┌◆【1】◆ 不思議な入社試験 ◆
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どんな企業でも、お客様への「感謝」というのは当たり前のことのように言われています。「有難うございます」も、ぶっきらぼうではなく、心が込められていなければなりません。そのような本当の意味で心から感謝をしている、そんな社員教育が出来ている企業がどれくらいあるでしょうか?
ある会社の社長さんは、自社の社員を見ていて、次のようなことに気づかされたそうです。
「一生懸命に社員教育で規則やノウハウばかり教えているけれども、社員の心が豊かにならないと形だけになる、本当にお客様に喜んでもらえないし、組織は活性化しないのでは・・・。
理屈だけでは人は動かない、“本当の感謝とは何か?”を社員に実体験させてこそ、お客様に心から感謝できる社員が育つのではないか・・・。」
このことに気づいた社長さんは、毎年の入社試験の最後に、学生に次の2つの質問をするようにしたそうです。
まず、学生に向って尋ねます。
「あなたは、お母さんの肩たたきをしたことがありますか?」
この問いに、ほとんどの学生は「はい」と答えるそうです。
次に、
「あなたは、お母さんの足を洗ってあげたことありますか?」
これにはほとんどの学生が「いいえ」と答えるそうです。
「それでは、3日間差し上げますので、その間に、お母さんの足を洗って報告に来てください。それで入社試験は終わりです」
学生達は、「そんなことで入社できるのなら」と、ほくそ笑みながら会社を後にするそうです。
ところが家に帰って、実際にやろうとすると、母親に言い出すことが、なかなかできません。
ある学生は、2日間、母親の後をそわそわとついてまわり、母親から「おまえ、どうしたの、気でも狂ったの、何かおかしいねぇ?」と聞かれてしまいました。
ついに息子は思い切って話します。
「いや、あの~、お母さんの足を洗いたいんだけど」
それに対し母親は言います。
「なんだい?気持ち悪いねぇ。」
こうしてその学生は、ようやく母親を縁側に連れて行き、たらいにお湯を汲み入れました。
そして、お母さんの足を洗おうとして、お母さんの足を持ち上げた瞬間・・・。
母親の足の裏が、あまりにも荒れてひび割れているのを手で感じて絶句します。
その学生ははじめて気がついたのです。そして胸が一杯になりました。
「うちは、お父さんが早いうちに死んでしまって、お母さんが死に物ぐるいで働いて、自分と兄貴を養ってくれた。この荒れた足は、自分達のために働き続けてくれた足なんだ。」
そして思わず小さな声でひとこと言うのが精一杯でした。
「お母さん、長生きしてくれよな」
それまで、息子の「柄にもない親孝行」を冷やかしていた母親は、「ありがとう」と言ったまま黙り込んでしまいました。
息子は足を洗い続けます。その手の上にポトリ、ポトリと落ちてくるものがありました。母親の涙でした。
学生は、母親の顔を見上げることができなくなって、「お母さん、ありがとう」と言って部屋に引きこもったそうです。
そして翌日、会社に報告に行きました。
「私はこんなに素晴らしい教育を受けたのは初めてです。社長、本当にありがとうございました。」
社長は言いました。
「君は一人で大人になったんじゃない。両親をはじめ、いろいろな人に支えられて大人になったんだ。
これからも、自分一人の力だけで一人前になるのではないんだよ。
私自身も、お客様やスタッフや、いろいろな人達との出会いの中で、一人前の社会人にならせていただいたんだよ。」
(資料)矢島実「涙と感動が幸運を呼ぶ」(ごま書房新社)
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