韓国の躍進と日本の優位性
http://www.fis.takushoku-u.ac.jp/research/sekai/sekai11/sonfa.html
呉 善花(拓殖大学国際学部 教授)
「韓国の躍進に対する日本の凋落」ということが盛んにいわれている。少なくともメディア上では、であるが。それはともかく、韓国の業界再編成によって生みだされた巨大独占企業による海外への集中的な資本投資が、功を奏しているのは確かである。これを背景に、今のところは徹底した現地化による海外販売戦略が成功しているといえるだろう(サムスン電子やLGの海外売上高比率は優に8割を超える)。
韓国の代表的企業サムスン、LG、ヒュンダイなどが、これほど海外に活動の場を獲得できているのは、なによりもまず国内に同一業種の競合企業がほとんどないためである。それに対して日本では、多くの企業が同じ土俵のなかでしのぎを削りあっている。
たとえば、日本では自動車は10社ほどが、携帯電話は6社ほどが国内で競い合っているが、韓国ではいずれも2社で国内市場を圧倒的に独占している。また、日本最大の企業トヨタの売り上げのGDP比は3.9%にすぎないが、韓国最大の企業サムソン電子の売り上げのGDP比は13%もあり、ヒュンダイ、LGを入れると3社で実に20%ほどとなる(いずれも2009年連結決算)。
国家政策によるこうした極度の寡占化によって、韓国の大企業は国内で上げた利益を研究開発、設備投資、海外市場開拓などに心おきなく回すことができる。この点で韓国の大企業は、日本の大企業よりも断然有利な条件を手にしているのである。
ということから、これでは韓国には追いつけない、日本も韓国のように業種別に企業統合を推し進め、海外への集中投資を強める戦略へと転換を計らなくてはならない、という主張が出てくることにもなっている(『日本経済新聞』2010年3月4日の社説など)。
それでは韓国経済に悩みがないかといえば、そんなことはない。正反対だとさえいえるのである。
ウォン安頼りの極端な輸出依存体質(2010年でGDPに占める割合43.4%)、海外借入金とGDPがほぼ同じという借金漬け自転車操業体質、国内で稼いだ利益を海外へ投資し海外で得た収益を海外に留め置いて国内を潤さない歪んだ収益構造、巨大企業と一般企業との賃金格差の著しい拡大、時間あたりの労働生産性の低さ(日本の約4分の1)、石油消費効率のあまりにもの悪さ(OECD 加盟国中最低)など、目白押しの状態である。
韓国経済はこのようにたくさんの悩みを抱えているのだが、なかでも最も大きいのは、独自の高度技術がないことをめぐる諸問題である。
たとえば李健煕(イ・ゴンヒ)サムソン電子会長は「外見では三星(サムソン)がリードしているように見えるかもしれないが、中身(部品)で日本に追いつくためには、まだ多くの時間と研究が必要だ。学ぶべきことは多い。ずっと学んでいかなければいけない」と率直に語っている(『中央日報』2011年1月11日)。
これはけっして「外交辞令」などではない。切実なる本音である。ここに韓国企業最大の弱点があり、いつまた経済危機が訪れるかもしれない状況から容易に離れられない根本的な要因がある。それは何かといえば、経済成長初期時代から今に至るまで続いている、独創的な技術が開発できずにキャッチアップへと向かう体質である。
韓国は当初から、独自技術が弱いために主として日本から資材や部品を輸入し、日本から輸入した工作機械で組立てて製品を作り輸出してきた。この構造に今なお変わりがないため、依然として韓国は輸出で稼ぐ一方で膨大な対日貿易赤字を年々増やし続けており、容易に資材コストの削減ができず、独自技術が発展しないというジレンマから脱却することができていない(2010年の韓国貿易黒字約3兆3800億円に対して対日貿易赤字は約2兆8300億円で過去最大を記録している)。
