな外交資産である」というようなことを、昔の外務省の人が書いていたのを読んだこともある。
「日本の天皇は動かない」ということから、たとえばシナ人などには「天皇に会うと格が上がる」という感じがある。
先年、中国の習近平副主席が来日したとき、民主党の小沢一郎幹事長に働きかけて強引に天皇陛下に拝謁した。「天皇と会った」ということが、中国で後継者となれるうえで有利に働いたのだろう。
「天皇は軽々しく国外に行かない」という伝統は、良き伝統だと思う。
これを崩して平成4年(1992年)10月に天皇訪中を実現させたのが宮沢喜一内閣であり、中心となったのは加藤紘一官房長官である。
・・・1992年の「朝貢」は「ついに日本が、中国に降参した」という意味をもっていた。
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蒋介石、毛沢東、周恩来、それから小平も、日本を好きだったとは思わないが、少なくとも日本を舐めることはなかった。むしろ畏敬の念があったと思う。しかし、天皇陛下が訪中してからはダメである。それは江沢民を見ればいい。傲慢無礼、皇室の晩餐会に呼ばれても、服装をちゃんとしない。しかも、その席でこの前の戦争の話しをぶったりする、無礼極まる。
これは「家来になった奴の家に来てやったんだ」という態度である。
ヨーロッパの国々は、元首が訪ね合う。相互に往来するという観念があるところには、いくらいらっしゃってもかまわない。しかし、そういう観念のないところには、絶対にいらっしゃってはいけない。
少なくとも「中華」「朝貢」という伝統がある儒教国へのご訪問は、欧米のような「親善」にはならない。
・・と渡部昇一さんのご本「皇室はなぜ尊いのか」に書かれていました。
なーるほど、納得しちゃいました。