こうした基幹部品を海外に頼る構造は、韓国企業のあらゆる分野に見られる特徴であり、国内で生産できても大きな特許料がかかってくることになる。たとえば、液晶テレビの基幹部品でみると、偏光板やカラーフィルターでは日本企業が世界市場の70〜75%を占めており、ガラス版では日米企業で95%、液晶では日独企業で80%という占拠率である。それに対して、たとえば半導体の非メモリー分野での核心部品の韓国国産化率をみると、8分野のうち4分野で0%という状態である。そのため、サムソン電子やLGが支払う特許料は膨大な額におよぶ。これが特許侵害事件を多発させることにもなっていて、1999年以降に「米国に支払った制裁金が多い企業10社」のうち4社が韓国企業である(2010年「全世界国際カルテル罰金順位現況」)。
製作技術に劣り、技術的な創造性に乏しい韓国企業は、いうまでもなく後発企業に追いつかれやすい。たとえばこの4年の間に、韓国が世界1位を誇っていた21品目で中国に1位の座を奪われている。現在の韓国企業は、低・中級技術製品では中国やインドに追われ、高度技術製品では日本に追いつけないという、前後からの挟撃状態にある。韓国の大企業はいずれも、ここから脱出していくことができない限り、「先がない」ところへ追いつめられているのが現状である。
韓国企業の生産の中心は、低・中層所得者向けの家電・自動車などの生活スタンダード製品であり、なによりも価格競争力の強さで日本をしのいでいる。それに対して日本の高度技術製品は、真似のできない技術的ブラックボックス化によって、非価格競争力がきわめて強く、したがって高価格が維持でき、しかも技術的に韓国・中国・台湾などの企業が容易に追いつけない位置に立っている。
現在のアジア工業製品生産世界に起きていることは、高度技術製品(素材、部品、装置)の日本への特化、低・中技術の最終組み立て製品の韓国・台湾・中国への集中という動きである。新興国が勃興している当面の課題では韓国・台湾・中国が優位だが、近い将来の課題では日本が圧倒的に優位に立っていることはいうまでもない。
戦後日本の産業社会はその全盛期にあって、工業化推進を軸とする商品集中市場を形づくってきた。産業化推進時代の生産は、生活スタンダード製品を全国的に、さらには世界的に普及させていくことが中心であった。その大規模かつ長きにわたる展開が、国内の交通や水光熱など各種の生活インフラを整備・充実させ、また文化、教育、医療などを充実化させてきたのである。
現在、韓国が、それに続いて中国が取り組んでいるのは、そうした産業化推進時代における国をあげての生産活動である。韓国・中国の本当の意味での豊かな社会への躍進は、その先に待ち受けている未踏の課題といかに向き合うかにかかっているのである。
しかし日本ではすでに豊かな社会を形づくり、生活スタンダード製品が普及し終わった後を受けての、より快適な文化と環境を生み出す生産が中心となっている。そしてこれが、これからのアジア諸国を含めた世界的なテーマとなっていくことに疑いはない。さまざまな文化を演出できる多彩な空間を生み出し、豊かな生活空間としての社会環境・自然環境を生み出していく生産、それがこれからの社会に求められている企業活動である。現在から将来へかけての、文化、環境、医療、インフラ、もてなし、観光などのビジネス分野での牽引車として果たすべき日本企業の役割はすこぶる大きいといわなくてはならない。
呉 善花(オ ソンファ)
略歴:東京外国語大学大学院修士課程修了。1994年から執筆活動を開始し、新潟産業大学非常勤講師を経て、2000年から拓殖大学日本文化研究所客員教授に。
時代遅れで申し訳ないんですけど
先日、テレビを見に行って「安さにびっくり」
日本のメーカーが 韓国のサムソンに負けて 撤退! ウソ!!!
日本のメーカーだったら故障したら修理してくれるけど
サムソンは パソコンみたいに 壊れたら 買い替え になるんじゃない?
安いということは当然そうなる。
「安物買いの銭失い」 と言います。